超ブラック企業だけど、上司がいい人過ぎて辞めれない! 3
うちの旦那と初めて会ったのは、係長の奥さんが居る……あの居酒屋。
まだ私と係長、二人だけの会社に勤めていた頃の話だ。
「こちら深山茜さん。僕と一緒の会社で働いてくれてる方だよ」
どうやら係長と旦那は元々知り合いだったようだ。IT企業の研修で知り合ったとか何とか。
「……どうも」
係長に紹介され、初めて旦那と目を合わせたその時。
第一印象は……不愛想な奴。
終始しかめっ面で、係長が話しかけても頷くか一言で返すだけ。
私が未来の旦那を紹介してくれと言っといて何だが、ぶっちゃけ無いと思った。
こんなロクに愛想笑いも出来ないような奴と……意思疎通できるわけがない。
そりゃ見た目は良かったさ。
でも性格がクズとか最悪だ。きっと結婚しても外に女作りまくって、基本朝帰りになるに決まってる。
「……深山……茜……たん」
「……ん?」
私と旦那はそこから始まった。
不愛想なクズだと思っていた男は、実は超初心で甘えん坊で恥ずかしがり屋さんで……一人でコンビニに行く事すら躊躇う……
「……茜たん……かわゆい……尊い……」
「え、あの……ど、どうしたの?」
私と係長は目を丸くした。その時旦那が飲んでいたのはウーロン茶。しかし明らかに酔っている。しかも酔った勢いで、私の事を少しナナメ上方向にべた褒めしてきたのだ。
「一緒に……歳取りたいむ……」
酔った勢いとは言え、旦那のその言葉で私は落ちた。
いや、それどうなん? って思われるだろう。私も未だに思っている。
あんな一言で、私は旦那の事が好きになってしまったんだから。
※縁は異なもの味なものー!
《双子ちゃんだよ!》
そんなこんなで本日、私は私の実家へと帰ってきていた。
ちなみに私の実家は北海道。季節は冬。正直クソ寒い。
赤ん坊を連れて北海道まで都内から移動するのは正直気が引けたが、私の母は失明しているために長距離の移動は好ましくない。母は東京に来たがっていたが、私が来んな! と一方的に拒否した。母も今年で六十越えてるし、飛行機が怖くて乗れないから電車での移動になる。流石に体力的にキツいだろう。
「茜たんのご両親と会うの……結婚式以来だね……」
ガタガタ震えながら、毛布で包まれた愛しの我が子を抱く旦那。
むふふ、妹の菫はあったかそうにぬくぬくモフモフくまさん毛布にくるまれて……幸せそうだ!
しかし寒い、さっさと中に入ろう、そうしよう。
私は私で姉の菖蒲を抱っこしつつ、実家のインターホンを押す。
すると何やらドタドタ足音が……
「むふーん! 姉ちゃん!」
勢いよく玄関を開けてきたのは我が妹。相変わらず……リアルなパンダの着ぐるみに身を包んでいる。
え? と思われるかもしれないが、これが私の妹……通称パンダ妹。
「いらっしゃい! ほわぁあっぁぁぁ! 赤ちゃんだぁぁぁぁぁ!」
「落ち着け我が妹よ。そして中に入れておくれ」
「よかろう!」
バっと道をゆずってくれるパンダ妹。
この姿で大学にも行っているのだから頭が下がる。
「あ、お兄さんもいらっしゃいー。相変わらずクール眼鏡だね」
「お邪魔します……相変わらずパンダだね……」
……シュールすぎる。
※パンダ可愛い! 可愛いは正義!(by Lika
《孫は目に入れても痛くない!》
実は私、結構なボンボンだったりする。
亡くなった祖父は国家公務員で、総理大臣から勲章を頂くほどの働きっぷり。
父も元警察官で、家には何枚もその功績を称えられた賞状が飾られている。
パンダ妹も大学で実は獣医を目指しており……私は私で普通のOLだ。
「ただいまー」
実家も結構な広さで、現在は父と母と妹の三人暮らし。部屋数は余っている。
リビングは暖房が効いてて暖かい。そしてそこに私の父と母が居た。
「おひさー、我が父よ」
元警察官の父。見た目はヤクザと間違えられそうなくらいにイカつい。
実際、私が子供の頃は良くビビられていたのだ。家に遊びに来た友達に。
「……」
そんな父は基本的に厳格な性格をしている。
私が東京の大学に行くと言い出した時も、もう殴り合いの喧嘩に発展しそうなくらい反対されて……
「帰ったか……茜」
厳しい顔をした父。旦那と目を合わせると会釈しつつ、私が抱っこする菖蒲に近づいてくる。
