レアドロップを求める人たち
ペーター達と別れて第6階層へと来た俺達は、前回来たときとのギャップに呆然と立ち尽くしていた。
「……なんだこれ」
「えっと……俺達以外のプレイヤーがここまで辿り着いてるのはまぁ予想通りではあるんだけどな」
「にしても異常じゃないか?」
そう呟く俺達の視線の先では、大勢のプレイヤー達が駆け回っていた。
そのほとんどが目を血走らせているのだ。
「よっしゃあ!ボスの首取ったぜぇ!!」
「おっし、玉鋼きたぁ!!」
「くっそぉ。来ねぇぇぇぇ」
「次のボスはどこじゃあああ」
「ヒャッハァァーー」
「「……」」
どことなく世紀末な雰囲気になっている。
誰も彼もが徘徊型ボスを求めて走り、見つけては飴に群がる蟻のごとく攻撃を加えている。
現地の人もチラホラ見かけるけど、彼らはプレイヤー達の狂気に付いて行けず呆然と見守っていた。
その中で見知った人が居たので声を掛けてみる。
「な、なぁ。ブリラさん。これはいったいどうなってるんだ?」
「ん?おぉダンデか。いやな。
昨日1日様子を見て、問題なさそうだと思ったからこの辺りのボスからレアメタルがドロップするって伝えたんだが、その途端、あいつらの目の色が変わってな。
気が付いたらこんな感じだ」
「あ~、なんか同郷の奴らがすみません」
昨日1日で相当うっぷんが溜まってたんだろうか。
それを吐き出すように全力で騒いでるな。
というか、徘徊型とはいえボス多すぎないか?
さっきからフロア内に常時1、2体居るように見えるんだけど。
って、そうか。
魔物の数がプレイヤー人数に比例するならボスの数もその分増えるのか。
それと多勢に無勢とはいえ、ボスはボスだ。
黙ってやられている訳じゃない。
「キシャアアアアッ」
「ぎゃああっ」
「ジョニーーッ。くそっ、ジョニーのかたぃ、ぐはっ」
ボスの反撃を受けて数人のプレイヤーが死に戻っていく。
更には水中からもボスらしき魔物が強力な攻撃を放っていく。
「左舷、津波来ます」
「盾で受け流せ!」
「無理無理無理うおぉおおぉぉ」
波に呑まれて10人近いプレイヤーが水中に没していく。
水中に落ちてしまえば重装備のプレイヤーに生き残る術はない。
あえなく魚の餌になっていく。
それでもまだまだ大勢のプレイヤーが犇めいているんだから酷い話だ。
「……これに混ざるのは無理だな」
「ああ。一度最下層まで行ってみるか?
魔物は強くなるだろうけど、ここよりは空いてるだろう」
「そうだな。よし、駆け抜けるぞ!」
「「おお!」」
ボス戦をしている奴らを横目に俺達は次の階層を目指した。
そして第8階層。
流石にここまでくればそれ程人は多くなかった。
「おっ、『太陽の騎士団』じゃん。遅かったな」
「ん?お前は確か『クリムゾン愛』だっけ」
先に来ていたプレイヤーから声を掛けられた。
そいつ、正確にはそいつらとは何度か顔を合わせたことがある。
こっちと同じ攻略クランだからな。
群島の占領の時とかにちょいちょいぶつかってた。
要はライバルクランだな。
「ああ。デビアだ。大方上の様子を見て降りてきたってところだろ」
「まあな。それでこっちはどうなんだ?」
「それなんだが、勝てなくはないけどちとキツイというか効率が悪い。
陸上だけなら良かったんだけど、水中からのちょっかいもあって大技が決めきれないんだ。
だから、もし良かったら共闘しないか?」
そう言って右手を差し出すデビア。
それを見て一瞬考えたけど、特にデメリットは無いと判断してその手を取った。
このゲーム、ドロップアイテムとかは直接各自のアイテムボックスへ入る。
なので横取りとかの心配はない。
貢献度によって手に入るものが変わるって説もあるけど、運の要素が強い。
「ドロップ品は各自受け取った人の物って事で良いよな?」
「ああ。消耗品に関しては自腹でよろしく」
「まぁ仕方ないな。
あと即興の連携は厳しいだろうからお互いのクランで左右から挟み撃ちにしていこう」
「おっけー。あ、巻き込み注意な」
「巻き込まれるヘマはするなってことだな」
「ふっ。一応大技の前には一言掛けてくれ」
「分かったよ」
ニヤッと笑い合ってから手を離した。
そうして俺達は新たに現れた巨大リザードマンのボスへと立ち向かっていった。
一方その頃。
ダンデ達と別れたフラフはバーに来ていた。
「さぁネタは上がっているのよ。
キリキリ吐いてもらいましょうか!!」
バーのオーナーに詰め寄るその姿は堅気を止めてしまったかのようだ。
しかしオーナーも慣れたものなのか、のんびりお酒を飲み続けていた。
その姿を見て更にフラフは憤慨していた。
「ちょっと、聞いてるの?!」
「聞いてるわよぉ」
「だったら教えなさいよ」
「まぁまぁ1杯飲んで落ち着きなさいって、ほらほらっ」
「くっ」
ぐぃっとコップを押し付けられて仕方なくそれを受け取るフラフ。
