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日常2*わたしのスクールライフは波乱がいっぱい

 本日は久しぶりに学園へ参ります。13歳から6年間通った学園生活も残すところ1年とちょっと。

 昨年はライオネル様の卒業で、多くの在校生が悲しみに暮れましたが……さて、来月に迫った今年度の卒業式はどうなる事でしょう。

 わたしは在校生代表で送辞を述べるのですが、何事も無い事を切に願うばかりです。


 我が校は貴族のみならず門戸の開かれた学園です。優秀な人材育成の為に門戸を広げよ、と仰ったのは二代前の国王陛下。以降様々な分野で、貴族だけで無く平民からも活躍する学生を排出しております。

 社交シーズンが始まる4月を前に、3月中旬に卒業式が行われ、式後の卒業パーティーでプレデビュー、4月から本格的に社交界デビューです。卒業パーティーはリハーサルのような意味合いがあります。


 わたしの学生生活ですが、……正直あまり思い出は多くありません。というのも、王子妃教育も有り三分の一程度しか出席出来ていないからです。


 まあ、昨年まではライオネル様とカフェテリアでランチを取るなど充実した時間もありましたが、学業、移動、王子妃教育のコンボは何気に辛く、気付いたらもう5年……というのが感想です。

 それなりに頑張ってはいたのですが、いかんせんキャパオーバーというか。


 さらに、親し過ぎる友人を作る事を止められていたので、なかなか距離感が難しくて……。やはり王族に嫁ぐとなると、孤独が付いてまわります。

 ライオネル様はこんな孤独を生まれてからずっと味わっているのかと思うと、自分の不甲斐なさに溜息が漏れそうです。


 こんなわたしが在校生を代表して送辞……、そのせいかちょっとした反発もあるようで。

 そもそもわたしがライオネル様の婚約者である事が気に食わない方もいらっしゃるため、両者が手を組んだのでしょうが。


「お待ちください、アマンド侯爵令嬢!」


 学園の敷地に入るや否や、可憐な少女と共にドーソン侯爵家三男ウーザー様が大声でわたしを呼び止めました。


「何でしょう?」


 不味い、わたしの中の情熱的な画家が筆を走らせ始めた。……これは、絵に描いたような『可憐な少女を庇うオレカッコイイ男子』

だわ。ええ……そんな、小説の中だけに存在するのかと思っておりましたがが、本当にいらっしゃるのですね、驚きです。

 あ、ダメ、情熱的な画家なわたしが、画力0な絵画に吹き出しを書き込み、その台詞を『権力に屈しないオレカッコイイ』とか言わせている、わ、笑っちゃいけないわ、コレはただの妄想よわたし!

 あ、でも、ドーソン侯爵子息酔ってるわ、自分に。確実に悦入っていますね。


 ……などと思いつつ、極めて冷静に返答します。ちょっと笑いでお腹いたいけど、そこは根性、今こそ王子妃教育の成果を見せる時です。


「そんなに怖い顔をしないで頂きたい。エスタが怯えます」


 そう言って可憐な少女ことエスタさん(あれ、この子……?)の肩を抱き寄せました。

 ……?え、もしかして庇ってるつもり、かしら?公衆の面前で特定の女子の肩を抱くって、婚約者でもないだろう女子に対して?女性に簡単に触れるなんて、失礼じゃないかしら。

 あらでもエスタさん?(誰だったかしら……、もう少しで思い出せそう)も、「怖いわ、ウーザー」とか言ってるし、わたしが知らない間に婚約したのかしら?なら、貴族相関図の見直しが必要ね。


 ところで、わたしは怖い顔なのでしょうか。軽く落ち込みます。いつも微笑を浮かべているつもりでしたが、まだまだ修行が足りませんね。

 ですが、今それはどうでも良い事。


「要件を手短に仰って」


 わたしが怖いとか、個人の主観はどうでもいい。本日中に済ませるべき用事も多数ありますので話しを先に進めましょう。


 ところでこのドーソン侯爵子息ウーザー様ですが、わたしの同学年で、生徒会長に就任が決まっている方です。今は引き継ぎの最中なのでしょう。

 その流れで、送辞がわたしになった事を知ったのだと思います。送辞は生徒会長が読む事が大抵ですので、そのせいかと。


「貴女はいつもそうやって権力を振り翳す。3年前の他校交流会でもそうだった。本来ならオレが取り仕切るはずが……!」


 おっと、思ったより根は深いようだ。確か学年主席だったドーソン侯爵子息が交流会の仕切りに名乗り出た……だったかしら。

 学年単位での交流会で、その年は他国との交流もある為にわたしが選ばれたんですが……お忘れでしたか?


