地底の休憩所
気が付けば後書きの方が本編より長くなりそうな今日この頃。
バルガモ達が第3階層の採掘を終えた頃。
ダンデ達は第4階層を抜けて第5階層へと来ていた。
(さて。第4階層もほぼ地底湖フィールドだったから一気に第5階層まで降りてきてしまったけど)
他の班はどうかと連絡を取ってみると、ペーター達の班は水中の検証を行っているらしい。
『水竜のお守りの効果が切れるまで水中の調査していくよ』
と言うペーターは検証に夢中というより、一度発動させたお守りの効果を途中で放り出すのが嫌なだけだろう。
彼は検証家であり、倹約家でもあるからな。
こういう時は気がすむまでさせてあげるのがうちのクランのルールだ。
ボス討伐とか決まった目標が無いときは基本自由だからな。
下手に縛るより自由にさせていた方が後から見ると良かったことは良くある。
そしてバルガモ達は採掘で荷物がいっぱいになったら一度戻ると。
これもある意味予想通りだ。
今回のイベントのルールからして行きに採掘をすると身動きが取れなくなると思ってた。
掘るなら帰りだろう。
折角なので、彼らには地上の様子を見てきてもらおう。
「ということで、他の班は来ないみたいだ」
「はぁ。まあいつも通りね。分かれて行動し始めた時からこうなると思ってたわ。
しっかりしてるんだか、抜けてるんだか」
みんなも慣れたもので怒ったりするメンバーは居ない。
あれでちゃんとやるときはやってくれるって信じてるからな。
俺達は俺達でやれることをやろう。
「パンフレットによると第5階層はボスフロアらしいけど、その手前に休憩所があるんだってさ」
「休憩所ってあれのこと?」
フラフが指さす先には見るからにボス部屋への入口ですよっていう感じの門を挟んで2つの茶屋があった。
……なんでダンジョンの中に茶屋があるんだ?
何かの罠かと疑いもするが、パンフレットにも掲載されてるし
『ボスアタック前に一息入れて行ってくださいね♥️』
とポップな文字でアピっている。
「まぁ、覗いてくか」
「そ、そうね」
俺達は恐る恐る茶屋に向かっていった。
すると中から店員と思われるリスの人獣とアライグマの人獣が出てきた。
「あ、いらっしゃいませ~」
「い、いいいらっしゃいませぇ」
リスは元気よく、アライグマはちょっと恥ずかしそうに挨拶してきた。
やっぱり敵という訳では無さそうだな。
「えっと、ここって休憩所であってるのか?」
「はい。ダンジョン探索と採掘で疲れた体を癒す為の場所となってます」
「店の奥が温泉になってますので、入られる方は男性は右、女性は左の建物へどうぞ」
「温泉って」
言われてみれば壁の向こうから湯けむりが立ち上っているのが見える。
「しかし入浴中に魔物に襲われたりはしないのか?」
「はい。ここはボス前の安全地帯となっていますから、大丈夫です」
「入浴されない方もお茶とお菓子の販売をしてますのでゆっくりして行ってくださいね」
「はぁ。そうですか」
返事をしつつ仲間と相談することにした。
「……どうする?ボス前にリラックスし過ぎるのも問題な気もするけど」
「そうね。でも温泉は気になるわ」
躊躇う俺の後ろから店員の声が掛かる。
「ちゃんと湯あみ着もありますし、今なら貸切状態ですよ?」
「!」
「それに温泉に入るとボス戦に有利なバフが付きますよ?」
「「!?」」
「よし、入ろう」
「そうね!」
そうして俺達は温泉に浸かっていくことにした。
