あなたはサラサ
隻腕のマリウス・ジャリリは、ジーラの婚約者だったハリス・リーの元相棒で、若い頃からの親友だったそうだ。筋骨隆々の大柄な躰から想像もつかない弓の名手で、ギルドの狙撃手では彼に並ぶ者はいなかった。そのうえ、
「俺は近接も、魔法にも自信があった」
ハリスも同様に手練れの戦士で、しかし二人はドモンジョに破れた。
「あの女――ジャクリーヌには会わせないぜ」地下牢の扉の前で、ルークとロベリアを制した。
「ジーラさんはどこに行ったのですか?」ルークは尋ねて、「彼女のやり方より、ロベリアがうまく聞き出せるかもしれない」
「無理だな。ジーラは仮眠室で、夕刻の疲れを癒している。主に精神的なものだろう。彼女も人間だ。冷酷に振る舞っているが、怒りよりも情が上回るときもある」
「マリウスさん、取り引きをしませんか」ロベリアが手を伸ばして、マリウスに触れた。先の無い右肩に。「少しの間、サラサさんと話をさせてください」
緑色の輝きが彼を包み込んだ。治癒魔法。
「うああっ」マリウスは衝撃に呻いたが、すぐに息をのんだ。ロベリアの治癒魔法は一般のそれとはレベルが違う。傷口を塞ぐだけではなく、失った肉体を再生することもできるのだ。マリウスは生え代わった右腕を見つめ、震える声でいった。「これでまた弓を引ける……」
ロベリアはにっこり笑って手を離し、マリウスに言い含めた。「それでは、少しの間入ってもよろしいですの?」
「夜が明けるまでなら……」
「感謝しますわ」二人は地下牢に入って、すぐに彼女を見つけた。手錠をされ、足は巨大な鉄球に鎖で繋がれている。「サラサさん……」
彼女は起きていた。「ロベリアさん、ルーク様……」打ちのめされていたが、ロベリアの治癒魔法のおかげで無傷だった。心以外は。「私を……また拷問するのですか」
そのときルークに恐ろしい考えが浮かんだ。ジーラはまた、彼女を拷問するだろう。そしてロベリアは……、治しては、傷つける。生き地獄だ。
「そんなこと、もうさせませんわ!」ロベリアは彼女に近寄り、手を握った。「だから、話してください。ドモンジョの居場所を」
「そうしたら、あの人を捕まえるのでしょう?」
「あの男は、凶悪犯ですわ。仕方がないことです」
すると彼女は、ロベリアに懇願した。「お願い、お父さんを助けて!」




