拠点に帰るまでがイベントです
肩こりから来る頭痛に倒れていたら遅くなったので、久しぶりにお昼間の投稿です。
7月27日
気が付けばイベントも半分が過ぎていた。
徘徊型ボスからレアメタルがドロップすることが判明したこともあり、通常の採掘と合わせてそれなりの量の鉱石が冒険者達の借り倉庫に詰め込まれていた。
その結果、レアメタルを求めて島に来た大勢の冒険者たちも採掘一辺倒ではなくなってきていた。
その一つがイベント島から出港していく船たちだ。
「よし、じゃあ俺達が居ない間も頑張ってくれよな」
「そっちこそ。居眠りして氷山にぶつかったりするなよ」
島を出る船には鉱石が詰め込まれている。
今回のイベントでは冒険者達はそれを拠点まで運んで初めて自分たちのアイテムボックスへと収納出来るようになるのだ。
一応、精錬してインゴットにすれば収納することも出来るのだが、現地での精錬費用はかなり高い。
なので、誰もが移動時間を割いてでも自分たちの拠点へと持ち帰ろうとするのだ。
その帰還は時間帯的に重なりやすいのか、毎回5~10隻。多ければ20隻からの船団になることもある。
もっとも、みんなバラバラで仲間という訳でもないが。
「まったく運営も面倒な事を考えるよな」
「ほんとそれな」
「まあ。7日間ずっとダンジョンに篭って採掘するよりマシだろ」
「それもそうかもな」
そんな会話を呑気にしながらも順調に帰路の航海を楽しむ冒険者たち。
風と波に乗って加速していた船はしかし、島が見えなくなった辺りで減速を始めた。
氷山地帯が近づいてきたのだ。
最初来るときはだいぶ手こずった氷山地帯だけど、2度目となる帰り道は速度さえ十分落としていけば問題なく抜けられる予定だった。
「さ、ゆっくり慎重に行きますか」
「ああ」
「……ん?なぁ、あれなんだ?」
誰かが最初に気付いた。
それは氷山地帯をなぞる様に走ってくる小型の船団だった。
「船、だな」
「ああ。あんなに小さかったら全然鉱石積めないだろうに」
「それに向こうに島なんてあるのか?」
「というか、こっちに向かってきてないか?」
「そう、だな。って!」
のんびりと近づいてくる小船を眺めていた冒険者たちの目の前で、小船のマストに力強く旗が掲げられた。
黒い布に赤い髑髏マーク。
それが示すものは一つしかない。つまり。
「海賊だーー!!」
「迎撃準備!!」
「ダメだ、間に合わねぇ」
氷山地帯に向けて減速していた船では速度が違い過ぎた。
小型で直進性能を追い求めた海賊船はなおも加速して鉱石を運搬する船の横っ腹に突撃していった。
「突撃ーーっ」
「ひゃっほぉぉ~~」
ズガズガズガッ
サイズこそ違うものの速度と何より船首に付けられた衝角が次々と大穴を開けていった。
直撃を受けた船の中には1撃で沈没するものまである有様だ。
「船尾に食いつかれました!浸水止まりません!!」
「応急修復素材は!?」
「ダメです。穴が大きすぎて。それにっ」
「くそっ。乗り込んできやがったか!」
突撃でぶち開けた穴や鈎付きロープなどで乗り込んでくる海賊たち。
リアルであれば金目のモノに目が移るかもしれないけど、ここでは皆殺し上等。
鉱石を奪うだけなら沈めるだけで十分なところを敢えて乗り込んでくる辺り、彼らもノリノリである。
「海賊と言ったらやっぱり突撃と切り込みだぜ!!」
「応戦しろ」
「させるか。しねぇぇ」
「ぎゃああああ」
「くそっ。まさかお前ら盗賊プレイヤーか!」
「へっ。今は見ての通り海賊さっ」
「イベント島で見かけないと思ったらまさかこんな事してるとはな」
「お前らみたいにチンタラ鉱石掘りなんてする気はないんでね。
ばっちり頂戴していくぜ」
「お前たちの狙いはそれかっ。だけど良いのか?船が沈んだら鉱石も海の底だぞ」
「その辺りは抜かりねぇよ。
っと時間切れだ。じゃあな!
