温泉バフの効果
今回はダンデ達のボス戦風景。
カイリ達の時と違いが出れば良いんだけど。
「さ。心機一転、ボス戦と行くか」
「ええ、そうね。終わったらまた入りに来ましょうね!」
「あ、あぁ。それもいいな」
お風呂上りでツヤツヤのお肌にほんのり火照ったフラフを見て、明後日を向きながら照れるダンデ。
他のメンバーはそんな二人を見ながらニマニマしていた。
「いやぁ。あっついねぇ」
「夏だもの。当然よぉ」
「っ。さあ、行くぞ」
「あっ、ちょっと待って。大事なお約束を忘れてるわ!」
「ん?」
お約束?
何かあっただろうかと首を傾げるダンデに1本の瓶が差し出された。
瓶のラベルには『ふるーつ牛乳』と書かれていた。
「温泉と言ったらやっぱりこれでしょ」
「やっぱこれでしょって。……俺コーヒー牛乳派なんだけど」
「残念。そっちは無いみたい。多分まだコーヒーが出回ってないのね」
「んじゃ、今日のところはこれで勘弁してやるか」
そう言って瓶を受け取り蓋を取った後、腰に手を当てて一気にゴクゴクとふるーつ牛乳を飲みほした。
「ぷはぁ。火照った体にキンキンに冷えた1本は堪らんな」
「ふふっ。まるでビールを飲んだおっさんみたいな発言ね」
「おっさんは酷いな。って、これ。しっかりバフが付いてるぞ。
『衝撃耐性』と『感覚強化』だって」
「2つも付くのね。そうか、牛乳と果汁を上手く組み合わせてるんだわ。それに使ってる材料の質もかなり高そう」
「効果時間は短いみたいだけど、ボス戦中は持ちそうだ」
「温泉も『美肌』『水耐性』『冷気耐性』『回避アップ』が付いてるわ」
「美肌もバフなんだな」
「そうみたい。つまり一時的なものなのね。残念」
「でもこれ。温泉入ってからボスに挑むのと入らずにボスに挑むのでかなり差が出来そうだな」
「バフ6つだもんね」
「それだけじゃなく、バフの内容からして、遠距離攻撃と水属性に要注意ってことだ」
「あ、そっか」
全部のバフが当てはまるかは分からないけど、それでも攻撃手段の方向性は見えてくる。
更に言えばここまでの魔物の傾向から言って水棲の魔物の可能性は高い。
「よし、じゃあ今度こそ行くぞ」
「ええ」
扉を開けてボス部屋に入れば、予想通り、水棲のワニのボスとその取り巻きが待ち構えていた。
「初撃は貰うわね」
「ああ」
すっと前に出るフラフ。
その両手にはBBQで使う串が何本もあった。
「さて、あなたたちは美味しいのかしらね。『焼き串』!」
ふふっと笑いながら放たれる真っ赤に燃えたBBQ串。
実際には『焼き串』というスキルではなく、ファイヤエンチャントと投擲術と料理人の調理器具強化の混合スキルだ。
それらは取り巻きのリザードマン達の肩や腕、太ももなどに突き刺さっていく。
「うーん、この距離だとまだ急所に直撃とは行かないわね」
「でも全弾命中してるし、腕は上がってるんじゃないか?」
「そうだと良いんだけど『感覚強化』バフの恩恵もありそう」
そんな呑気な会話をしている間に、攻撃を受けた取り巻き達がダンデ達に殺到してくる。
といってもボス部屋用に多少強化されただけの魔物はダンデ達の敵ではない。
第3、第4階層の水中からの攻撃に比べれば楽なものだ。
その時の鬱憤を晴らすように、ばっさばっさとなぎ倒していった。
「さて、問題のボス本体だけど。まだ何してくるか分からないから、後衛も要警戒な」
「ええ」
そこへ突撃を仕掛けてくるボス。
しかし警戒していれば十分に避けられる程度の速度だ。
「よし、これなら余裕」
「ダンデ、上よ!」
「なに!?」
フラフの声に慌てて上を見ると天井の鍾乳石が落ちてくるところだった。
しかし、スルスルと危なげなく避けていくダンデ達。
頭に直撃かと思われた石も髪を滑る様に落ちて行ってしまう。
「なにが……ってそうか、これが『美肌』効果か」
「美しい肌は傷つかないっていう事? ネタでも凄すぎるんだけど」
上からの攻撃が気にしなくて良いとなれば、後は楽勝だった。
すれ違いざまに攻撃を加え、振り向きざまに攻撃を加え、順調にボスのHPを減らしていった。
しかし残りHPが3割になってボスの挙動がかわった。
GRAAAAッ!!
