フィナーレ
「えっ? そうなの?」俺は聞く。
「ダイゴ辛いことがあったよねぇ。って。悲しいことがあったよねぇって。私も分かるよって。私もみんなと会えなくなるの辛いよぉって太陽がそう言ってるんだよ」
「うん」俺は思わず笑ってしまった。
「寄り道が出来て良かったでしょ?」マヤはそう言う。
「あぁそうだね」と俺が言うと俺は知らぬ間に片方の目から涙を流していた。ツーーーっと涙がこぼれ落ちる。
「どうしたの? ダイゴ大丈夫? 泣いてるよ?」マヤが心配そうに聞いてくる。
「えっ? あっ? 本当だ。泣いてる。なんでだろ。久しぶりに笑ったから涙が出ちゃったのかな」俺は言う。
「あーゴメン! ひょっとして私余計なこと言った?」マヤはそう言って慌てた。
「うん。余計なことじゃないよ。嬉しいんだ。ここに連れてきてくれて」俺は言った。
夕日はもうすぐ街並みに沈んでいくところだった。
「あーもうすぐ消えちゃうね」マヤが言った。
俺は前の方を見る。影が俺の一歩手前まで伸びていた。俺は歩みを進めた。俺は一本づつ影を踏みしめる。そして欄干のすぐそばまで行く。
「ダイゴ。影踏んでるよ? 大丈夫なの?」マヤが聞く。
「ちょっと怖いけど大丈夫。もう少し近くで夕焼けを見たいんだ」俺は笑って言った。
俺はマヤと一緒に夕焼けを見た。橋の欄干近くで見た方がやっぱり綺麗だった。
ぎゅるるるっとマヤのお腹が鳴った。
「帰ろっか。ご飯作るよ」俺は笑って言う。
「おー楽しみ!」マヤは右手を高く上げて喜ぶ。
俺たちは家に帰る。そしてご飯を食べた。食べたあとマヤは床に寝転んだ。
「あー食った食ったサイコー!」マヤは満足げに言う。
「食ったあと寝ると豚になるぞ」俺は言う。
「豚になったら自分をステーキにして食べるから大丈夫!」マヤがそう言う。俺はプッっと吹き出した。
俺は洗い物をしていた。俺はなんだか笑っていた。いつもと同じ時間に帰り、いつもと同じ電車に乗り、いつもと同じ駅で降りる。
でも今日は違った。寄り道をした。夕焼けを見た。そしてその喜びを分かち合えた。それで十分だった。
俺はマヤの隣りに寝た。足の向きは逆方向だったが。
「おー。ダイゴもやる? 気持ちいいでしょ」とマヤは笑った。
「あぁそうだな。悪くないな」俺は言った。
「大食サイコー! 怠惰サイコー! 私達は地獄に落ちるぞー」とマヤは拳を振り上げ唱えた。
「大食サイコー……」俺は口ごもる。
「行くよ! 大食サイコー! 怠惰サイコー! 私達は地獄に落ちるぞー!」
「大食サイコー! 怠惰サイコー! 私達は地獄に落ちるぞー」俺も手を上げて唱える。
俺とマヤは互いに顔を合わせた。すると俺たちは同時にプッっと吹き出した。そして俺たちはケタケタ笑う。
マヤが来たとき平凡な日常が壊されると思っていた。マヤは常識のない奴だった。だけどそれでいい。これから9人の悪魔がくるらしい。多分大変なことになるだろう。だがそれでも構わない。俺はそう思った。
スマホから目覚ましが鳴る。俺は眠気まなこでスマホを捜査してそれを止めた。
「ふわぁー。マヤおはよう」俺は一緒に寝ていたマヤに声をかけた。すると隣りに寝ていたマヤはいなかった。あれ? 俺はキョロキョロしながらマヤを探す。
「マヤ?」俺は言う。キョロキョロするがいない。
「おーーい! どこに行った」俺は部屋中探すがどこにもいなかった。仕事に行く時間だ。俺は取り敢えずスーツに着替える。玄関から出ていく前に俺はガランとした家の中を見る。改めて思った。俺はこんな寂しい家に住んでたんだ。自分の家がまるで廃屋のように感じられた。マヤがいるのが当たり前だと思っていた。それなのに急にいなくなった。
