第4話 スケサン
「すけさんありがとう! 私ここでレジェンドになる!」
そして、扉を押し開けた。
壮大な音楽が流れ、魔王が装飾過剰な王座から立ち上がる。
そして高笑いと共にキメ台詞を言いながら、攻撃態勢に入ろうとした……。
だがしかし、音楽は止まり、魔王はため息をついて、王座に座りなおした。
「……早く家に帰れ。」
魔王は苦悩顔も素敵だった。
私は剣を抜くのも忘れて、魔王に見とれてしまったらしい。
私は慌てて剣を鞘から抜いて構えた。
「私を殺して下さい!」
魔王は王座に右肘をついて、右手で額を押さえた。
「俺には貴様を殺してもデメリットしかない……」
脳が痺れそうな低音のいい声だった。
声までかっこいい!
耳元で囁かれたい!
私はもう完全なる魔王のとりこだ。
カラス色の艶やかな黒髪、禍々しくも冷やかな赤目、そしてクルンとカールした二本の角。
前回会ったときも思ったけど、魅了の魔法をかけられたように魔王から目が離せないのだ。
こんなに完璧な顔は見たことがない。
かっこいい! そして、美しい配置。
それを彩る壮大な存在感!
「だいたい貴様がスケサンなんて名前を気軽につけるからいけないのだ……」
魔王はため息混じりに言った。
「すけさん?」
私は首を傾げた。
振り返るとスケルトンのすけさんは扉を薄く開けて、こちらを伺っていた。
その様子はスケルトンの魔物なのにきゅんとくるくらい愛らしかった。
あれ?魔物だよね?!
つまり魔王が言うには、すけさんは魔王の右腕らしい。
言われてみればスケルトンなのに、王様の様な冠を被り、マントを羽織っている。
ちなみにスケルトンではなく、『リッチ』というラスボス級の魔物らしい。
私が気軽に『すけさん』と呼んだのを、彼は受け入れてしまったらしい。
魔物に名前をつけることは、魔物にとってはすごく大変な事なんだって。
名前を受け入れる事イコールご主人様として認めた事になるらしい。
だから、すけさんは私に隷属していて、私の言う事に逆らえないらしい……。
さらには私が死ぬとすけさんは消滅してしまうのだそうだ。
えっ?!
「だから、さっさとこの城から去り、スケサンを忘れ去れば良かったのだ。その為にも早く帰れ」
魔王はしっしっと手を振った。
「そんなこと聞いたら忘れないから!」
「うむ?どうしたら忘れる?」
魔王は胸の前で腕を組んだ。
「魔王が私と戦って、私を殺したらいいと思う!」
「馬鹿め!それができたら今すぐ殺してるわ!」
魔王に本気で罵られると、威圧がかかって背筋がぞくぞくする。
私はさらにうっとりと魔王を見た。
「じゃあ私を殺さない程度で戦って!」
「なんて面倒な……」
魔王は額に手を当てる。
私に芸術的センスが有れば、『苦悩する魔王』像を作り、自室に飾りたい位に素敵だ。