気づいてしまった……。
バレーボールは身長がものを言う。
女子の王者は雛沢愛理だった。
「アイリ……ッ!」
「セイッ!」
ある子がかろうじて拾った球を彼女は危なげなく敵陣に叩き込む。もちろんネットの高さは小学生仕様だ。
「流石だね」
志信ちゃんはまだ転んだ怪我が治っていないのか、私服のまま隣で見学している。なお私のチームは先程早々に敗退した。三対〇。健闘も虚しかった。
「ねぇねぇ、思ったんだけどさ」
「夏樹ちゃん?」
「何かみんな…………背高くない?」
それは前世の記憶を取り戻してからずっと気になっていたことだった。小学生の平均身長が前世の記憶と違う。特に女子は体つきも前世と比べて大人っぽく、全体的に発育が良い。
それに対し、私は身長も前世の小学生の十人並で、体つきだって子供らしく薄っぺらい。周囲と比べても成長が遅く感じられる。
「確かに、近年どんどん平均が伸びてるらしいからね。ボクもそんなに高い方じゃないから気持ちは分かるよ」
そうは言っても志信ちゃんは私と比べて頭ひとつ分は大きい。雛沢愛理などそれよりも更に頭ひとつ分くらい大きく見えるほどだ。
まさか、これは世に聞く貧乳という奴なのか?
……いやいや。
……まだ成長期が遅いだけかもしれないし。
「あ、そういえば女の子は成長期が早いって言うね」
「…………あっ」
「え、夏樹ちゃん、何で急にそんな悲しい顔……!?」
志信ちゃんには乙女の気持ちは伝わらなかった。
いや、相手も乙女のはずなんだけどね?
◇◇◇
雛沢愛理のチームが勝つと、チームメイト達が一斉に彼女の元へ駆け寄ってきた。
「やった、愛理!!」
「うちら強くない!?」
「愛理のおかげだよ〜〜!」
「みんなお疲れ!! うちらみんな頑張ったね!!」
「愛理ちゃんって可愛いよね」
「えっ……?」
意外だったのか、志信ちゃんはもう一度聞き返した。けれど前から思っていたことだ。
「いや、贔屓目なしに見ても美人だなと思って。身長も高くてスタイルだっていいし。かっこいいし」
「まあ確かに、そう言われてみれば?」
実は気の強そうな性格もなかなか嫌いではない。
前世の私も悪趣味だったのだろうか。
……なんて、考えていた時だった。
「あーー、雛沢おっぱいでけえよなーー……」
言いたくてもあえて言わなかった言葉が聞こえてきたので驚いて振り向く。目が合ったのは男子の一人。彼は気まずそうな顔で「あ……」と言った。
「いや俺、兄ちゃんがいてさ。ネットのエロいやつとかたまに見せてくんだよ。それで知っちゃったんだ」
「え、どんなの……!?」
「な、夏樹ちゃん?」
気になって食い気味に質問した私に志信ちゃんが咎めるような視線を向けてくるが後戻りはできない。乗ってくると思わなかったのか、彼は得意気に教えてくれた。
「エロいネット小説だよ。最近流行ってるんだって」
あっ……。
それってもしかしなくても……?
「でもさ、実は俺もちょっと読んだけど、リアリティがない気がするんだよな」
「えっ……!?」
思わぬ場面で思わぬ評価を聞いてしまった。
情けないがどういうことか確かめたい。
「それって……つまらなかったってこと?」
「いや、話は面白かったんだよ。でもちょっと古いって言うかさ」
「……っ」
盲点だった。私の小説にそんな弱点があったなんて。
表面的な部分だけでなく、所々がそうなんだろう。
「でも意外だな。村上も興味があったなんて」
「え、そう? だってエッチな話って気にならない?」
「ちょっと、何の話してるのよ……!?」
「げっ!?」
まずい、ガッツリ聞かれた。
居合わせた雛沢愛理に軽蔑の視線を向けられる。
違うもん! 私、エッチな子じゃないもん……!!
次の更新はお昼か夜の予定です。