「わたしは然るべき対応をしたまでです。今更3年前のお話がなさりたい?」


 あの時点で解決された内容を今更蒸し返した上で、今回の内容と絡めたいのでしょう。

 それで……、エスタさん(あー、小骨が引っ掛かる感じでイヤだわ、えーと、えーと)はどうしたのかしら?関係ないのに彼女の肩を抱いて発言している訳ではないでしょうに、本題にさっさと入って頂けると助かります。


 努めて平坦な声色で返したのが癇に障ったのか、苛立ちも露わにドーソン侯爵子息が叫んだ。


「皆聞いてくれ!アマンド侯爵令嬢ソフィエラは、第二王子ライオネル殿下の婚約者であることを笠に着て、平民出身の男爵令嬢エスタに嫌がらせをしていたのだ!さあエスタ、勇気を持って告発するんだ。今しかない!」


「あ、あたしは……ただお友達と話してただけなんです。なのにソフィエラ様ははしたないとか、品性を疑う……だとか。あたしが元平民だからですか?あたしにだけ子供だって出来る書き取りを強制してきたり!難解な本を押し付けて、これくらい理解出来なければ授業に出る資格が無いと授業への参加を認めなかったり!やる気が無いなら退学すれば良いって言ってきたり……酷過ぎます!ここは国王さまが認めた平民も入れる学園なのに、差別なんてあんまりです!だからライオネル様に避けられるんですよ!」


「エスタ、殿下の事はもう少し後で話す段取りだったろう」


 段取り違いがあったようですね。二人が少々慌てています。

 ああ、わたしの中の情熱的な画家が『夢見るヒロインちゃん()』を画力0で描き始めました。ここでエスタさん(あーうん、この子かあ)を慰める男性が複数いたら、絵には『あたしのために争わないでぇハート』って台詞わ書き足すところですが、慰めてくださる男性はドーソン侯爵子息だけのようです。ドーソン侯爵子息は敬語も忘れていて、なかなか不愉快ですね!


 さてさて、言いたい事はこれだけでしょうか。そろそろわたしのターンで宜しい?


「エスタに対し様々な侮辱行為があったのは、今彼女が勇気を持って告発してくれた。だがオレはそれだけで、ライオネル殿下の婚約者であるソフィエラ嬢を訴えているのではない!……コレを見てくれ!」


 そう言って、ドーソン侯爵子息はエスタさん(この子は、えーと家名は何だっけかな)の前に跪きました。

 エスタさんはそっと片方の靴を脱ぎ、ドーソン侯爵子息の太腿に足を乗せました。


 ……?わたしは何を見せられている?


