女の子同士の友情……?
小説家にせよ何にせよ、創作の界隈に属する人間にとって自分のセンスが古いというのは危惧すべき状況だ。
漫画家に例えるなら、キャラクターのファッションや絵のタッチが古すぎてダサいとか、セリフ回しや言葉遣いが時代遅れでピンと来ないとか、そういったことと同じである。
つまり、その作品に没頭するのを妨げる原因になってしまうのだ。
おそらく私の小説が「古い」と思われる理由があるとすれば、今までに読んだ本がどれも古いことがまず一つ要因だと考えられる。それに加え私はまだ小学生なので知らないことは前世の知識で補って小説を書く訳だが、それが気づかないうちに古臭さに繋がっているということも可能性として考えられる。
「とは言ってもなぁ……」
「どうかしたの、夏樹ちゃん?」
後ろの席の志信ちゃんに尋ねられて振り返る。
「ねぇ、私って『古い』と思う……?」
「え、何で。誰かにそう言われたの?」
「う、うん。ちょっとね。実は私、本好きなんだけど、それが古いものばかりだからそう言われてるみたい」
「なるほど……」
本なんて大人だね、と志信ちゃんは感心したように呟いた。
「でも、そういう感性って自分でも気づかないうちに身につくものでしょう。新しいと思うものが身の回りにあるかどうかとか、アンテナをはってみたりして少しずつ気づいていくのがいいんじゃないかな」
「そっか……!」
今度は私が感心する番だった。
志信ちゃんはやっぱりすごい。
自分の頭で考えられる能力を持っている。
やっぱり彼女は周りの子より大人だ。
それを機に、私はますます志信ちゃんのファンになってしまった。
◇◇◇
志信ちゃんはスカートを履かない。
ヘアピンもつけず、シンプルなショートヘアーだ。
「髪に何もつけないの?」
一度気になって尋ねたことがある。周りの子達がそうなので、志信ちゃんも何かつけたりしないのだろうかと軽い気持ちだった。
「つけたいと思ったことはないかな」
「ふーん……かっこいいから?」
「ボクが『かっこいい』って?」
「うん!」
「そ、そうかな……」
そういうと志信ちゃんは分かりやすく照れた。
可愛いと言われた時より嬉しそうなくらいだった。
「サラサラだね。ねぇ、触ってもいい?」
「え、うん……?」
「えへへっ♪」
後ろに回って抱きつくように髪を漉く。
志信ちゃんは基本的に嫌がらないので、ついベタベタしたくなってしまう。でもまあ女の子同士なら問題にはならないだろう。他の子とも似たような距離感だし。
「気持ちいいね……」
「う、うん……っ」
「あれ、どうして耳そんなに真っ赤にしてるの?」
「え、ボク、赤くなってるッ!?」
「うん。真っ赤」
「あらあら…………っ♡」
近くにいた岬先生に何故か微笑ましい目で見られた。不思議と周囲も騒ついていた。
◇◇◇
体育の授業の前、私は志信ちゃんと一緒に体育館へと向かっていた。志信ちゃんは膝の怪我が治ったらしく、今日は体育着に着替えている。
「あ、ちょっとトイレ行きたいかも……」
「先に行ってきなよ」
「一緒に行こう?」
「え……っ?」
グイッと手を引くと志信ちゃんは反対側に踏ん張る。
ひどい。
トイレは乙女の社交場じゃないの……?
「イヤなの?」
「い、嫌というか……ボクは、いいかな?」
「そっか……」
なるほど。
志信ちゃんはトイレソロタイプか。
「じゃあここで待ってて」
「え、ココで!?」
「うん。待ってて?」
「う……うん……」
志信ちゃんを女子トイレの前で待たせ、私はトイレに向かった。外へ出ると志信ちゃんはちゃんと待っていてくれた。しかし、気のせいか若干挙動不審に思える。
「お待たせ! て、どうしたの……?」
「な、何が?」
「なんか、人目を気にしてるみたいだったから」
「ま、まあ……ここにいると目立つからね……」
確かに志信ちゃんはトイレから出てきた子たちにチラチラ見られていた。考えてみれば別の場所で待っていてもらった方が良かったかもしれない。
「おい志信、何でずっと女子トイレの前にいるんだ?」
「う、うるさい! 拓人、声が大きいよ……ッ!」
「立ってないで行くぞーー」
志信ちゃんは神楽坂を追いかけて行ってしまった。
追いかけようとしたら私はコケた。
続きは夜です。