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失ったものを


「少女趣味の殺人鬼が、女に貢ぐ父親になっちまった」マリウスが吐き捨てた。


「黙って。奴は極悪人よ」ジーラはギルドの地下で、肩にかけた巨大な戦斧の柄を握りしめた。「ハリスが殺されているのよ。このまま野放しにしておくと、ドモンジョはきっとまた罪を犯すわ」


「あるいは愛する娘を救いに」


「あなたはあの可愛い娘ちゃんに腕を取り戻してもらえた。羨ましいわ、マリウス。私には恋人を生き返らせる術はない」


「馬鹿言うな。俺だって親友を失っている」


 三日前の夜に捕らわれて以来、サラサは独房に閉じ込められている。しかし手枷と足首の鎖は外され、温かい食事も出された。彼女の世話はロベリアが担当していた。だが今夜ラッセル兄妹はギルドに不在だった。マリウスの紹介で新しい宿に身を置いて休んでいる。明日はその二人が見張りを務める、というのがギルドマスターの命だった。


 ジーラはサラサに合わせる顔がなかった。それでもドモンジョの逃走を手助けしていたと思うと、許せなかった。念話テレパシー能力者が力を使うとき、余程熟練した人物でない限り独特の所作が必要となる。それは魔法の詠唱に近いもので、ジーラは昔、目を閉じないと遠くの相手に意思を伝えられなかった。火猫ファイアキャットに化けて女中を観察しているとき、ルークたちが来た。すると女中が耳を塞ぐのを、彼女は見た。周囲を魔力で感知してみると、対象から念波が発せられているのが感じられた。そして分身による自爆。二人は無事だったが、ハリスとマリウスの突入時にも、そうやって待ち伏せされていたのだろう。


 だからといって拷問をしても婚約者を失った痛みは消えない。少女を痛めつけて、自分自身も削られる思いがした。今も彼女は、保護という名目でドモンジョに対する人質となっている。そしてジーラは、彼女の父親を殺すつもりなのだ。


「俺たちがドモンジョに復讐して、その悲劇でサラサの心が壊れてしまったら?」


「そのときは魔術師ファーギンに頼むわ」


「記憶の忘却、あるいは改変を? だが高くつくぜ」


「それはドモンジョの懸賞金を――」


「おい、警戒だ」


 殺気。ジーラは牢屋の扉を開けて中に入った。マリウスは入り口を見張っている。起きていたサラサがびくん、と硬直して彼女を怖れた。


 そのとき。


 破砕音がしてサラサの背後の壁がぶち抜かれた。石造りの壁が粉々になって、男が侵入してきた。その形相に怒りを込めて。


 ニコラ・ド・ドモンジョ。

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