加速するイベント情報
バランスを調整するのが難しいですよね。
7月25日。
イベント2日目にしてダンデ達は若干の行き詰まりを感じていた。
というのも、初日はあの後、第6第7階層まで降りて試掘を行った結果、ほとんどレアメタルは出てこなかったのだ。
魔物の強さはそれ程ではないにしても、それ以上深く進んだら鉱石を持って帰るのも一苦労だろう。
一応第5階層のボス前の休憩所でそれまで掘った鉱石を一時的に預かってくれるサービスもしてくれるが、それでもこのまま探索を続けるのは割に合わない気がしている。
「どうしたもんかな」
「そうねぇ。他のダンジョンに行ってみる?
島の外の小島にも採掘ポイントがあるみたいだし、そっちに行ってみるのも手かもね」
「まぁな。でもそっちはそっちでもう結構な人が流れてるだろ」
「確かにね」
そんな沈痛な空気のなか、意気揚々と若干のアルコール臭を振りまいてバルガモがやって来た。
その手の中にはバーでテイクアウトしてきたのかグラタン皿が美味しそうな湯気を立てている。
彼は俺達が悩んでるのを見て若干の優越感を伴って話しかけてきた。
「ふっふっふ。そんなお困りなリーダーたちに朗報があるぜ!」
「おっ。バルガモ、昨夜は素寒貧だ~~って騒いでたのに復活したのか」
「おおよ。それにただ散財しただけじゃないぞ。
バーのオーナーからイベント攻略に関する情報を手に入れてきた」
その言葉を聞いた瞬間、それまでダレていたダンデががばっと顔を上げた。
「本当か!」
「ああ。どうやら島の住人とある程度仲良くなると教えてもらえるみたいだぞ」
「それでそれで? その情報っていうのは?」
「まぁそうがっつくな」
宥めつつ手の中のグラタン皿にスプーンを差し込み一口食べた。
くっ、なんかめっちゃ美味そうじゃないか。
情報も気になるけど、その味も気になって仕方ない。
フラフもずっと視線がグラタン皿に向いたままだし。
そんな俺達の様子に満足したのか、バルガモは話を続けた。
「今回仕入れてきた情報はレアメタルの入手法だ。
幾つかあるそうだが、一つは第5階層以降で採掘スキルを使って採掘することだ。
それも上級の採掘スキルがあると尚良いらしいな」
それを聞いて、まるで時間を巻き戻すようにダンデが机に突っ伏した。
「採掘スキル持ってねぇし」
「はっはっは。俺もだ。
そこで次の入手方法だが、第6階層以降に出現する徘徊型ボスがドロップするらしい。
これに関しちゃ、オーナーの姉さんも直接確認したわけじゃないみたいだけどな」
「そりゃあなぁ。バーのオーナーがボスキラーだったらこの島ヤバいだろ」
「は、はは。そうだな」
突然乾いた笑みを浮かべるバルガモ。
なんだ、なにかあったのか?
まぁいいや。そんな事より。
「ボス討伐なら俺達の十八番だな」
「だろっ。他のダンジョンでもレアメタルが掘れたって情報はちらほら出てるけど多くは無い。
ならまだそれほど人も多くない下層でボス狩りに精を出すのもいいだろう」
「よし。フラフっ。急いで準備していくぞ」
「……待って」
「ん?」
フラフから何故か鬼気迫った雰囲気が伝わってくる。
何が彼女をそうさせたんだ? その視線にあるものと言えば、バルガモのグラタン皿?
そう推察してたらフラフの右手がフラフラと震えるように持ち上がってバルガモを、というかグラタン皿を指さした。
「バルガモ。あなたがさっきから食べてるそれっ」
「ん?これか。バーでお得意様限定1日5食しか販売してない特製ドリアだ。
言っとくがこれしかないんだから、やらんぞ」
「ドリアですって!?」
ドガーンと雷に打たれたようなリアクションで衝撃を受けるフラフ。
いったいなんだって言うんだ?