「ほら、お父さん、あんたの孫だよ。抱っこしてあげて」
「……」
何度も言うが、父は厳格な……固い性格。
ああ、分かってたさ。
こんな父が、孫が出来たくらいで変わるわけ……
「ほわぁああぁぁぁあ! 早く! 早く! 抱っこさせて!」
「アンタ誰?!」
※父でした
《ご挨拶!》
私と旦那は双子ちゃんを父と母に抱っこさせ、ソファーで一休み。
パンダ妹も抱っこしたがっているが……
「姉ちゃん、私もー」
「抱っこしたけりゃ……その着ぐるみ脱いできなさい。毛が我が子に付いたら……はっ倒すぞ」
「ぴえん」
渋々、着ぐるみ脱いでくる……と自分の部屋へと行く妹。
そして私の両親は両親で、ニヤけた顔をしながら孫を抱っこしていた。
「……父よ、あんたそんなキャラだった? もっと最初は厳格な性格の設定だったでしょ」
「フフゥ、人は変わるのだよ、我が娘よ。ところでこの子達……今何歳?」
「まだ一歳にもなってないよ。今五か月経った」
首が座って、寝返りできるようになったくらいだ。平均だとハイハイしだす時期らしいが、双子ちゃんは未熟児だと先生に言われたから……少し遅いのかもしれない。まあ、スクスクと育ってはいる。
「ずっと寝てるな」
「寝る子は育つのだよ、我が父よ。っていうか夜泣きもほとんどしないから、逆に心配なくらい……」
「姉ちゃん!」
その時、着ぐるみを脱いだ我が妹が戻ってきた!
って、今度はパンダ柄のモコモコパジャマ着てる!
「あんた普通の恰好してきなさいよ。何故そこまでパンダに拘るのか……」
「フフゥ、愚問なり、我が姉。パンダは可愛いから! さあ、このモコモコに包まれるがいい! 我が姪っ子達よ!」
母から菫を抱っこさせてもらう我が妹。
母は失明しているが、やはり母だ。抱き方が上手い。
妹は菫を母に抱っこさせてもらう。
初めて赤ちゃんを抱っこしたんだろうか。私はお前を抱っこしたんだぞ、オムツも変えたんだぞ。
「ほわぁぁあぁあっぁぁ! きゃわいい……ほっぺペロペロしたい……」
「ぁ、そういう過激なプレイはお断りしてますんで」
「ぴえん! 冗談なり!」
って、ぁ……妹が興奮して声大きめだから……泣きだしちゃったじゃないか。
まあ、あんまり泣かない子だからちょっと安心……。
「わ、ぁ、泣いちゃった! 姉上! どうすれば!」
「とりあえず声のボリューム下げろ」
すると母が妹の抱っこする菫に、定番の……いないいないバァを。
ピタ……と菫は泣き止み、キャッキャと喜びだした!
「おお! 流石我が母! 顔が面白いから効果抜群……って、いたたたたた!」
いらん事を言う妹の頬を抓る母。それを見て、菫はさらに喜ぶ。
そして今度は……菖蒲も泣き出した。
どうやら菫の泣き声に同調したらしい。双子ではよくある事だそうだ。
「い、いないいない……ぶわぁぁーっ」
「怖い、ものすごく怖いぞ、我が父よ」
父の、いないいないバァなど地獄絵図でしかない。
仕方ない……と私は父の腕から菖蒲を救い出す。
「菖蒲……大丈夫、怖い顔してるけどイエティじゃないよ」
「当たり前だろ」
※二人共、御挨拶は済んだねー!
旦那と初めてのデートでこんな会話をした。
「茜たんは……子供何人ほしい?」
「初めてのデートでする質問じゃないね……まあ、二人くらい……」
私がそう答えると、旦那は顔を真っ赤にして俯いてしまった。
あぁ、冗談で聞いて来ただけか。私が普通に答えてしまったから、旦那は恥ずかしくなってしまったんだ。
ん? いや、待て……もしかして……
「ねえ、まさかとは思うけど……今の……」
「そ、そそそそそそその……」
同様しまくる旦那は、バっとポケットからそれを取り出し……私の左手薬指にはめてきた。
いや、動揺しまくって順序が滅茶苦茶だぞ。まあ、いいけど。
「やっぱり……今のがプロポーズだったのか……」
「ご、ごごごごめん……その、もっと気の利いた事言えたら……」
こうなったら私も順序を無視しよう。
私は答えを言う前に、旦那の口を自分の口で塞いだ。
唇を合わせながら、私は小さく頷く。
そしてその夜、私はその事を母に報告した。
母は一言。
「おめでとう」
と、電話先で言ってくれたのが……何故かものすごく嬉しかったんだ。