お鍋のさがしもの
冬童話2021投稿作品です。
以前紙芝居用に作った原稿なので、漢字ありとなっています。
我ながらよく出来たと思っていたのですが、当時の子どもの反応はいまいちだったんですよねぇ。
ここで少しでも楽しんでもらえたら浮かばれると思いますので、よろしくお願いいたします。
ある所にお鍋がいました。
金色をしていますが、金ではありません。
アルミで出来ている、軽くて頑丈なお鍋です。
お鍋は料理をするのが仕事です。
食べ物を煮るのが得意です。
しかし毎日毎日料理をしていたお鍋は、自分の仕事に飽きてしまいました。
そこでもっと自分が活躍できることを探そうと、お家を飛び出しました。
お鍋が歩いていると、川がありました。
川岸にはネズミの親子がいました。
「こんにちはネズミさん」
「あらこんにちは。あなたはだぁれ?」
「僕は料理に飽きて旅をしているお鍋です。どうしました?」
「向こう岸に渡りたいのだけれど、流れが速いし水が冷たいので、渡れなくて困っているんです」
お鍋は思いました。
『僕は船として頑張れるかも知れないぞ』
そこでお鍋はネズミの親子に言いました。
「僕が船になって向こう岸まで渡してあげるよ」
「まぁありがとう! 助かりますわ」
ネズミの親子は喜んでお鍋に乗り込みました。
ところが……。
お鍋は水には浮きますが、泳いだことはありません。
たちまち流されてしまいました。
何とか向こう岸にたどり着けましたが、渡りたい所から随分遠くなってしまいました。
「川を渡らせてくれて助かったけど、ちょっと遠くなっちゃったわね」
ネズミのお母さんにそう言われて、お鍋はしょんぼり。
とぼとぼと歩き出しました。
お鍋が森へ行く道を歩いていくと、今度はリスに会いました。
「こんにちはリスさん」
「お、こんにちは。君は誰?」
「僕は料理に飽きて旅をしているお鍋です。どうしました?」
「今度一人暮らしをすることになってね。どこかに温かい良い家はないかと探しているんだ」
お鍋は思いました。
『僕は家として頑張れるかも知れないぞ』
そこでお鍋はリスに言いました。
「僕がお家になって住まわせてあげるよ」
「本当かい? それは助かるなぁ」
リスは喜んでお鍋に入りました。
ところが……。
お鍋はピカピカキンキラキン。
どっちを向いても目がチカチカします。
おまけにびろーんと伸びて映る自分の顔。
あまりいい気分ではありませんでした。
「広くて綺麗なのはいいんだけど、これじゃあ落ち着かないよ」
リスにそう言われて、お鍋はまたしょんぼり。
とぼとぼと歩き出しました。
お鍋が森の中を歩いていくと、今度はクマに会いました。
「こんにちはクマさん」
「おやこんにちは。君は誰だい?」
「僕は料理に飽きて旅をしているお鍋です。どうしました?」
「春になったらハチミツを取るから、目や耳が刺されないように守る帽子を探しているんだ」
お鍋は思いました。
『僕は帽子として頑張れるかも知れないぞ』
そこでお鍋はクマに言いました。
「僕が君の帽子になってあげるよ」
「それはありがたい。早速頼むよ」
クマは喜んでお鍋を被りました。
ところが……。
クマの頭にお鍋はちょっと大きくて、何回被りなおしても、お鍋は頭からずり落ちて、目の前をふさいでしまいました。
これではハチミツ取りどころではありません。
「君は軽くて頑丈だから、目や耳を守るのには丁度いいけど、僕の頭には合わないな」
クマに言われてお鍋はまたまたしょんぼり。
とぼとぼと歩き出しました。
船にも家にも帽子にもなれず、お鍋は悲しくなりました。
とぼとぼと歩いていると、森を抜けて広場に出ました。
色々な人が、お餅をついたり丸めたりしています。
お鍋がその様子を眺めていると、にっこり顔のおばさんが声をかけてきました。
「まぁ、いいお鍋ね。あなたどこのお鍋?」
「僕は料理に飽きて旅をしているお鍋です」
「あらお料理に飽きちゃったの? とても楽しいのにそれはもったいないわ……」
おばさんはポンと手を打ちました。
「そうだ! 丁度今から子ども達に豚汁を作るところなの。ちょっとお手伝いしてくれない? きっと楽しいわよ」
「う~ん……」
おばさんに言われて、お鍋は豚汁作りを手伝うことにしました。
水を沸かして材料を煮て、お味噌を溶いていくうちに、あたりにだんだんとおいしそうな匂いが漂ってきました。
「いただきまーす!」
子ども達がとてもおいしそうに豚汁を食べているのを見て、お鍋はほうっとあったかくなりました。
おばさんの言っていた楽しさが分かったような気がしました。
「ありがとうね」
からっぽになったお鍋に、おばさんはお礼を言いました。
「ありがとう」
お鍋もお礼を言いました。
「これからどうするの?」
「お家に帰ります。僕はやっぱりお鍋だから、お家に帰って、いっぱいみんなに美味しい顔をさせてあげたいと思います」
こうしてお鍋は自分の仕事の楽しさに気がつき、毎日色々な料理を作りました。
そしてもう旅に出ることはありませんでした。
読了ありがとうございました。
ちなみに当時子どもに一番受けていたのは、インチキ昔話でした。
赤ずきんが防犯ブザーでオオカミを追い払ったり、七匹の子やぎがオオカミを袋叩きにしたり、三匹の子ぶたが、作りかけの家のレンガでオオカミを撃退したり、そんなのばっかりやっていたからですね。正統派を殺したのは私でした。あとオオカミごめん。
童話はあまり持ちネタがないので、なろうラジオ大賞2のようには書けませんが、また書かましたら見に来て頂きたいと思います。