「ふ、フラフ?大丈夫か?」
「え、えぇ」
「それじゃダンジョン攻略に」
「ごめんなさい。今日は急用が出来たから抜けるわ!」
言うが早いか、ババっと立ち上がって走り去ってしまった。
「……何だったんだ?」
「さぁ。トイレを我慢してたとか?」
「いやそんなんじゃないと思うけど、もうちょっとデリカシーを持とうな」
バルガモにツッコミを入れつつ、ダンジョンへ向かう。
その途中でペーター達とも合流した。
結局彼らは昨日一日上層階の水中で活動していたんだっけ。
そして今日からも別行動で水中探索をしたいという連絡を貰っている。
どうやらハマったらしい。
「ペーター達もこれからダンジョンに行くところか?
徘徊型ボスがレアドロップするっていう情報があったからこれから討伐に乗り出すんだけど、一緒に行くかい?」
「いや、やめておこう。実は僕の方でも面白い情報を手に入れてね。
これから情報があっているのか、調べに行くところなんだ」
「そうか。じゃあ、お互い成果があったら共有しよう」
「うん。あ、それと」
「ん?」
「明日で良いからフラフさんと2人でデートコースを周ってきてほしい」
「ん?おぉ」
珍しいな。ペーターがそういう事言うなんて。
バルガモなら冷やかしついでに良く言ってるけど。
「ペーターがそういうって事は何かあるのか?」
「いや、僕だって恋愛やデートに興味が無い訳じゃないんだよ?
まあ確かに、今回のデートコースもただ歩くだけじゃないって噂を耳にしたんだけどね。
詳しい事は何もわかっていないから調べたいんだけど、カップルもしくはハーレム限定らしいんだ」
「ハーレムて。
そういう事なら分かった。フラフにも後で確認しておくか」
あ、そう言えばパンフレットにもデートコースについて書かれてたな。
後で確認しておこう。
後書き日記 カイリ
7月25日 早朝
俺は昨日1日のイベントの状況を反芻していた。
初日という事もあり多くのクランが海を渡るのに手間取り、島への到着が遅くなっていた。
それは、ある程度予想していたから問題はない。
しかしそれを踏まえても、1日目のイベント内容を一言で表すと「盛り上がりに欠ける」だった。
元々採掘というダンジョンに篭っての肉体労働。
それに拍車をかけるアイテムボックスの機能制限。
更にはなかなか出ないレアメタル。
魔物だって特別なものが出る訳でもない。
恐らく今日もこの状況が続けば、このイベント自体が旨味ゼロのつまらないものだった、という評価を受けるだろう。
それは運営にとっても避けたい事態だと思う。
ならどうするか。
盛り上がらない原因を取り除けば良いだけの話だ。
一番のネックはやはりレアメタルが出ない事だろう。
なので、冒険者ギルドや市場、バーなどである程度好感度を稼いだと判断した相手に対してそれとなくボスドロップの情報を出すようにお願いしていく。
もしそれでも盛り上がらないようなら、いっそのこと第10階層以降についても情報を出しても良いかもしれない。
もちろんその場合は全員にではなく、徘徊型ボスを5体以上倒したら、などの条件は付ける。
ただこれは、徘徊型ボスからのドロップがどれくらいかが分かって無いから、それ次第かな。
あまりに渋るようなら早々に公開してしまおう。
あと、メインのネタではないけれど、お米の情報も少しずつ出していこう。
準備期間中にリースが幾つかお米料理を作っていたから、その中のどれかをバーとか休憩所でそれとなく出してみよう。
ただ、おにぎりとかあからさまにお米っていうのじゃなく、多少手のかかった料理で。
そうすると、うーん。バーでドリア、休憩所で大福とかかな。
これはリース達とも要相談だ。
最後に悩ましいのは水中の採掘とかが全然やられてない点かな。
今は一部のもの好きがやってるくらいだからな。
そのせいで、ダンジョンの旨味が半減してしまっている。
ほとんどのプレイヤーが水中活動に慣れていないのが原因なので、レクチャー出来る人を増やすとか、水中のサポーターを増やせれば改善出来るかもしれない。