俺は靴を履いて家を出る。電車の中で俺は思った。あいつどこに行ったんだろ。俺の態度のどこかにあいつを怒らせる要素があっただろうか。知らず知らずの内にあいつに我慢を強いていたのだろうか。俺は職場についた。
職場ではまた吉田と主任が仲良く喋っている。あいつら出来てるんだろうか。昼は職員食堂で一人でご飯を食べ終業時間になったら俺はいつもの電車に乗る。
電車の中で俺は思う。いつもの平凡な日常に戻っただけだ。マヤと出会う前俺はこんな生活をしていた。平凡で当たり障りのない日常。俺は電車を降りる。ひょっとしてあいつは事故に巻き込まれてたりしていないだろうか。なにかトラブルに。警察に連絡するか? でもマヤは悪魔なのに。ちゃんと捜索してくれるんだろうか。
俺の中で不安が広がった。そして後悔が広がる。マヤがいなくなった朝に警察に行けば良かった。職場を休んで探し回れば良かった。俺はなにもしなかった。
俺は電車を降りるとダッシュで家まで走る。頼む! 頼むから家にマヤがいて欲しい。イタズラなら許すから。絶対怒ったりしない。だから……頼むから家に戻ってきてくれ。俺は思った。
俺は家につき玄関のドアを開ける。そして家の中に入る。
「マヤ! いるか!」俺は大声で呼びかける。いない。どこにもいない。なんだあれは俺の幻だったのか? 幻ならそれでもいい。幻をもう一度見せてくれ。
俺は押入れや屋根裏あらゆるところを探す。「!」なんだか服の擦れる音が聞こえた。あそこの部屋だ! 俺は扉を開ける。そこには風に揺れるカーテンがあるだけだった。俺はガックリとなる。そして窓を閉めた。なんてことだ。俺は窓を開けたまま仕事に出ていたのか。預かったがいなくなったことに予想外に動揺していたのだろう。
俺は他の部屋を探したがどこにもいなかった。俺は体育座りで膝を抱えるように座り込んだ。
「マヤどこに行ったんだよ」俺はつぶやく。
「どっか行くならさよならくらい言えよ」すると俺のスマホから着信が鳴った。電話だ。俺はスマホに飛びつく。ひょっとしてマヤからか? 電話の向こうの相手は……
「おぉ最近元気してる? どう調子は」神だった。俺はため息をつく。
「おぉどうしたどうしたため息をついて」神が笑いながら言う。
「マヤが朝起きたらいなくなってて……」俺は言う。
「えっ? それマジで? それヤベエやつじゃん」神は言う。
「マヤが地獄に帰ったとかない?」俺は聞く。
「いやぁそれは聞いてないけど」神は答える。
すると電話口からおばさんみたいな声がした。
「ほらあんたなにしてんの! ご飯出来た言うとるやないか!」と神様の母親らしき人の声が響いた。
「分かってるって! 今電話中だから! あとにして!」と神が母親に向かって喋った。……なんだこの状況は……
「あんたなんども降りてこい言うとるやないか! ご飯冷めてまうで! 今日天ぷら作ったって言うてるやん!」電話口から母親の声が響く。
「えっ? 天ぷら? 分かった今すぐ行く!」と言って電話は切られた。ツーーツーー……俺は無言で神に電話をかけなおす。
「おう。どうした?」口にものを頬張りながら神は言う。
「おい! マヤはどこにいるんだよ! あと口にものを入れて喋るな!」俺は言う。
「だから知らないって! 人間界のことだから警察に行けば?」と言って神は通話を切った。
もうなんだこいつは……俺はムカついて床にスマホを叩きつけそうになる。だがすんでのところで堪える。警察行くか……
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