ボスを目の前にして何やってるんだって気もするけど、寄り道も大事だよな。うん。
湯あみ着を渡されて脱衣所へと案内された。
「あ、そうそう。皆さんなら大丈夫かと思いますが念のため」
「ん?」
「ノゾキは厳禁ですからね。今日に限らずイベント期間中にそのような行為に及ぼうとした場合、どうなるか保障できませんからね」
「「は、はい」」
そう言い残してアライグマさんは戻っていった。
一瞬背筋を冷たいものが走ったんだけど、何だったんだろう。
「ま。ひとまず入るか」
「あれ。リーダー覗きに行かないんですか?」
そうメンバーが話しかけてくる。
「そうっすよ。あれは押すなよ押すなよって奴ですよ」
「いやいやいや。やめとけって」
「リーダーともあろうものが怖気づいたんですかぁ?」
更に囃し立てて来る仲間に俺はため息を突きつつキッパリと宣言した。
「いいか。ノゾキ自体を禁止はしないが、うちのメンバーが入ってるときはダメだ」
「えぇ~。うちって結構美人ぞろいじゃないですか。覗かないなんて損ですよ」
「やっぱあれですか?フラフさんの裸は俺のもんだ!的な」
「それもあるけど、それだけじゃないから」
「あるんだ……」
「ごほんっ。とにかく。今後もずっと一緒に活動してくんだぞ。
ノゾキなんてバレて気まずい雰囲気になるとか嫌だろう」
「それもそうですね」
「シャルマさんの冷たい視線とかゾクゾク来ますけどね」
「言ってろ、ドMめ」
「それでそれで。リーダーはフラフさんとどこまで行ってるんですか?」
「あ、それ俺も聞きたい!」
「秘密だ」
「えー、良いじゃないっすか。みんな口は堅いですって」
「どの口が言ってんだ」
「まぁまぁ。それで、キスまでは済ませてるんですよね?その先は」
「ええぃ、やかましい。大人しく温泉に浸かってろ~~」
修学旅行のノリで盛り上がる男子たち。
一方女子はというと。
「……来ないわね」
「だから言ったじゃない。ダンデはそんなことしないって」
「分かんないわよぉ。男って所詮下半身で考える生き物だからね~」
もしかしたらとノゾキを警戒していたけれど、何事もなさそうで安心したようながっかりしたような、複雑な雰囲気を纏っていた。
「私の彼だって、胸の大きな人とか居たらすぐそっちに目が行くんだから」
「まぁ、普段は手が届かないからこそ?」
「ちょっ。私の胸を見てため息をつかないでください!」
わいわいと女子トークするのは男子側と大差は無かった。
後書き前日談 (裏つづき)
イカリヤと共に花クジラが居るという南西へと向かう。
「きょきょ~~」
「ちょっ、イカリヤ早いって」
「きょっ」
直線の速度だけなら空を飛ぶ鳥より早い。
そのうち『直線番長』とか『ドラッグモンスター』とか称号が付きそうだ。
「って、また前!」
「きょっ」
どがっ
大丈夫って全然大丈夫じゃないじゃないか。
え、ぶつかる直前で粉砕したから、こっちのダメージはゼロ?
ってそういう問題じゃなくてだな。
「はぁ。もういっか。
それより、花クジラはまだ遠いのかな?」
「きょきょっ」
「もう見える頃?そうか。じゃあここからは海上の様子を確認しながらゆっくり行こうか」
「きょ~」
海上に頭を出せば、少し先に花が咲いてる小さな島っぽいのが見える。
あぁ、島じゃなくてあれが花クジラか。
『魚人と北の魔物か。また珍しい組み合わせじゃな』
直接頭に言葉が流れてきた。
これは花クジラからの念話か?