「みんな見てくれ、彼女の痛々しい足を!」


「おやめなさい!エスタ嬢(家名資料待ち)、貴女もです!恥を知りなさい!」


「はは!どうだ、みんな!コレが王子妃予定のソフィエラサマの本性だ!こんな女性が在校生代表でいいと思うか?」


 登校時間だったため、それなりの人数がこの愚かしい騒ぎを見ています。取り返しのつかない事を……と、呆れてしまいます。


 見物していた生徒もいましたが、今は出来るだけこちらを見ないようにしていました。わたしも当事者で無ければ見ないようにした事でしょう。


「なんだみんな、そんなにライオネル殿下の婚約者が怖いのか!こちらをよく見ろ!エスタは怪我を負ったんだぞ!」


 エスタさん(家名脳内検索中)の脛の辺りに包帯が巻かれていました。……そうです、ドーソン侯爵子息は太腿に彼女の足を乗せ、制服のスカートの裾わ捲り上げていたのです。


 男性陣は顔を赤らめソッポを向き、女性陣は眉を顰めた上で扇子で口元を覆っているか、隣にいらっしゃる婚約者?とおぼしき男性に小言を言っているようです。


 こんな状況ですが、自分に酔っているドーソン侯爵子息は周りの声は聞こえていないようで、ざわめきは自分の味方と思ってらっしゃる様子。


「もう一度言います。お二方、恥を知りなさい!」


 見ていられず、もう一度、響き渡る声を上げました。はしたない事ですが、こんな茶番を見せられるのは皆真っ平です。というか、破廉恥です。


「恥を知るのは貴女の方だ。エスタの足、どうしたのか、貴女は知っているからそんなに慌てるんじやないか?」


 凄い、三流チンピラ顔で笑っている!わたしの中の情熱的な画家が、似顔絵を描くのを諦め、とりあえずドヤァぁぁ!という書き文字だけ書いている。画家すら絵筆を投げ出す顔!画力0だけど。心の中の事だけど。


「あたし……、学園の中央階段から落とされたんです!」


 学園の中央階段というのは、学園中央エントランスの吹き抜け部にある大階段です。3階迄続く階段で、とても豪奢な作りなため、学園の象徴的スポットです。


「階段の上からソフィエラ様は虫けらを見るように見下していました!あたし……とっても怖かったです!」


「落ち方が悪ければエスタの怪我はこんなものでは済まなかった!暴行……、いや、殺人未遂だ、これは!」


 小説のように階段落ち(この場合階段落としかしら?)があったと告発する二人。

 見物人たちはザワザワと囁き合っています。

 囁き合う内容?それは勿論……


「エスタ嬢は、何か特別な訓練でも受けているのか?」


 群衆から発言がありました。


 そうなんです。あの!大階段から落ちて、それっぽっちの怪我とは凄すぎてて、つい彼女の足を注視してしまいました。ごめんなさい、淑女の足を見るなんて。恐らく皆さんもそう思ったはず。


「元平民だからそんな事言うんですか?貴方もソフィエラ様の取り巻き何でしょう!酷いです!」


 おっと、所構わず噛み付き始めた夢見るヒロインちゃん、それはいけませんよ。

 そろそろ終わりにする為反論しようかと思っていると、


「この可憐なエスタにライオネル殿下が心を移すのが、そんなに恐ろしいか、ソフィエラ嬢!貴女の自慢出来る事など、殿下の婚約者という権力くらいだものなあ!」


 ドーソン侯爵家は、わたしのアマンド侯爵家と同格程度の家柄です。父の役者も同じようなものです。ご自分は学年主席で次期生徒会長という自負と、なのに華ある出番はわたしに攫われるという不満が混ざりこのような言い掛かりをして来たようです。

 卒業式まで1カ月、それまでにわたしがあと何回学園に出席出来るか分からないから、今日仕掛けた……と言ったところでしょうか。


 そんなに送辞ってやりたいもの?去年のライオネル様への送辞だったら是非!と言いたいところですが、送辞は5年生が行う習わしですので、泣く泣く諦めました。

 あ、もしかして去年のわたしと同じ心境なのかしら?それはごめんなさいね。


 とは言え、この茶番はいただけません。何よりはしたない(まだ足丸出し、スカートの裾捲り上げ中ですし!)ので、終止符を打ちましょう。


「一つ、3年前の交流会の仕切りについて。周辺6ヵ国との交流を含めた特別な年だったため、参加全ての国の言語対応可能なわたしの仕切りになりました。共通語はありますが、細かな用法が異なる場合があり、無駄な諍いを呼ばない為です」


「通訳を介せばオレでも良かった筈だろう!」


「同時に王宮で周辺6ヵ国会談があった事はご存知の事と存じます。通訳は多数王宮に派遣されましたので……あとはお分かりですね」


 ドーソン侯爵子息は、微妙に納得されていない顔で口を閉じました。たかが学生の交流に通訳割いてる場合じゃない大規模会談だったをよく思い出してください。


「2つ。エスタ嬢(ティーエ、家名をさり気なく教えて)に対して。……ティーエ、資料を読み上げて」


 この騒ぎが始まった時点でわたしの有能な侍女ティーエは、エスタ嬢について見物人から話を聞き、学園内の守衛、先生方から確認を取りに走ってくれていた。

 長々彼等の話を聞いたのはその為の時間稼ぎだったのだ。


「生徒から複数の苦情です。エスタ嬢はわざわざ授業が行われている教室の前で、男子生徒複数と共に彼等の婚約者を貶める内容を話してらっしゃったそうです。これについては教師陣からも苦情があり、時間や内容も記録してありました。


