海賊の拠点を探せ
海賊の討伐を決めた3大攻略クランが行ったことは、まずは情報収集であった。
なぜなら海賊たちがどこから来ているかがわかっていないのだ。
規模からして何処かに拠点があるのは間違いない。
ではどこから?
今までの情報を纏めると、氷山地帯ならびにそれよりも自分たちの拠点島方面でそれらしい船を見かけたという話は一切ない。
とすれば、氷山地帯よりもイベント島側と考えるのが妥当だ。
だが島の住民に聞き込みをしても有力な情報はなかなか出てこなかった。
なにせ普段は霧に覆われた島、いや海域なのだ。
島に住んでいると言っても島の外に出ることなど早々ない訳で、海賊が拠点とするような場所にも心当たりはない。
「こりゃ地道に足で探すしかないか」
そうボヤくダンデの言葉にペーターが首を振った。
「地続きの場所にある拠点なら人海戦術で良いでしょうが、恐らくは孤島。
船で探しに行く必要がある訳ですが、それほど多くの船がある訳ではありません」
「確かにな」
ダンデ達『太陽の騎士団』が保有している船は中型艦1隻、輸送艦1隻、小型艦3隻。
船の保有数トップの大海賊団でさえ、中型艦3隻、輸送艦2隻、小型艦5隻しかない。
更に言えば、それを一度に動かせるだけの人員も居ない。
「ならコロンビアが出していたあの案で行くか?」
「そうですね。多少の被害は出るでしょうが、それが一番確実でしょう」
「よし、なら準備を急がせよう」
「こうなるだろうと思って既に始めさせています」
「さすがだな」
そう言ってダンデ達は港に併設された修理用ドックへと向かうのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
イベント島の沖合に1隻の小船が留まっていた。
海賊たちの偵察船だ。
双眼鏡で島の様子を眺めていた男が声を上げた。
「おっ。また性懲りもなく輸送船だけで出港するようだぞ。数は5隻と少なめだけど、護衛はゼロだ」
「あいつらも学習しないのかね。まっ、こっちとしてはやり易くて良いけどな」
乗り合わせていた他の男からも嘲るような返事が返ってくる。
「全くだ。本隊にも連絡してっと。これでよし」
「なるほど。こうして港を監視していた訳か。確かにこれなら獲物に逃げられずに済むな」
「ああ。ホント良く考えたよな。……ん?」
ふと、さっきと違う声がしたので気になって振り返ると、見知らぬ男が立っていた。
よく見るとその足元には仲間が倒れている。気を失っているのか動く気配はない。
「だ、誰だ!?」
「さあな。ひとまず寝ておけ」
「ぐっ」
そうして一瞬にして双眼鏡を持っていた男も意識を失って倒れるのだった。
「よし、こっちは完了っと。
まったく、殺すと死に戻っちまうから、わざわざ気絶させないといけないのが面倒だよな」
「まあまあ。っと、もう1か所の偵察部隊も無事に鎮圧出来たみたいですよ」
「なら撤収するか」
「ええ。その前に船に細工をして1時間ほどで沈むようにしておきましょう」
そう言って突如現れた2人組は自分たちの小船に戻って次の作戦へと向かった。
その間にも港からは監視の目が無くなったことを幸いにどんどん船が出ていくのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
港を出た輸送船5隻は通常通り氷山地帯の手前までくると減速を開始した。
甲板に立ったダンデ達は若干緊張した面持ちで周囲を警戒していた。
「問題はちゃんと釣れてくれるかどうかですが」
「釣れなかったらそのまま拠点に鉱石を送り出すだけだけどな」
「ええ。っと、来たみたいです」
そう言ったペーターの指し示す方向から小型の船団が向かってきていた。
「総員迎撃準備!!」
「来るぞ。衝撃に備えろっ」
その声が届くころには海賊たちの船8隻が輸送船の横っ腹に突撃する直前だった。
「ヒャッハーー。突撃ーーッ」
「ぶち抜けーーっ」
いつものように叫びながら突撃してくる海賊船。
しかし、彼らが期待した木板を突き破る音が響くことは無く、代わりに金属音が響いた。
いつもと違う事に驚く海賊たち。そこへ上から声が掛かった。
「よし、いまだ。海賊船にありったけの攻撃をお見舞いしてやれ!」
「「おおぉ!!」」
突撃を止められて棒立ち状態の海賊船に弓や魔法が次々と降りかかる。
通常の輸送船に乗っている人数の倍以上の冒険者たちがそこにはいた。
そうなってしまえば多勢に無勢。
人数で劣る小型の海賊船では勝ち目は無い。
海賊たちは船を2隻撃沈され早々に撤退に追い込まれた。
それを見送ってダンデがほくそ笑む。
「上手くいったな」
「ええ。想定以上に嵌りましたね」
「よし、本物の輸送船を氷山地帯に送り届けた後、俺達は戻るぞ」
「はい。ところで、艤装はどうしましょう?」
「そのままで良いだろう。多少速力が落ちてもここまで防御力が上がるなら、今後海の魔物と戦う時にも有効だろうし」
「分かりました」
そう言って船の側面に取り付けておいた金属製の盾を見る。
これのお陰で海賊船の突撃から船体を守ることが出来たのだ。
「さて、後は向こうが上手くやってくれることを祈るだけだな」
海賊たちの逃げていった方角を見ながらそう呟く。
