いきなり落雷
「剣崎さんって表情硬いですよね。いつも無表情って言うか」同じ職場の同僚の女が俺にそう言った。
「えっ?」俺は一瞬止まる。言葉が出てこない。俺たちは職場の飲み会の真っ最中だった。ざわつく飲み屋の喧騒の中、俺は押し黙る。
「あっごめん。お酒の席で言ったことだから、あんまり気にしないで!」とその女が笑いながら言う。
「気にするなってどういうことですか?……」俺はテンション低めでその女に聞く。
「あーだから、みんな笑ってる時に剣崎さんだけ笑ってないことが結構あるなーって思って」とその女は言う。
「?」どういうことだろう。だからなんなんだ。みんなで笑うときに笑わないといけないのだろうか。しかし、この女ズケズケと言いたいこと言って……正直嫌いだ。
「駄目ですか。それ」俺はこれまたテンション低めで聞く。
「いや、駄目って訳じゃないんだけど……あっ! 主任! ビール飲んでないじゃないですか! お酌します!」とその女は……名前は吉田だが俺から離れてビール瓶を持って主任にお酌をしに行く。
俺は一人取り残される。ギャハハハ! 職場の人間の下品な声が響く。なんだろう。飲み会ってやつは……まるで楽しくない。そもそも下戸だし、なんだかみんなのノリが下品と言うか、会話のピッチが早すぎてまるで入っていけない。俺はひたすら無言で唐揚げを食べる。
「それじゃお疲れ様ー! 二次会行く人ー!」と言いながら主任が手を上げる。何人か取り巻きが主任のところに集まった。
「じゃあ僕お先に失礼します」俺は主任に言う。
「お、剣崎お疲れ!」主任が俺に手を振る。俺以外のほぼ全てが二次会に参加をするみたいだ。明日も仕事だというのに元気なことだ。
俺は電車に乗り込む。時間は11時くらいだった。アルコールを飲んだせいか若干体が汗ばむ。俺は正直この時間の電車が好きじゃない。見渡せばオッサン。オッサン。オッサンと不倫してる部下の女。オッサン。それくらいしかいない。
まぁ俺も26だからおっさんと言えばおっさんかもしれないが……
俺は自宅の最寄駅で降りた。俺は賃貸の一軒家に住んでいた。なかなか安く借りられたと思う。月々数万円くらいだ。俺は思わず口から同僚の女に対する愚痴が出てきた。
「あのバカ女ふざけやがって」なんだろう。言葉が比較的ペラペラ出る。
「なにが固いよねだよ。お前はバカなだけだろ。あーー。あれハラスメントだろ。ふざけんなよ」俺はつぶやく。
俺は大学の事務員として働いていた。平の職員だが。一応あの女は俺から5歳ほど歳下だ。正直舐められてると思う。
「女だからってなにを言っても許されると思うなよ。あーあのバカ女。本当ムカつく」俺は横断歩道を白線のところだけを踏んで歩く。なんだろう。これは癖だ。横断歩道の白線を踏まないとなんだかいけない気がする。
あぁいう女からバカにされるのは本当に嫌だ。結局なにが言いたかったんだよ。ノリが悪いってことか? 言い返したらどうなるだろうか。正直陰湿な反撃をされそうで怖い。
「嫌われたくないんだったら最初から言うなよ。バカ女」あぁ本当に腹立つ。ゴロゴロゴロゴロ……ん? 空から音がする。土砂降りでも来そうだな。俺は思ったが走る気は起きなかった。
「あぁいう人を傷つけて平気な人間に天罰を!」俺は右手を振り上げる。するとゴロゴロピシャーーーン! 俺に落雷が直撃した。右手を避雷針代わりにして体を通って地面に突き抜ける。あ、ダメなやつだこれ。ドサッ! 俺は地面に仰向けに倒れる。だんだん遠くなっていく意識。痛みすら感じない。
あぁ俺の人生はこれで終わったんだ。まるでテレビの電源を切るときみたいに、人生が終わる確信めいた感覚を感じながら……俺は死んだ。
暗闇の中で俺はプカプカ浮いていた。俺は死んだんだ。随分……なんというか……俺の人生は何だったんだろうか。俺は今まで真面目に生きてきた。女遊びもせずに、俺は童貞だった。彼女も出来たことが無かった。もちろん友達もほぼいない。
誰が俺の葬式に来てくれるだろうか。俺は思う。すると俺は強烈な光に包まれる!
