好きな教科と嫌いな教科
「一番好きな教科は何?」
と聞かれたら、私はしばし迷うだろう。
しかし……悲しいことに。
「じゃあ一番嫌いな教科は何?」
と聞かれたら、迷わず答えることができる。
ズバリ。
体育である!!!!!!!!!!!!!
「夏樹ちゃん、頑張って〜〜……!」
「急げ、村上〜〜」
「遅いぞーー!」
「ハァ………………ハァ……………!」
記録はとうに二十秒を超えていた。女子の平均記録は十秒くらい。みんなにとっての百メートルが私にとっての千メートルだ。
「みんな、何でそんなに足速いの……?」
「夏樹ちゃんが遅いんだよ」
「流石に遅すぎるだろ……」
「具合でも悪いのか?」
おかしいな、同じ現役小学生のはずなのにこうも差が出るとは。まさか年じゅう運動不足の小説家の霊が体に憑いているからか……? クソ、全部アイツのせいだ!
「ハァ……もうムリ、死んじゃう……っ」
「先生、夏樹ちゃんが死んじゃうってーーっ!」
「大袈裟な。たかだか五十メートルじゃない」
悔しいが雛沢愛理の言っていることは正しい。
そして彼女は女子の中で一番足が速かった。
「次は男子だって。ねぇ、夏樹ちゃんも見に行こう!」
「ハァ……ハァ……ごめん、みんなと行ってきて」
見る元気が出ないので一人、後ろの列で見学する。
他の子たちは前列へ男子の測定を見に行った。
みんなレースでもないのに熱心だ。
「村上さん、大丈夫?」
「うん、平気……」
「良かった」
見捨てられた私を唯一気遣ってくれたのは、心優しい志信ちゃん。癒し系の笑顔で慰めてくれる。
「あれ……そういえば体操服は?」
「ああ、ボクは見学だよ。昨日道で転んじゃって」
ズボンを捲ると膝に絆創膏が貼ってあった。
なるほど、それで。
というか、そんなことより「ボク」……?
驚いた、志信ちゃんは「ボクっ娘」だったのか。
「『ボク』って……言うんだね?」
「ああ、うん。ボクは昔からボクだよ。直そうと思ったこともあったけど、みんなが『似合ってる』って言ってくれるから……」
「うん、とってもいいと思う!!」
「本当? 良かった!」
ありがとう、と志信ちゃんは照れて笑った。
こんなに良い子、なかなかお目にかかれない。
「志信ーーっ!」
「なに、拓人?」
「お前、何位だった?」
「二位」
四人横並びで走ったので、その時のことを言っているのだろう。駆け寄ってきた拓人こと「神楽坂拓人」は志信ちゃんの幼馴染らしく、お互いを呼び捨てにするほど仲が良い。微笑ましい関係だ。
「見ててくれ、絶対一位取るから!」
「本当? 結構周りも速いよ……?」
神楽坂は男子の中でも足が速い方なので、一緒に測定するのも必然的に足が速い子になる。志信ちゃんの心配するところだ。
「いや、取る! 志信、見てろよーー……!!」
「はいはい……」
彼はまた走り去っていった。志信ちゃんに見てもらいたくて仕方ないんだろう。分かりやすい性格だ。
「バカだなぁ、拓人は」
「好きなんじゃない?」
「ボクのこと……?」
「うん」
「はは、どうかな」
志信ちゃんは全く照れなかった。
そういうところもクールだった。
結局、神楽坂は「一位」になり、志信ちゃんは仕方ないといった様子で彼を褒めた。彼は得意な表情だった。
そして、私は男女総合でも最下位だった……!
◇◇◇
「サブタイトル:アイツと俺の五〇メートル」
……白線を駆け抜けると順位は一位だった。男らしい俺の勇姿を目の当たりにしたアイツが駆け寄ってくる。「やったね、タクトくん!」シノブの奴は無邪気にそう言って俺の腕にしがみついた。アイリをメロンとすればシノブはミカンどころかビワほどもないかもしれない。けれど、それでいい。メロンにはメロン、ビワにはビワの良さがあり、甘さがある。素晴らしきかな。たわわな果実たちの収穫祭……。
<感想欄>
「一言:例えがキモい」
「一言:シンプルにキモい」
「一言:『甘さがある』とは……?」
「一言:主人公基本おっPしか見てなくね」
「一言:これは確実におっさんの妄想wwww」
「返信:うるせえデカパイが至高だから」
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ちょっと遅れました。
次は11時ごろの予定です。