その海賊たちの船8隻は襲撃の失敗に憤りつつも拠点へと戻ってきていた。
「くそあいつら、戦艦を擬装していやがったのか」
「これからは同じ戦法じゃあ厳しいかもしれないな」
「ああ。例のあれは結局出来たのか?」
「あれ?」
「ほら、潜水艦を作ろうとか言ってただろ。
前聞いた時は速度が出ないって話だったけど」
「あぁ。結局どうなったんだかな。っとすまん。そろそろ落ちるわ」
「おう、お疲れ~」
そうして戻って来た数人がそそくさとログアウトするフリをしつつ、海賊島から再び出航していった。
彼らはダンデ達が放った潜入部隊だ。
海賊たちの船に似せた擬装を施すことで、逃げる海賊たちに混ざっていたのだ。
「しっかし、予想以上に近かったな」
「ああ。見たところ、この辺りは霧が濃く残っているから誰も近づかなかったんだろう」
「各クランへの連絡は?」
「もう済んでる。決行は明日かな」
「そうなるだろうな」
彼らからの連絡を受けてイベント島の冒険者ギルドでは海賊島討伐の為のクエストが発行された。
これを見た冒険者、特に海賊の被害に遭っていたクランはこぞって参加表明をした。
参加者には漏れなくおにぎり弁当が配られることがそこへ拍車を掛けたとも言われている。
後書き日記 リース編(続き)
さて、町を抜けて私達が向かったのは、願いの泉。
泉前の広場に出る前に周囲を確認して誰も居ないことをチェック。
幸い今は無人です。
そこでカイリ君が思い出したようにレイナに声を掛けました。
「レイナ。お願いしていたものは出来た?」
「はい、無事に人数分出来てます」
そう言ってレイナがアイテムボックスから取り出したのは【水竜のネックレス】。
説明を見ると【水竜のお守り】の核となっている水竜の鱗を取り出して、繋ぎ合わせてネックレスにしてしまったようです。
その効果はネックレスの魔力が切れない限り、水中での呼吸が可能になり、また水中での活動に補正が付くそうです。魔力が満タンなら丸1日以上持つみたいです。
身に着けてみれば鱗の1枚1枚が薄っすらと光ってます。魔力が減るとこの光が消えていくみたいですね。
さて、ここまで来ると次にどこへ向かうのかは一目瞭然です。
そう、泉の中ですね。
一瞬ちょっと罰当たりかなって思いましたが、それを言えばカイリ君を投げ入れたのも相当なので今更です。
湖は最初数歩は浅かったのですが、そこから一気に深くなりました。
地上であれば崖から落ちるようなものですが、水中なお陰でゆっくりと沈んでいきます。
泉の底から更に横穴へ。
そこはダンジョンの様に壁が薄っすらと光っているので暗闇で困る事はありません。
そして横穴は少し進んだところで終わりを告げ、一気に視界が開けました。
「「……」」
その光景に全員言葉が消えました。
見上げれば天井に開いた穴から太陽の光が降り注ぎ、足元には青く光る石が敷き詰められていて太陽の光を受けてキラキラと輝いています。
広さで言えば第5階層のボス部屋くらいでしょうか。
「カイリ君、ここは?」
「この島の隠れスポットの1つだって。行商人の人が教えてくれたんだ」
「すごく幻想的な光景ですね」
「ほんと。ここに来れただけで今回のイベントは参加して良かったって思えますね」
みんな広場に出て思い思いに景色を堪能しています。
その中でツバキさんが地面の石を拾い上げて首を傾げました。
「あれ?この足元の石ってどこかで見たことがあるような……」
「それ、きっと水竜の鱗よ」
「ああなるほど。それで見たことがあったんですね」
「地元の人にとってはここって鱗の採集場なんだって」
「へぇ」
島の外から来た私達にとってはこの光景自体が宝物って感じです。
そうやって綺麗な景色を堪能していると、天井からの光が陰ってきました。
どうやら太陽に雲がかかったみたいですね。
すると今度は地面からの青い光が天井近くまで広がりました。
これもまた凄く幻想的です。
ただ、のんびり鑑賞出来たのはそこまででした。
カイリ君の少し焦った声が届きます。
「さ、みんな逃げるよ」
「逃げる?」
「太陽が陰るとここの主が帰ってくるそうなんだ。
そんな訳で急いで戻るよ」
「う、うん」
追い立てられるように入ってきた横道に戻った時、突如先ほどまで居た広場に突風が吹き荒れました。
水中だから突風というより、激流というべき?
ともかく、そんなことが出来る何者かが広場にやってきたという事です。
恐る恐る振り返ってみると、ちょうど横穴を覗き込んでいた蒼い瞳と目が合いました。
全身を覆う鱗と長いひげ。
なるほど。ここの主ってつまり水竜なんですね。
道理で鱗がたくさん落ちてる訳です。
「えっと……お邪魔してます?」
「クワッ」
「えっ、うひゃああーーー」
恐る恐る挨拶してみたら、水竜が口をがばっと開けて返されました。
ただそれが返事だったのか、攻撃だったのか分かりませんが、とにかく凄い勢いで流されてしまいました。
後からカイリ君に聞いたところ『気を付けて帰れよ』と挨拶ついでに出口まで送ってくれたらしいです。
言われてみれば壁に一切ぶつかることなく泉の入り口まで流されました。
更に町の人たちの話ではあの水竜は温厚な事でも知られていて、この島の守り神みたいなものだそうです。




