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学校の友達

 小学校、それは子供を閉じ込める牢獄とも言える。前世では義務感から通うのが当たり前だったが、今世ではなかなか苦痛に思えてならない。


「誰かこの式を解ける人は……村上さん、どう?」


「はい」


 仕方なく立ち上がり、先生のいる黒板まで行って先を黒板に書き込む。答えがあっている自信はない。


「うーーん、惜しい……不正解!」


 案の定、私の書いた答えは外れていた。これは別に前世の私が取り立ててバカだったわけではなく、前世とは勉強の範囲も量も違うので、一度大人を経験した私にとっても難しいのだ。現代の小学生は苦労している。結局私が周りよりもできる教科は国語くらいしかなかった。


「難しかったね」


「……うん、間違えちゃった。恥ずかしい〜〜」


 隣の席の男子と会話して励まし合う。すると側の席の子たちも話に加わってきた。


「夏樹ちゃん、昨日のペットチャンネルの動画見た?」

「見た見た! 犬の赤ちゃん可愛かったねぇ……!」

「ね〜〜! めっちゃ可愛い! 夏樹ちゃん何好き?」

「えーー? トイプードルかなぁ〜〜?」


「トカゲのやつは? トカゲ飼ってる人のも見た?」

「あ、それ見た。青いトカゲが一番好き」

「だよな!? あれが一番かっこいいよな!?」

「ね!」


「村上、ゲームチャンネルも見てる?」

「見てるよ。何のゲームが好き?」

「俺は城を壊すやつ!!」

「あれかぁ、もうすぐ新ステージ解禁でしょ?」

「そう! 今度一緒にやろうぜ!」

「いいよ……っ!」


 子供たちの話題の中心は完全にネットに移った。今やゲームと動画サイト以外の話で盛り上がる子は少ない。一方、SNSは親に制限されている子も結構多い印象だ。現代でもトラブルが絶えないんだろう。


「ねぇねぇ、夏樹ちゃん……!」

「なぁなぁ、村上……!」

「あのさ、あのさ……!」


 転校して以来、周りの子たちと仲良くしようと思い、みんなの話を聞いてあげるようにしたところ、瞬く間にいろんな子から話しかけられるようになった。


 小学生は話したいことが沢山あるらしい。

 それはいつの時代も変わらないようだ。


「図ではココと、ココの長さが同じになるので……」


 担任の岬先生は算数の教科担当も務めており、優しい人柄も相まってみんなから慕われている。


 岬先生は教科担当の先生達の中で最も若いが、説明が上手で教えることに長けている。ちなみに現代の小学校では先生が教科担当制になり、負担が軽減された模様。


「先生、また何か描いてくれないかな……?」

「ね〜〜……?」

「先生〜〜! また女の子の描いて〜〜!」


「ちょっと待って、あと説明もうすぐだから……!」


 ちなみに岬先生の特技は絵が上手いことだ。

 特に漫画調のイラストが得意で、プロ並みに上手い。


「ねぇねぇ、夏樹ちゃん、夏樹ちゃん」

「ん、なあに?」

「岬先生って、何であんなに絵が上手なのかな?」

「もしかして、昔は漫画家だったとか?」

「うーん、どうかなぁ……今は普通の人でも上手な人が沢山いるからなぁ……」



「岬先生、村上さん達がうるさいですッ!!」



「あらあら、気をつけてね?」


「あっ、ごめんなさい……」


 喋っていたら注意されてしまった。

 気をつけていたつもりだったが、失敗失敗。


「ちょっと雛沢さん、何で夏樹ちゃんにだけ言うの!」

「ゼッタイ夏樹ちゃんのこと妬んでるんでしょ……!」

「セコいぞ、雛沢〜〜!!」



「ふんっ」



 学校生活の楽しみが友達とのお喋りだとすれば、悩みの種はこの「雛沢愛理」との関係だった。


 彼女の両親はとある大企業の重役らしく、裕福な家庭で生まれ育った愛理は小学校の他に塾にも通っている。おかげでとても頭がいい。


 しかしそれと引き換えに玉にキズなのが、プライドが高いせいで周囲と度々衝突を起こすところだ。とりわけ私の存在が気に入らないらしく、こうしてわざと憎まれるような態度を取ることがある。


 努力家の彼女にしてみれば、私が何の努力もせず周囲と良い関係を築いているように見えるのが疎ましく映るのかもしれない。


 まあ、彼女の言うことは間違っていないし、私も何か咎められるような立場ではないのだが……。



「夏樹ちゃん、かわいそう」

「夏樹ちゃんのことは、私たちが守るからね……!」

「村上をいじめるな〜〜!」


「……」


 流石にこういう状況は頂けない。

 これではこっちがイジめているようなものだ。



「まあまあ、みんな。落ち着いてよ」



 そこへ救いの手が差し伸べられた。

 後ろの席の「月島志信(しのぶ)」ちゃんだ。


「もうすぐ給食だし、拓人()もう少し頑張ろう?」


「何で俺なんだよ、いつも俺が腹減ってるからか!?」


 周囲でくすりと笑いが起こる。志信ちゃんのまとう柔らかな空気にみんなたちまち骨抜きにされてしまった。


 こういうことが出来る人は大人でもなかなかいない。

 志信ちゃんの類い稀な才能だった。



「君たち……ステキ……!」



 何故かそれを見た岬先生が感動している。

 先生も頑張ってね。何て、私が言うなという話か。


 そんなこんなで今日の授業は終わった。

次は八時ごろの予定です。

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