第7話 隣の国の王子
「昨日遊んでやっただろう?満足してさっさと家に帰れ!」
私が『魔王の間』のゴージャスな扉をよっこらしょと押して開け、魔王は私の顔を見ると途端に魔王は叫んだ。
「えーっ!? まだ満足じゃない! 家に帰れない!」
私は剣を構える。
そんなやり取りを3日。
ついに私はやったのだ!
魔王のしょぼい剣が魔王の攻撃に耐えきれなくなり、真っ二つに割れたのだ。
私のモチベーションはだだ上がりだ。
ついに魔王は二番目にしょぼい剣、つまり装飾がちらっと増えた!を手にしたのだ。
私は満面の笑みを浮かべた。
だが、一撃で吹っ飛ばされた。
慌てたすけさんは私を優しく受け止め、ポーションを飲ませてくれる。
「馬鹿者! 全部正面から食らおうとするな!たまには回避しろ!」
魔王に怒られた。
私は魔王の攻撃を読もうと努力し、吹っ飛ばされると、すけさんが優しく受け止めてくれる。
そして、動けなくなる寸前にすけさんは私にポーションを飲ませる。
ひたすらにそれを繰り返した。
なかなか鬼畜な訓練だった。
さすがに翌日は魔王と訓練をするとは言えず、起きられず、半日ベッドで寝てた。
それでも、朝ごはんを運んできて扉を開けたすけさんはまだそこに居た。
まるで忠犬ハチ公のようだ!
「寝ててごめん!」
私は慌てて起き上がり、すけさんに掛けよった。
あまりに忠犬ハチ公なので、頭をなでてあげたくなったのだ。
「頭をなでてあげるから、屈んですけさん!」
私がそう言うと、すけさんはまるで騎士の様に片ヒザを立てて座った。
私はすけさんの頭の上の王冠をはずした。
するとパアッと眩しい光がさして、眩しくて私は一瞬だけ目を閉じた。
開けるとそこには、金髪の儚げ系美形青年が私に跪いていた。
私はびっくりすると同時に王冠を持った手がグイッと引っ張られた。
そして、王冠はすけさんの頭に戻り、さっき見た金髪の儚げ系美形青年はいつものすけさんに戻っていた。
私は同じ事を三回繰り返して確認をしたあと、すけさんと『魔王の間』に向かった。
駆け足で!
「魔王!」
バーンと扉を開けると、魔王は王座に右肘をつき、頬杖をついたまま言った。
「今日は重役出勤だな」
ちょっとふて腐れているところをみると、段々暇つぶしとして私と訓練をしてるのが、楽しくなってきているに違いない。
日々『魔王の間』で人が来るのを待ち続けるのも、なかなか暇であるらしい……。
今はそんな魔王の様子よりも!
「すけさんが、王冠外したらぱぁーってなって、格好いい人間に変身するんだけど! なにこれ?!」
私は勢いのままに、魔王の王座まで走って行って言った。
魔王は首を傾げた。
私は魔王の前でも同じことをやって見せる。
魔王はふむと納得していった。
「そういえば、最初にこいつを拾った時に、魔女の呪いの王冠だと言っていたかも? 昔過ぎて忘れてた。」
魔王は悪びれなく言った。
「魔王ひどっ!! えっ!? これ呪いなの?! すけさん人間なの?」
「どっかの滅んだ国の王子だぞ。だからもう戻れなくていいのだと言っている」
「魔王ずるい! 私もすけさんと話したい!」
「魔物同士の念話だから、お前には無理だ」
「えっ! でも呪い解いたら話せる?!」
「隣の国を支配してる魔女に呪いを解かせるか、魔女を殺すか……まぁ無理だな」
魔王はそう言った。
隣の国とは国交がない。
そもそもすごい支配政治で、魔女はちょっとでも気に入らない人間は全て殺してしまうという。
私は隣の国がそんなことになって居るなんて知らなかった。
とりあえず、私は何度かすけさんの王冠をあげて、儚げ系美形王子であるすけさんを堪能した。
睫毛が長くてばさばさで美形であることは分かるのだが、王冠がすごい勢いで戻ろうとするので、私は上から見下ろすしか出来ないのだ。
魔王には王冠を上げる事すらできなかった。
とりあえず、せっかく『魔王の間』まで来たので、昨日の続きをやったのだが……。
吹っ飛ばされた私を優しく抱き留めるすけさんの中身が美形王子だと知ってしまった私は、魔王にもすけさんにもどきどきする羽目になった。
実はここはパラダイスなのか……。
そして、ひたすらに訓練をして、回避がうまくなり私が魔王に攻撃を繰り出せるようになるのに1週間。
二本目の剣がついにダメになったのだ。
「恐ろしい成長スピードだな……」
魔王も驚いている。
だがしかし、まだまだ兄には勝てそうもない。