ぼったくられ別動隊
『太陽の騎士団』の(自称)特攻隊のバルガモ達。
構成メンバーの平均年齢は30前半だ。
リーダーが高校生クランでは珍しい存在と言えるだろう。
「ていっ(ガンッ)。たあっ(ゴンッ)。はぁっ(ズンッ)」
「あの、バルガモさん?」
「なんだっ(ガンッ)。呼んだか?(ゴンッ)」
「うるさいっす」
「いやだけどよ(ガンッ)。黙々と掘るのも(ゴンッ)つまんねぇだろ(ズンッ)」
ツルハシを一振りする度に声を上げるバルガモ。
無駄と分かってはいつつもツッコミを入れる仲間。
他のメンツもいつもの事と気にしない。
というよりも。
「せいやぁ(ゴンッ)」
「うりゃさ(ガンッ)」
「ふんぬぁ(ズンッ)」
同じ穴の狢であった。
「はぁ。せめて一人は常識人が必要だと思ってこっちに来たけど、完全に貧乏くじだな」
「はっはっはぁ。そんなに難しく考えてると禿るぞ」
「禿ません! というか、また魔物が集まってきましたよ」
フロア全体から音に誘われるように魔物が集まってくる。
ただ、その音が採掘の音なのか男たちの声なのかは分からないが。
「運営も分かってるねぇ」
「何がですか?」
暴走族の喧嘩よろしく大型メイスで近付いてきたリザードマンをぶっ飛ばしながらバルガモが独り言ちる。
「これが採掘一辺倒のダンジョンだったら早々飽きるだろ。
こうしてちょくちょく魔物が来てくれるからこそ、いい気分転換にもなる」
「まあ確かに。それは否定しませんけどね。
というか、今日の皆さん。いつも以上に張り切ってません?」
「そりゃもちろん、ここに来る前に飲んできた酒の効果が残ってるからだろうな」
この世界の食べ物は勿論空腹を満たすだけのものもあるが、その多くが質に比例して様々なバフが付く。
時としてそれは、必ずしもプラスのバフとは限らないが。
今回で言えば、『気分高揚』『戦意向上』『疲労軽減』『恐怖耐性』などが付いている。
「あ、それでさっきから大騒ぎだったんですね」
「いや、あれは素だろう、みんな」
「……」
「だけど『疲労軽減』はかなり有難い効果だな」
「それは確かにそうですね」
「よし。という訳で、明日からもダンジョンに行く前はバーに寄っていくってことで」
「はぁ。良いですけど。でも僕はお金貸しませんからね」
「ちょっ、そこは俺とお前の仲だろう。
もうちょっとであのバーテンの猫ちゃんを口説けそうだったんだぞ」
そう言って思い浮かべるのはカウンターの向こう側でちょっぴり切なげな表情を浮かべていた猫の人獣。
猫とは言ってもペルシャ猫のように品があり、大人の女性を連想させるしぐさをしていた。
酒を注文しながら話を聞けば、色々あったけど島の人たちのお陰で何とか持ち直してこうして念願のバーまで経営出来るようになったんだとか。
霧が晴れて沢山お客さんが来れば、お世話になってきた人たちに恩返しが出来るかもしれない。
健気にもそう言って笑う姿に、バルガモは心打たれてしまったのだ。
「ゲームなんですから口説けたって何が出来る訳でもないでしょうに」
「良いんだよ。やっぱ男なら気に入った女を笑顔にさせてなんぼってもんだろ」
「そうですね。そういうところは格好いいと思いますよ。
ただそれで破産寸前になってなければ、ですけど」
「ぐっ。だからこうして稼ぎに来てるんだろ」
「もうダンジョンに来た目的が完全にすり替わってますね」
ま、楽しみ方なんて人それぞれだ。
それで別に他のメンバーに迷惑を掛けている訳でもない。
むしろやる気に満ち溢れているのだから良い事だろう。
ただ問題と言えば。
「今回のイベント、鉱石はアイテムボックスに入れられないのがきついですね」
「そうだな。段々運ぶのが厳しくなってきた。これだと行けて4階層ってところか。
リーダーには悪いが、一度地上に戻って鉱石を売るなり預けるなり出来る場所を探そう」
「そうですね。じゃあ僕から連絡は入れておきます。リーダー達だけでも5階層のボスくらいなら倒せると思いますし」
そうしてバルガモ達は掘れるだけ鉱石を掘った後、地上へと戻っていった。
町まで来た彼らが見たのは、来た時とは違って多くのプレイヤーで賑わう町だった。
「おぉ。流石にみんなもう辿り着いてるか」
「みたいですね。まぁ海上で大変だったのは氷山地帯だけですから。
あれだって速度を落とせば十分余裕をもってかわせたでしょうし」
見ればプレイヤー達はパンフレットを片手に楽し気に町の散策をしたりダンジョンに向かうためにバルガモ達とすれ違って行った。
「こりゃもう1回ダンジョンに行こうと思ってたけど、渋滞してそうだな」
「そうですね。特に初日の今日は攻略組はまずダンジョンに殺到するでしょうし、第3階層くらいまではエンジョイ勢も含めて大勢詰めかけることになるでしょうね」
「よし、なら今日の探索はここまでにして鉱石を置いたらバーに行くぞ」
「はいはい」
そうして彼らが今日稼いだお金はすべてお酒へと姿を変えていった。
まぁ誰も彼もが笑顔だったので、きっと良い事だったんだろう。
後書き前日談 (裏)
21xx年7月16日
試験も終わり、これから本格的に採掘ダンジョンに入って対策を練ろうと思った矢先。
久しぶりにダンデの方から連絡が届いた。
『カイリ、手伝ってほしいことがあるんだ』
その一文を読んだ瞬間、ダンジョン探索は明日以降に延期かなと頭の中でスケジュールを変更する。
『分かった。何をすればいい?』
『いやぁ、お前だって色々忙しいって言ってたし、試験終わった後で疲れてるのは重々承知してるんだけど、こういう事で頼れるのはお前しかいないかなって……』
『はいはい。それで何してほしいんだ?』
『最近はずっと放置してたのに都合のいい時だけ頼るっていうのも虫のいい話なんだけどさ』
『あー……なんだっけ、こういうの』
『ん?』
『そうだ。水臭いって奴だな。
俺とダンデの仲で難しい事を考える必要なんてないだろ。
困ってるなら助ける。以上。それでいいだろ』
『お、おぉ』
『んで、なにして欲しいんだ?』
聞けば花クジラっていう生き物の背中に咲いている花が欲しいらしい。
クジラだから当然海に居る。海上に居てくれれば良いけど、海中じゃ手が出ないだろうからな。
それで俺に協力を求めて来た訳か。
まぁ、達成できないクエストは用意しないだろうから、きっと海上に上がって来てくれるとは思うけど。それでも普通は厳しいか。
それじゃあこっちも用事をサッと済ませて合流地点に行くか。
と思ったところでふと、イベント関連のクエストに手を貸したら不味いかなと思い当たった。
なので運営に確認。
……島とイベントの情報を出さなければOK。でも折角だからイベント中の変装を先行して試してみる?だって。
そう言えばイベント中は俺達だって分からないようにするって話だったけど、変装するのか。
うん、面白そうだからやってみよう。
そうして送られてきたのは河童の着ぐるみ。
装着してみれば着ぐるみというより一時的に種族が変わったかのようなフィット感だった。
確かにこれなら中に人が入ってるとは思われないだろう。
よし、ちょっと時間食ったから急がないと。
イカリヤ、いつものようによろしく!
あ、安全運転でな。