「うおっ!」俺は叫ぶ。なんとそこは……南国のビーチだった。
「イエーーイ! ウェルカム・トゥ・ジパラダイス。天国へようこそ。ベイビ?」ビーチチェアで寝っ転がりながらこっちに手をふる男がいた。
その男はビーチサンダルを履いて砂浜を歩いてこっちにやってきた。
「うえーーい! 君名前は? 今すぐ閻魔帳チェキラ!」その男はなんだかラップ的なポーズを取りながら俺にいう。その男はサングラスに麦わら帽子をしていた。服装も夏服だ。
「あのここは……」俺は言う。
「ここは天国だよ! 君は今まで真面目に生きてきたから大した罪も犯さずに天国に来れたんだ。おめでとう! これから楽しいパラダイスライフ送れるよ!」とその男は言う。なんだかテンションの高い男だ。
ひざまずいていた俺は立ち上がる。ざぁ……ざぁ……寄せては返す波。青すぎる海。真っ白な砂浜。そしてちょうどいい気温。暑すぎず寒すぎず。ここが本当に天国なのか。
「この海は?」俺は聞いた。
「この海は三途の川ならぬ三途の海。つまりシーオブサンズだ! 英語にするとカッコよくね? 三途の川もリニューアルしてリゾート観光地よ。楽しくなかったら誰も来ないからね。そして俺は神! イェい!」神はそう言ってポーズをつける。
「ごめんなさい。あたまおかしい人ですか?」俺は聞く。
「チョッチョッ今の酷くね! ま、とにかく名前は?」神はそう聞いてきた。
「剣崎大悟です」
「ケンザキダイゴさんねぇ。ちょっち待って」すると神はスマホを取り出して人差し指でスクロールし出した。
「ケンザキ……ケンザキ……k」神はひたすらスクロールする。
そして結構経つ時間。えっ? どれだけスクロールしてるんだ。神から滝のように汗が吹き出す。
「ちょっとなにやってるんですか?」俺は神のスマホを覗き込む。するとabe yoshio 、abe yoshihiko、まだAの欄だった。
「はぁ? なにやってんすか。さっきから。まだAの欄じゃないですか! 早くしろよ!」俺は怒る。
「いやだからこのアドレス帳に過去未来全ての人間の名前があるから探すの大変なんだって!」神は言う。
「それをいちいちスクロールで探してたのかよ!」俺は怒る。
「ちょっと貸せ!」俺は神のスマホを引ったくる。
「検索すりゃ一発だろうが! kenzaki daigo」俺は流れるように神のスマホにフリック入力をした。
「よし! 出てきたぞ!」剣崎大悟(26)のプロフィールが出てきた。すると
「ポンポロンポンポン」神のスマホに着信が入った。
「ちょっと出ていい?」神は俺に聞く。
「えぇ? ここで?」俺は嫌がったが神は着信に出た。
「おお……どうしたどうした……おー久しぶりじゃん」神は俺を無視して話し出す。待ちぼうけを食らう俺。神は笑顔で会話してる。
「えっ? 金? マジか。大丈夫お前と俺の仲だから。心配すんなって。水くせーな本当」神はそう言う。
「じゃあまた。ほいほい。じゃあお疲れ。うぃー」神は通話を切った。
「なんだったんだよ。今の通話」俺は言った。
「いや何でも、お前の息子を預かったから身代金3億持ってこいって」
「はぁ? ヤバイだろそれ誘拐じゃん!」
「今日の12時までに持ってこなかったら息子を殺すって」
「いやいやいや、ヤベェだろ! それ! なんで友達と会話するみたいな感じだったんだよ! お前それ誘拐じゃん!」俺は言う。
「そうだな。じゃあ息子に電話を……Jesus ChristだからJ……」と言いながら神はスマホをスクロールする。え? こいつなにやってんだ。
「はぁ? お前さっき言ったよな。検索しろって。時間かかんだろうが! なんでまたスクロールしてんだ! アホかオメーは」俺は神に突っ込む。
「ムッ……」すると神はムカついたように俺に言われたとおりJesus Christと検索した。そして電話する。
「おーー。久しぶり。元気?」神は軽いノリで通話している。
「いや、誘拐されたって聞いたから。お前2000年前くらい前も捕まってたじゃん。だからやべーなぁって思って。うん。あっそう。じゃあ大丈夫な感じ? ほんじゃまた」
神は通話を切った。
「おい大丈夫なのかよ。あんたの息子は」俺は聞く。
「捕まってるけど、殺されても復活するから大丈夫だって」と神は言った。
「そっそうか……」俺は言う。
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