 教師陣からの苦情です。学園は学業その他で優秀な人材育成機関であるにも関わらず、そのレベルに達していない、更に文字が汚くて読めない、との事。何度も指導を行った記録もありましたが改善されず、学園の理事長である王妃の代理として、在学中のソフィエラ様が警告文を読み上げました。

 また、エスタ嬢には入学時の不正疑惑も有り、現在調査中との事です。


 エスタ嬢とドーソン侯爵子息ウーザー様との間には婚約関係は無く、ドーソン侯爵子息は引き継ぎギンビス伯爵令嬢パラースト様と婚約中とありますが、現在ギンビス伯が婚約解消に向けて動いているとのこと……、失礼しました、たった今、解消がなされたとの報告がありました。」


「う、嘘!出鱈目言わないで!」


 ティーエが資料を素早く手渡ししてくれる。(確認すべきは彼女の家名…!)

 エスタ嬢(資料…て、すごく言いづらい家名…)は真っ赤になって反論します。わたしからの警告が正式文章であるって、ちゃんと言っていたのに……。


「ギンビス伯が!?何故だ!こんなにも優秀なオレが婿入りするのだ、何の不満が……!は!まさかソフィエラ嬢!」


 エスタ嬢(家名噛んだらイヤだわ)との触れ合い?は、無意識だったのかしら。あんなにベタベタと女性の身体を触るなんて……、え、凄いセクハラなのでは?あと、何でもわたしの罠だと思うのやめて欲しい。わたし何もしてませんので。


「婚約関係にない女性に不用意に触れ合うのは控えた方が身の為です。まさかご存知ない?貴方はわたしに、怪我をした足を見て慌てるのは……と言いましたね。ええ驚きます!未婚の女性の足を人前に晒し……スカートの裾を捲り上げるなんて、紳士として恥を知りなさい!」


 言われてから気付いたのか、ドーソン侯爵子息はやっとエスタ嬢(シユ、シュリュ……?噛みそう)のスカートから手を離した。

 見物人もほっと一息着いたのだが、それでも一件落着ではないらしい。まだやるのコレ。


「で、でも!あたしは怪我をしました!それを、見て欲しくて……!」


 顔を真っ赤にして泣きながらエスタ嬢(もう家名言わなくてもいいかな、諦めようかな)が叫びます、おっと自らスカートの裾を捲り上げました!自分から婚約者でもない男性に身体を寄せる行為のみならず、足を見せつけるなんて……、貴族どころか平民の女性もしませんよ!そういう商売の方は、お仕事でなさっているのです!それを一般人が安易に真似て!はしたない!


「はしたない行為はおやめなさい。怪我の程度は一度見れば充分です」


「そうやって誤魔化すんだ!あたしが王子様に気に掛けてもらってるから!」


 涙目で嘲り笑うとは……、エスタさん(……ティーエ、わかってる、家名言うの諦めないから……)はとても表情豊かですね。


「階段から落とされたとのことですが、何段目からですか?わたしが直接押したのでしょうか、また何日に行われた事ですか?」


「ひ、日にちは……」


「エスタ嬢が怪我をしたのは1週間前、階段の下から4段目から足を滑らせたようです。生徒の目撃者多数、大階段ですし守衛も複数配置されていますので、確かな内容かと。怪我の程度は包帯を巻くまでもない青痣、全治……と言っても青痣が消えるまで3日程度との診断を校医から報告ありました」


 ざわざわと囁きが聞こえます『じゃあ、あの包帯何?』『4段目から…?』


 ……わたしも思います。


「ソフィエラ様との関係性ですが……、確かにその日ソフィエラ様は大階段付近におりました、複数の目撃者がおります」


「ほ、ほら!ソフィエラ様が……!」


「ソフィエラ様は大階段をお使いになられません。転倒や暗殺など懸念材料を作らないよう、複数階を跨ぐような学園の大階段は使用出来ない決まりがあります。この日も階段最上段の前から貴女を見た、というのが真実です」


 ティーエの更なる報告。

 そうなのです、あの中央階段が使えると移動がもっと楽なのに! 使用禁止令が出ているため、かなりの遠回りが必要なのです。

 禁止令は、わたしの危険防止と……、そして今回の様な冤罪防止のため。コレを聞いた時、小説じゃあるまいし〜!と思ったのですが、ありましたね。うーん、みんな小説好きねえ。それにしてもエスタ嬢(シュ、リュキュ……噛んだ……)現実との区別が出来てないのかしら?夢見るヒロインちゃんだから?