「やっべ。水中に逃げられた!」
「大技出してくるかと思ってたのに」
「ちょっと油断しすぎたな」
「水中まで追っていくのは得策じゃないわね」
「ということは、水から出てきたところを攻撃するしかないな」
固唾を飲んでボスが頭を出すのを待つダンデ達。
しかしそれをあざ笑うかのように出てきたのはボスの尻尾だった。
「なにを……」
「!?さがって!」
「うわっ」
振り回された尻尾によって大波がダンデ達を襲った。
水の圧力に態勢を崩される。
そしてここぞとばかりに顔を出したボスが、今度は口から水弾を吐き出した。
吹き飛ばされるダンデ達。しかし幸いにも大ダメージには至っては居なかった。
「っぶねぇ。水耐性無かったらピンチになってたかもしれないな」
「ほんとね。でも困ったわ。ボスがまた水中に戻ってしまってる」
その言葉の通り、水弾を吐き出したボスはまた潜水を始めた。
「もしかして延々とこれが続くパターンか?」
「さっきの突撃の連続から考えると、可能性は高いわね」
「どうする、リーダー?」
「うーん、釣り上げるってのが一番楽しそうなんだけどな」
「釣師のカワセミはペーター達の班に行ってるわね」
「だよな。ならさっきと同じで出てきたところを叩くぞ。
尻尾が出てきたら高波をガード。頭が出てきたら遠距離攻撃で総攻撃だ」
「「はいっ」」
攻略パターンさえ編み出してしまえばダンデ達に敵は無い。
多少潜り続けるボスに辟易しながらも危なげなく討伐を終えた。
「おつかれ~。思ったより時間が掛かったな」
「そうね。遠距離攻撃が得意なメンバーがもっと居たら楽だったかもしれないわね」
「いや、そもそも水中に逃がしたのが失敗だったよ」
「確かに。HP3割切ったところで畳みかければ何とかなったか」
色々と反省点を出しながら、次に他のクランメンバーが来た時の為の攻略法も検討していく。
そうしてそれがひと段落したところで、下層階である第6階層へと足を踏み入れるのだった。
後書き前日談
カイリは来てくれたと思ったらさっさと帰ってしまった。
折角クランの皆を紹介しようと思ったのに。
あと、さっきのカッパとカイリの関係性も聞いておきたかったんだけど。
多分あれ、カイリの新しい従魔だよな。
以前、イカとかを従魔にしたって言ってたし、あいつの従魔に普通ありがちな魔物は居ないんだろうか。
でもまぁ、主人が変だから仕方ないのか。
むしろ今更、馬とか鷹とか従魔にしてたら、本当に普通の生き物か疑うんだろうな。
っと、それはともかく。
無事に材料が揃ったし、戻ろうか。
帰り道は特に何事もなく、無事に俺はおっさんの家へと訪れた。
すると想像以上に早く集まったせいだろう、正気を疑われた。
いや。疑うなら事実かどうかを疑えよな。なんで俺が正気かどうかを疑ってるんだよ。
そんなこと言うなら薬は渡さなくても……よし、素直になればよろしい。
ちなみに材料は集めたけど、誰が薬に加工するんだ?
あ、それは最初に材料を特定した薬師がやるんだな。よかった。
でも?
でも、なんだ?
材料の品質が若干低いのがあるから、治療後の体力回復に栄養のある食事を与えたい?
だってさ、フラフ。何とかなるか?
多分大丈夫だけど万全を期すなら高品質な食材がほしい、か。
って、その手は何?
以前、お裾分けでもらった海野菜が欲しい?
マーケットとかには流れてないんだっけ。
基本売り切れてて手に入らない、か。
噂ではコアなファンが張り付いてるって話だしな。
ま、カイリなら頼めば直ぐに……来たぞ。
どうやらマーケットに流す分の他にある程度在庫は確保してるみたいだな。
そうして無事におっさんの娘さんの治療も済み、そのお礼におっさんが俺達の船の船長をやってくれることになった。
よしよし。これでイベント期間中の船の扱いについては心配がなくなったな。
後は……実際の船作りか。
みんなノリが良いから変な機能とか付けてないかちょっと心配だな。