そのまま並々と注がれた琥珀色の液体を一気に飲み干した。
「おっ良い飲みっぷりね。その飲みっぷりに免じて……」
「はふぅ~~。らりほれぇ~。めっひゃおいひぃんらけろ」
「あらぁ。一気に『酩酊』状態になっちゃったわね」
「おねえひゃん、もういっぱい」
「えぇ~どうしようかしら。さっきいっぱい怒鳴られたしねぇ」
「にゃあ~~ごめんなさいれふぅ」
「っ!!」
ちょっと揶揄おうとしたら、超絶可愛い反応が返ってきてドギマギするオーナー。
「仕方ないわねぇ」
そう言いつつもう1杯コップに注ぐオーナー。
ちなみに酩酊状態だと色々な枷が外れた状態になる。
人によっては暴れ出したり歌いだしたりする。
リアルと違って脱ぎだしても肌着までは脱げない仕様になっているから安全なような残念なような。
そして酩酊状態を過ぎると泥酔状態になり、リアル同様まともに動けなくなる。
こちらも時間が経つか薬を使えば二日酔いの心配などもないが。
「もぅ、聞いてくださいよぉ。あいつってばね~」
「はいはい」
結局フラフは肝心なことは何一つ聞けず、泥酔をすっ飛ばして昏睡するまで、延々と彼氏の愚痴をこぼし続けるのだった。
後書き集会
7月26日
その日俺達は全員がログアウトして寝る前に集まってROOMミーティングで話し合いをする時間を設けた。
「みんなお疲れ~」
「あ、お疲れ様でした~」
「「お疲れ様です」」
最後に合流したウィッカさんを全員で迎える。
そして全員集まったところで今日集まった理由を話し始める。
「さて、今日でイベントも3日目が終わった訳だけど、みんなぶっちゃけどう?」
「えっと、ぶっちゃけちゃっていいの?」
「うん。その為にこっちで集まった訳だしな」
アルフロ内での会話はどうも運営に筒抜けになってる気がするんだよな。
プライバシーはどうした!!って言いたくなるけど、逆にゲーム内でスパイ活動をされても困るし、不正を防ぐ名目もある。
なのである程度は仕方ないというのが社会の見解だ。
ま、それは今は良いとして。
「一言で言えば、疲れた、かな」
「ですね。アルバイトでもしてる気分になってきました」
「あ~そうそう、そんな感じ」
休憩所を営んでいるリースとレイナ。
休憩所なのにふたりは休む間もなくプレイヤー達の相手をしていたからな。
疲れるのも無理はない。
バイト代を運営に奮発してもらおうかな。
「ウィッカさんはどうですか?」
「そおねぇ。自分にはラウンジのママは務まらないのがよく分かったわ」
「というと?」
「笑顔で酔っ払いの相手とかめんどくさい」
「ははっ。まあそうでしょうね」
「それと今日くらいからちらほらデートコースを利用する人が増えてきたでしょ?
独り身の私に見せつけるようにイチャイチャしながら来る人たちにお弁当を売ってるとモヤモヤするのよね」
「うわそれ凄く分かります!」
ウィッカさんの言葉に力強く賛同するサクラさん。
そう言えばサクラさんとツバキさんは今日からデートコースの案内に移ったんだっけ。
「もう何が悲しくて他人がイチャイチャする姿を眺めていなくちゃいけないんですか」
「爆発すればいいのよ、爆発っ」
「もしくは願いの泉に投げ込まれて破局すれいいのに」
「今のところ1人として居ないし、安い硬貨を投げ込む人たちまで居るし。
あんたらの愛はそんなものか!?って殴り飛ばしたくなるわ。
カイリさんとリースさんを見習えっての」
「まぁまぁ」
うーん、サクラさんとツバキさんも色々溜まってるなぁ。
「ところでカイリ君はどうなの?ずっと第9階層に居たんでしょ?」
「ああ。なんというか、その……暇だった」
「あ、あはは……」
「そ、そうよねぇ。畑仕事だって1日中掛かる訳じゃないものね」
「誰も来ない洞窟の中で、みんなが楽しんでるのをモニタ越しに見続ける」
「鬱病になりそうですね」
一応畑仕事以外にも、一緒に居るメンバーで合唱したり運動したりは出来るけど、イベントっぽい事は何も出来てないからなぁ。
むしろ準備が終わった段階で今回のイベントは9割方終わったと言ってしまっても良いかもしれない。
もしかしたら運営の人たちも似たような気持ちを普段から抱いてるんだろうか。
そうだとしたら運営会社ってかなりダークな職場だな。
「よし。そんな訳で、明日からはサポートNPCに代行をお願いして、俺達もイベントを楽しもうと思います」
「おお!っていいの? 今回って普通のイベント参加は無理って話だったと思ったけど」
「そうです。第9階層以降の情報を私達だけが知ってる訳ですし、ある意味不公平になってしまいますよ」
「大丈夫。要は他の人たちとは違う路線で、メインのダンジョン以外の場所で楽しめれば良い訳なんだから」
「そんなところあるの?」
「それは明日になってからのお楽しみ、かな。期待してくれて良いと思うぞ」
そういう訳で、俺達も明日からはイベントを満喫することに決めたのだった。




