第8話 兄アルバート
そして、魔王は三本目の剣を手に取った。
だが二本目の剣に無かったスピード補正が三本目の剣にはついているらしく、なかなか反撃に出れずに、逃げ回る羽目に……。
「退避と攻撃が分離し過ぎだ。せっかく敵が近寄ってくるのに全部回避したら、ジリ貧になるだけだ」
魔王は最近冷静に分析して、私の駄目なところを指摘してくれるようになった。
「そんなこと言われても……回避で手一杯なんだってば!」
「食らわない程度に避けて、すかさず叩き込んで離れればいいんだよ」
「なるほど!避けて、……叩き込んで、離れる!……できた!」
私は魔王から距離を取りながら喜んだ。
「恐ろしく飲みこみが早いな……」
やっぱり魔王は最近楽しそうだ。
にやにやしながら、さらに打ち込んでくる。
「避けて、叩き込んで……」
離れようとしてさらに打ち込まれた。
「お前の攻撃は単調で直線的過ぎる。分かりやすく剣だけを狙うな!」
「えっ! ちょっ! あぶなっ! 魔王あぶなっ!」
やっぱり吹っ飛ばされた。
騎士団の制服の防御力が半端ないが故に致命傷を負うことはない。
それを、魔王はわかっていて制服に覆われている場所しか狙ってこないのだ。
魔王は優しい。
……何だかんだ言いながら毎日私の訓練につきあってくれるのだから。
そして、もちろんスケさんのサポートも素晴らしい。
だから、普通に訓練する数倍、もしくはそれ以上のスピードで私はメキメキと剣術が上手くなっている。
だが、剣術が上手くなってくると、逆に何がしたかったのかわからなくなってきた。
最初は魔王と戦って死ぬ事が目的だった……それが叶わないから、今は兄に勝つことを目的に訓練をしているのだが……。
いざ成果があがってくるとその目標も違う気がする。
だって、兄に勝っても何も変わらないのだ。
やり返せたらスッキリはするだろうが、それだけだ……。
しかも、ただ嫌みを言って冷遇しようとする継母よりも、やり過ぎ感はあるものの私の訓練につきあってくれていた義兄は実はそんなに嫌いでもない……。
昔は慕って兄について回っていた時期もあった。
小さい頃だが……かっこよくて、強い兄は私のあこがれで自慢だった、そんな時期もあったのだ。
今の様な関係になったのは……。
父が亡くなる数年前くらいからかな?
父が亡くなってからは更に酷くなった。