「最後に、虫けらを見るように見下して、との事ですが……」


 ざわめきの中から『3階から1階見たら、どうあっても見下ろすようになるよな』『なんだ?ただの言い掛かりか?』との囁きが。

 ……ですよね!説明するまでもないようですが、念のため。


「先程からエスタ嬢(舌痛い……)は元平民だからと何度も仰っていますが、我が校では優秀である事が何よりの誇り。金銭的援助が少ない中で我が校に在籍する平民の方々は、誉れと言われる事はあれど、嘲りを受けるなど以ての外です。そのような行為は、自らの品位を貶めると、もう10年前には浸透していた筈ですが」


 2代前の国王陛下が決めた門戸開放策ではあるが、当初貴族からの反発が多かった。40年前は受け入れられないこの策は、時間をかけて浸透し、10年程前からはむしろ尊ばれ、金銭的援助なしでこの成績なら金銭的援助があればどんなに伸びるのか!と、自領から平民の入学者が何人いるかがステータスになっている。

 エスタ嬢を引き取った…えーと……シュリュクシュ男爵ね、……が、この風潮をご存知無いのかしらね。卒業した後の主流だから……、いえ、そもそも卒業生では無かったのですね、失礼。


 とにかく、そのせいでシュリュクシュ男爵令嬢エスタ様(そろそろ言えそう!)は頑なに元平民である事に引け目を(無駄に)感じていらっしゃる、と。

 生徒の多くは、平民だからでは無く彼女自身の振る舞いから距離を置いていたし、先生方からの正当な叱責を穿った見方で勘違いなさった。


「ライオネル様が貴女に声をかけたのは、わたしがお願いしたからです。警告文だけでは態度が頑なになる事は分かっておりましたので、同じ内容を柔らかく注意して頂けるようお願いしました。言うならば……飴と鞭作戦ですね」


 飴成分強めでお願いしたのが仇となったようです。うーむ、まだまだ人身掌握術が上手く無いですね、わたしも。


「以上、もう宜しいでしょうか?」


 ドーソン侯爵子息は地面に向かってブツブツ言っていて発言なし、エスタ嬢(……あ、このままだと家名を言えないままになりそう)はまだ言い足らないのか口をモゴモゴ動かしていらっしゃるけれど、考えがまとまらない様子。


「更に詳しく調査が必要でしょうから、後は学内調査員にお任せしましょう。ドーソン侯爵子息ウーザー様、シュリュクシュ男爵令嬢エスタ様(やっと家名言えたわ!)をお連れして」


 複数の守衛が二人を事務室に促す。勿論抵抗しているようですが、『正当な意見があるならば正式に調査の上の判断がいいでしょう』と厳かに宣言され、彼等はついて行かざるを得なくなった。

 ついて行かないイコール正当な意見はないって事になるものね。


「一方だけ連れて行かれるのではフェアじゃありませんね。わたしも同様に調査ください」


 正直完全なる言い掛かり案件ですが、こういう小さな事から禍根を絶たないとね。まあ、この程度での禍根に対処するのも学園生活を送る今だけのこと。せいぜい楽しみますわ。


「皆さん、久々の登校でこの様な騒ぎを起こしてしまい失礼しました」


 こういう時、王族の婚約者は安易に謝れず歯痒い思いをする。

 そしてそれを理解してくれる生徒が大半で、本当に助かっております。


『年一程度の割合でやらかしが現れるけど、今年は次期生徒会長かあ』『指名交代あり得るかしら』……ざわざわと囁き合う生徒たち。


 そうなのです、こういうの、初めてじゃないの。年一からニで起こるので、正直日常の範囲内です。


 まあ、今回は楽な案件(今回一番面倒だったのが家名)でしたが……おっと、本日の予定が狂いました。

 それでは本気で、お暇しましょうか。


「皆さんご機嫌よう。本日も楽しい学園生活をお送りください」





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