野郎ども退くぞ!!」
「「おうっ」」
嵐のようにやって来た海賊たちは一斉に自分たちの船に戻ると突き刺さっているのを外して離脱していく。
残っている船は最初の半分にも満たない。
その船たちも突撃の直撃は免れたもののかなりのダメージを受けていた為に逃げる海賊たちを呆然と見送るしかない。
「いったい何が……」
「おい、うしろっ」
「あれは、援軍か!」
「まぁ通りがかっただけで仲間って訳じゃないだろうけどな」
「あれを見て海賊たちは離脱したのか」
後から来た船たちは前方で襲撃を受けているのを見つけて慌てて駆けつけてきたようだ。
流石の海賊も囲まれてしまえば得意の突撃の為の助走が出来ないので不利だと考えたのだろう。
そして水平線の彼方、正確には薄っすらと残る霧の影響でそこまで見通せないが、それでも見える範囲からいなくなった海賊を警戒しつつ、救助活動が行われた。
「災難だったな」
「ああ、助かったぜ。この礼はまたいずれ」
「良いってことよ。俺達もお陰で襲撃されずに済んだからな」
「は?それってもしかして」
「さあ、さっさと氷山地帯に入ろうぜ。そこまで行けば海賊は来なくなるらしいからな」
「お、お、おぉ」
どこか釈然としない部分もありつつも、また襲撃されては敵わないと急いで氷山地帯へと船を進めていった。
実際、海賊の襲撃は今回で5回目。
しっかりと情報を取っているクランであれば海賊の存在は既に知られている。
ただし、これといった対策はまだ見つかっていない。
強いて言えば今回のように囮の船団を使うか、突撃を足止めするための護衛艦を用意するかだ。
海賊たちの拠点もどこかにあるはずだがまだ見つかっていない為、反撃するのも向こうが襲ってくるのを待たないといけないし、海賊だって武装船団が居れば避けるくらいの知恵はあるだろう。
そしてこの状況にいち早く立ち上がったクランが2つあった。
『コロンビア旅団』と『大海賊王』だ。
特に『大海賊王』クランは自分たちを置いて海賊を名乗る奴らを目の敵にしていた。
「という訳でよ。俺達でその海賊を名乗る無法者たちをとっちめてやろうぜ。
本物の海賊は最高に格好いいってのを見せ付けてやる」
「ふぉ、ふぉうふぁな」
「海の平和を守るのは旅団の義務でもありますからね」
「ふぉふぁっふぁのふぁ」
「……太陽のはいい加減、口の中のものを飲み込んでから話せ」
「んぐんぐ、ごくん。
いやあ済まん済まん。あまりに美味くてついな」
「ただの握り飯だろうに、そんなにかよ」
「パン派の私には縁の遠い話ですね」
「何というか、例えるなら普段回転寿司を食べてるところに回らないお寿司?
それも金額の桁が2つくらい違う高級店の。
もしくは茹でたパスタに醤油をかけて『和風パスタ』って言ってる奴にイタリア料理のフルコースとか」
「「ごくっ」」
ダンデの出した例えに思わずつばを飲み込む2人。
そんな2人を見て意地悪そうに笑うダンデが「しかし」と続ける。
「しかし今から手に入れるのは厳しいだろうな」
「な、なんでだ?」
「個数限定なのと行列がひどい。もう数時間前から100人くらいならんでるんだもん。びっくりだよ」
「くっ、マジか。海賊とかもうどうでもよくなってきた」
「おいおい」
がっくりと膝を突く大海賊団団長。
といっても流石にフリだったのかすぐに起き上がった。
「こうなったら、海賊なんてさっさと倒して俺達も並ぶぞ」
「並ぶんかいっ」
「俺としてもさっさと解決するのは賛成だ。
何とかして米の出どころ、特に種籾を見つけたいからな」
「待て待て、新発見は私達の役目だ。そこは譲れないな」
「ちなみに何か特別なバフとかは付くのか?」
「ああ、普通のステータスアップの他に『ド根性』が付く」
「『ド根性』?」
「それってまさか」
「清水の舞台から飛び降りる事が出来るようになるそうだ。
つまり告白をする際に背中を押してくれるんだと。
……冗談だ。
それもあるが『即死級ダメージを1回だけ無かったことに出来る』らしい」
「おいおいおい」
「『1で耐える』っていうのは良く聞くけど、無かったことにするのは凄いな。
不意打ちが無意味になるじゃないか」
「まあな。流石に強力過ぎて1日1回の制限はあるみたいだけど」
「それでも破格すぎだろ」
「よし。やっぱり海賊なんて無視して種籾探しに出よう」
「いやいや、それはダメだって」
ダンデは暴走仕掛ける会合を何とか纏めて海賊討伐へと乗り出すのだった。
後書き日記 リース編
7月27日
今日はカイリ君の提案でみんなでお出掛けです。
店番を島のおば様お願いしつつ集合場所へと向かいます。
その際に『頑張るんだよ。負けるんじゃないよ』って声を掛けられたんですけどなんだったのでしょう。
集合場所の港に着いたらレイナも同じことを言われたっていうから、この島の風習なのかもしれないですね。
さて、港に集まった私たちは結構注目を浴びています。
中には気軽に声を掛けて来る人も。
といってもナンパじゃありません。
よくうちの休憩所を利用してくれるお客さんです。
今日はどうしたの?って聞かれたので、今日はお店休んで友達と遊びに行くんですって答えたら微妙な反応をされました。
多分、現地の人が休みを取るのが不思議なのでしょう。
実際には中の人が居る訳ですが。
ともかく出発です。
こうして町を歩いているとイベント開始前に見た時よりも活気づいているのが分かります。
冒険者ギルドの前を通れば、島の冒険者と仲良さげにダンジョンに向かう一団が目についたり、
市場を通れば値切り交渉に大勢のギャラリーがくっついていたりと楽しそうです。
これが私たちが頑張った成果なんですね。
そう考えると頑張って良かったって思えます。
休憩所に篭りっきりだと外の様子とか分からないですからね。
あ、凄い行列。
ってウィッカさんのバーでした。
イベント2日目から休憩所でも大福の提供を開始した結果、目ざといというか食に興味のある人は出どころを聞いてきてましたからね。
そういう人たちにはひとまず町のバーを紹介しておいたんです。
といってもバーでも料理とお弁当を提供しているだけで、材料の出どころとかは秘密にしてますけど。
お弁当の販売は『カップルorハーレム限定』となっています。
一応デートにもっていく為のお弁当ですからね。
でもやっぱりというか、デートそっちのけでお弁当目当てで並んでいる人が多そうです。
あそこなんか、男性2人で並んでますし。男同士でも『カップルだけど何か?』と言われたら否定する訳にもいきません。
まぁ女性1人に男性4人でハーレムですっていう人も居ますしね。
あまり締め付けを厳しくしてもいけないので、これくらいが妥協点なのでしょう。




