涙を流す乙女
ルークはそれを見た。見慣れた光景。戦場では日常茶飯事な出来事。それでも驚きを隠せないのは、鞭で叩かれているのが見知った少女だったからだ。息を吐き、心に鎧を纏ってから、あらためて彼女を見た。《恋座目屋》の女中サラサが、ジーラに暴力を受けていた。拷問をされているのだ。固い椅子に縛り付けられて、ジーラが鞭を振るうたび、白い肌が血飛沫をあげて赤く染まった。
「ああああっ!」
苦悶の声を聞きながら、ルークは冷静に思い返した。《恋座目屋》でミーアを連れ帰ったサラサが、部屋から去った後に誘拐されたのだろうか? 僕たちが宿を出る前に。
ジーラは冷酷な表情で、何度も彼女を痛めつけている。ブロンドの髪が、返り血でまだらに変わっていた。ギルドマスターはそれをじっと見ている。
「どうやって彼女を連れ去ったのですか」ロベリアは冷静にギルドマスターへ尋ね、女中の少女とミーアを通して交流を深めていたのを思い返して、歯軋りした。
「化け猫さ」ギルドマスターは短く答えた。
「なんてこと……変身魔法していたのですか!」ロベリアは拳を握りしめた。
「ミーアか」ルークは呟く。火猫はギルドの人間に成り代わっていたのだ。
「そうだ。ドモンジョの待ち伏せと、宿の調査。奴の迎撃で生き残った君たちの監視のために。ジーラの演技は一流だ」
「なぜサラサさんを痛めつけているのですか、マスター?」ルークはすでにわかっている理由を尋ねた。
果たしてギルドマスターが、「彼女は内通者だ」ルークを見ていった。「ドモンジョの敵対者が来ると念話で伝えていた」
ジーラは潜入中それに気づいたのだろう。
「言いなさい。ドモンジョはどこにいる?」
サラサは歯を食いしばり、だだ痛みに耐えてジーラには一言も口を利かなかった。悲鳴以外は。
「うああっ……」




