表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
徒然なるママです。  作者: いもねこ
3/6

ミルクタイム

これはとあるママの気が向いた時に書くブログまがい。

基本的に読んでもらうために書いているのとはちょっと違うので、興味のない方はブラバしてください。

時間のある時にだけ、徒然と思っていること、覚えていることを備忘録として記載していきます。



「お風呂上がったらさ、ミルクタイムにしよう?」


素っ裸のまま、タオルを頭にかけた息子が意気揚々とそう提案した。熱った体からは湯気がでていて、高揚したかのようにほっぺは赤かった。


「ミルクタイム? みんなで牛乳を飲むってこと?」

「うん、それでね、乾杯するんだ」

「ふふっ、いいね。しよう、ミルクタイム」


娘ちゃんの頭をタオルでゴシゴシと拭きながら、私は息子の目を見ないでクスッと笑った。


「でも、まずはやるべきことをやってからね?」


未だ身体中びちょびちょである。息子くんは自分の体をチラッと見てからつまらなさそうに、はぁいと返事した。


こう言う時の息子くんは早い。


自分の体をさささっと拭いて、お気に入りの恐竜さん下着をガッと掴み、シャツなんか着ないでパジャマを手に取りあっという間に準備万端だ。


「さ、ミルクタイムしよ?」

「待って、待って。まだこっちの準備ができてないよ」


そうは言っても女二人は遅かった。なんせ息子くんが服を着る時間、私は娘ちゃんの長い髪をタオルでせっせと拭くので大忙しだったのだ。


「じゃぁ、あとでね」

「うん、もうちょっと後でにしよう」


息子くんはつまらなさそうに、はぁいと返事した。


次に私は娘ちゃんの服を着せるのに悪戦苦闘。

お風呂の度というか、お着替えの度に娘ちゃんワザと私から逃げ出すのだ。捕まえてズボンを履かせようとしたら足を広げ片足が入ったと思ったらバタバタと足を交互に振り上げて、あの手この手で服を着ない。


私の困った顔を見てにししと笑う娘ちゃんを「ミルクタイム」がしたい息子くんが半分睨んだのを横目で察知した。


「ほら、早くしよう? お洋服きちゃってよ。じゃないと、ママ、そろそろ怒ったママに変身しちゃうよ!_」

「やだやだ! 怒ったママやだー!」

「じゃぁ、お洋服きちゃおうね」

「娘ちゃんね、自分で着れるんだよ? だから、ママはあっち行ってて」


散々逃げ回って挙げ句の果てこうである。服を着ると言い出した娘ちゃんに部屋を追い出された私の前には息子くんが立っていた。


「ねぇ、ママ、ミルクタイムまだ?」

「あぁ、待ってね! 今娘ちゃん服着てるから!」

「……」

「あ、じゃぁさ。息子くんが用意してくれる? ママ、まだ服を着てないし髪乾かさなきゃ」

「うん! いいよ!」


嬉しそうにキッチンに走っていく息子くん。

その逞しい背中を微笑ましく見守ってから私は自分の支度をし、髪を乾かしはじめた。


耳元にドライヤーのブオオオという音が鳴り響く。きっとミルクタイムを心待ちに息子くんが待っている筈。急がなくては。


と思っていると、ドライヤーの音に混じって何やら違う声が聞こえてきたような気がして私はスイッチを切った。


「僕が!!」

「私が!!!!」

「僕だってば!!!」

「うわあああああぁぁぁん!!」


リビングから兄弟喧嘩の声がここまで届いた。

ため息を一つだけ吐いて、リビングへと急ぐとそこには、テーブルが牛乳で真っ白に。


「こら!!! どうしてこうなったの!?」

「僕が牛乳を入れるの!」

「にぃに、牛乳くれない!!」


牛乳の入った紙パックをそれでも引っ張り合おうとする二人に私は大激怒してつい怒鳴ってしまった。


「いい加減にしなさい!!! そんなことで喧嘩になるならミルクタイムなんてしません! ママが牛乳入れます!!」

「!!」


その言葉を聞いて息子くんの目が光った。どんどんと涙が目に溜まっていくのが見える。その涙を見て、私もふと我に帰った。


そりゃぁそうだ。散々待ったミルクタイム。準備を任されたのに妹に邪魔されて、ただ乾杯して飲みたいと思っていただけのささやかな楽しみ。


きっと今回のこと、準備をしていた息子くんにちょっかいをかけたのは娘ちゃんの方だったのだろう。


「あれ?」


その時、私の席にあるコップに何かが入っていることに気がついた。そこに入っているのは白い牛乳ではなかった。


「これ、珈琲? カフェオレつくってくれたの?」

「うん。ママが好きだから。僕がコーヒー作ってあげたかったからミルクタイムしたかったの」


未だ白い机に、おずおずとこっちを見守る娘ちゃん。

何一つ変わっていないのに、この茶色い液体は私の頭を冷やすのに十分な愛が注がれていた。



「ごめん、ママ怒りすぎたね。一緒に机拭いて、今度こそミルクタイムしよっか」

「……うん! 牛乳こぼしてごめんなさい」

「ごめんちゃい」

「過ぎたことは仕方ない! 乾杯しよ!」


息子の涙も笑顔に変わり、三人がそれぞれのコップを手にもって目配せした。もう、険悪な雰囲気なんてそこには無い。


「へへ! じゃぁいくよ!」

「「「かんぱーい!!」」」


プラスチックのコップが鈍い音をたてて、我が家のミルクタイムは始まった。

今日も今日とて我が家は平和のようだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] さりげない日常だけど一日一日が大切なものだと思い出させてくれる素敵な文章なのじゃ! [一言] お母さん、頑張れー! (∩´∀`)∩
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