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宿の実状

 酒場宿《恋座目屋》店主クジャキナは、特別魔法都市パンクラトフで、今悪名が轟いている盗賊ニコラ・ド・ドモンジョを匿っているという意識はないようだ。ロベリアは彼女の道徳心を疑ったが、この宿にも経営の労力があって、三人の若い女中を抱え、人々の酒盛り場を提供し、ルークたちのような冒険者や行商人、港湾の荷揚げ人足らの寝床を維持しなければならない義務があった。当然、都市憲兵たちが身柄確保にやって来たが、乗り込んだ全員がドモンジョ一人に返り討ちに遭って殺され、都市で指折りの実力者集団である《イングリッドの涙》の構成員が討伐に向かったが、敗走したのだ。つまりクジャキナや宿の女中たちは、


「ドモンジョに、強引に立て籠られている」


 というのだ。


「それでも、あの男は宿料としてまとまった金を払ってくれたのさ。他の客よりもかなり割り増した額をね。だからうちは、部屋へ食事を運んでいるのさ。幸い、客の連中や店の人間に危害は加えてこない」


 そもそもあんたらギルドのメンバーが、討ち取れなかったから今も居座っているんじゃないか、と婦人は不満を洩らし、二人は言い返すことができなかった。彼女からすれば一刻もはやく宿を救ってほしいのに、それが叶わないのだ。


「マダム、うちのギルドが都市からの依頼に失敗したことをお詫びします。ですが、僕らは新人のメンバーで、これまでの状況を十分に把握していなかったのです」


「ひよっ子なら、ここへ死にに来たのかい?」凶悪犯を討つことなど、尚更無理ではないか。クジャキナはルークを睨み付けた。


「いいえ」ロベリアは胸を張り、怪訝な顔をした婦人を見て誇らしげに言った。「昨日、ドモンジョの部屋に突入しましたわ。奴は反撃に失敗し、尻尾を巻いてこの宿から逃げたのです」


「なんだって?」クジャキナは瞠目した。


「サラサさんも、部屋がもぬけの殻なのを見ましたわ。尋いてみたらいかが?」


 マダムはもっと簡単な方法を見つけた。炊事場を飛び出し、二階の階段を駆け上がった。ドモンジョの部屋には、人の姿はなかった。


「なんてことだい……」女主人は、ただただ驚いていた。廊下で立ち尽くす彼女の足元に、火猫ファイアキャットが現れ、躰を擦り付けながら餌をねだって鳴き続けた。

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