「こんにちは。俺はカイリ。こっちはイカリヤです」
「きょっ」
『ふむ。サメ達が動かぬところを見ると敵意はないようだが、お主らもワシの上に咲く花が目当てかの?』
「はい。こう見えても俺は農家なので、クジラの上に咲く花ってどんななのか凄く興味があるんですよ」
『ほぉ。農家か……』
ん?農家だと何かあったかな。
じっと考えるしぐさをする花クジラ。
少しして結論が出たのか、再び話始めた。
『これまでお主以外にも多くの冒険者や漁師がワシに挑んで来ては返り討ちにあって来た。
しかしその過程で背中に何本も銛が刺さったままになっているのじゃ。
そのせいで最近、花の発育が悪くなってきているようでな』
「なるほど。花が咲くために背中だけ他より柔らかくなっているんですね」
『うむ。そこでちと見て来てはくれんか。ワシでは背中まで手が届かん。
銛を抜き、出来れば新たな花が元気に咲き誇れるように手を打ってほしい』
「分かりました。やってみましょう」
『報酬になるかは分からないが、今咲いている花は幾らかは摘んでもよいぞ』
「いいんですか? 大切な花なんじゃないんですか?」
『大切じゃ。しかし花は土壌さえしっかりしていれば根こそぎ刈ったとしてもすぐに咲く。
大事なのは何度でも咲き続けられることなのじゃよ』
「なるほど。じゃあ土壌?の改善のために人肌脱がせて頂きます」
『頼んだぞ』
そんな訳で、花クジラの体をよじ登ることにする。
幸いにも河童の手は滑り止めの役目も果たしてくれるみたいだ。
「あ、イカリヤ。送ってくれてありがとう。この後はどうする?」
「きょっ♪」
サメ達と遊んでくる、か。
ここのサメは知性も高そうだし大丈夫だろう。
そうして花クジラの背中へとやってきた訳だけど、酷いなこれは。
何本も突き刺さっている銛が痛々しい。
元々は網目状になっている部分に花が根を伸ばしていた様なのだけど、銛が刺さったせいで網が破れてしまっている。
「まずは銛を抜いてしまうか」
うーん、抜いた痕が痛々しいな。
こういう時にはウィッカ印の万能ポーションの出番だな。
これを銛を抜いた後に振りかけて……おぉ。見る見る修復されていく。
流石ポーションだな。
よし、ならこの調子で全部抜いて行こう。
そうして抜いては治療してを繰り返して全部の銛を抜いた後、ダンデ用に少しだけ花を頂戴することにした。
ついでだし、どんな花か観てみるか。
【花クジラの生け花:レア度4、品質3(-1)。
花クジラの背中に生える花。十分な栄養が行きわたらなかった為、若干元気がない。
花クジラから養分を吸っているとも言われているが、その生態は謎。
以前、花クジラの子供がその花を食べているところを目撃されており、母乳の代わりの役目を持っているという意見もある。
花の蜜は万能薬としての効能がある為、一時期は乱獲の憂き目にあう事もあった】
なるほど。子供のご飯なのか。
それなら確かにしっかり育ってくれないと困るよな。
改めて花畑を見返してみると、治療したところから早くも芽が出てきているし、この様子なら完全復活もすぐだろう。
よし、後はこの花をダンデに届ければ、って。
この格好のまま行くのは不味いか。なんて名乗れば良いかも難しいところだし。
よし、それなら。
「ていっ」
花を括り付けた銛をダンデの船に投げつつ、俺は反対側に降りる。
花クジラにも挨拶しつつ、その下に潜って早着替えっと。
無事に普段の格好に戻った俺は何気ない感じでダンデの船に飛び乗った。
花の付いた銛をもってぼけっとしてるダンデに話しかける。
「よっ。ダンデ。遅くなった。って、すまん。花が手に入ってるって事は、もう終わったところか」
「お、おう。つい今しがたな。というか、さっきの……」
「あああっ。そう言えば、確か解毒草も必要だって言ってたよな。これで間に合うか?」
「さっきのカッパ……」
「よし、じゃあ俺、この後も用があるからこれで。じゃあまたな!」
「カ……っていっちまった」
何かを追求される前に最新の海スギナを譲渡してササっと船を降りた。
さ、帰って明日からの探索の準備をしよう。
って、イカリヤはどこまで遊びに行ったんだ?




