別動隊の水中探索
遅くなりました。
というか主人公が出てこない時はいつも筆が遅くなります。
そしてなぜか謎の短編を描いているという。遅れたのはこれのせいか?
『正しいパーティー追放のされ方』
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「ふむ、どうやらルートによって特徴、主に陸地の比率が違うようだね」
そうつぶやいたのはペーターだった。
鼻の頭に載せた眼鏡をついっと右手の中指で押し上げるのが彼の癖だ。
「先ほど入った情報ではバルガモさんの方はほぼ陸地。逆にリーダーたちの方はほぼ水場らしいですね」
「それで行くと私たちのルートは中間か」
「第2階層とそんなに違わないですし、そうでしょうね」
彼と共に行動を良く共にするメンバーはどことなく知的な雰囲気を纏っていた。
良く言えば頭脳派、悪く言えば理屈派。
そして検証派でもあった。
「どうやらリーダーは採掘を諦めて先に進むことにしたそうですよ」
「彼の行動力の高さにはいつも感心させられるね」
採掘ダンジョンなのに採掘を後回しに出来る。
そういう臨機応変さにペーター達は好感を抱いていた。
「バルガモさんの方は?」
「一通り採掘をしていくそうです」
「向こうは肉体派が多いからね。
でもそれなら上層階の地上部分の採掘に関しては任せてしまって良いだろう」
「ということは、私達は」
「うむ。水中の確認と行こう」
ふふっ、と笑みを浮かべるメンバー。
「恐らくもう数時間もすれば他のクランも来るだろうし、『大海賊王』や『コロンビア旅団』の姿が見えないのも気になる所だ」
「確かに。島に辿り着いたのはほぼ同時の筈ですから」
「あ……もしかしたらパンフレットとか見てないのかも。それで他の採掘ダンジョンに向かったとか」
「そうだな。『大海賊王』の奴らって他人の作ったレールに乗りたがらない奴の集まりだからな」
「悪い奴らではないんだけどね」
「『コロンビア旅団』も新発見を美徳としてるから、敢えてパンフレットに載ってないものに向かった可能性があるか」
「ということは多少は時間に余裕があるってことか」
このメンバー。
話し込み始めると長くなるという特徴も持ち合わせている。
いつもならバルガモやフラフが痺れを切らして話をぶった切るのだが、今はその役目がいない。
ついつい討論を始めそうになってしまう。
「よし、ではこれから、水中でどれだけ動きが制限されるか、水竜のお守りがどれほどの効果を発揮するか、そして水中の採掘は地上とは採れるものが変わるかを調べて行こう」
「「はいっ」」
パンパンと手を叩いて仕切るペーター。
彼がサブリーダーになっているのも、こうして手綱が握れるところと、しっかりとした方向性を示せることを買われたからだ。
各自自分の役割は大体把握しているから目標さえ決まればテキパキと準備が進む。
「前衛は水中で武器が振るえるのか、防御や回避はできるのか、なにより息苦しくないのかを確認するところから始めよう」
「はい!」
「後衛は地上から水中へ魔法が通るのかの実験だ。
くれぐれも地上の魔物を忘れて襲撃を受けないようにな」
「分かってますよ。ちゃんと見張りは立てます」
「よし、では行こう」
「「はい」」
ペーターを始めとした数名が服を着たまま水の中に入ることに違和感を覚えつつ、陸地から地底湖へと一歩を踏み出そうとして……落ちた。
踏み出した先に海底は無かった。
そう、この地底湖はなだらかな窪みに水が溜まっているのではなく、切り立った崖の底に水が溜まっているような構造だった。
ダイビングなどに慣れていれば良かったのだろうけど、リアルでの運動は苦手な部類のペーター達は、一瞬パニックに陥った。
このゲームでこれまで水中で活動する機会がなかったのもそれに拍車をかけた。
「がぼがぼごぼっ(溺れる!?)」
慌てて口を押えるも一気に吐き出される空気。
同時に口に流れ込む液体。
「ごぼがぼがぼごぼっ(助けてくれーー)」
ちょんちょんっ
「ごぼ?」
肩を押された感触に振り返れば、メンバーのミッチーが居た。
彼は何やら腕をワキワキと動かして何かを伝えようとしている。
「(えっと……落ち着け?水、飲んでも大丈夫?呼吸出来てる?)」
言われて試しに息を吸うように水を飲んでみた。
「ごぼぼっ(おぉ。息苦しくない。不思議な感じだ)」
ふっ、久しぶりに取り乱してしまったよとニヒルに笑うペーター。
まぁいつもの事ですねと軽く流す他のメンバー。
地上ではカシャカシャと写真を撮影する姿もあった。
そして落ち着きを取り戻したペーター達は、改めて現在の状態を確認し始めた。
(呼吸……おっけー。
手足の動きは……普通にプールの中と変わらないか。
あ、でも服が水分を吸って重くなったりはしてないのか。ふむふむ)
続いて武器を抜いて振り回してみた。
ごぼごぼごぼ……
(くっ、厳しいなこれは)
ペーターのメイン武器はショートソードだ。
にも拘らず結構な水の抵抗を受ける。
これでは水中の魔物と戦うのは厳しそうだ。
あと面倒なのが水中で会話が出来ない事か。
魔物が近づいて来ても伝える手段が身振りしかない。
水中は360度全方位から狙われる危険があるので情報伝達が遅れるのは致命的だ。
(魔物に襲われたらマズいが、手ぶらで戻りたくも無いな。
よし、あそこだけ採掘して戻ろう)
(おっけー)
(魔物さん来ないでよー)
何とか身振りで最も近い採掘ポイントへと向かう。
(よし、採掘は私とミッチーでやるから、後は護衛を頼む)
言葉なら一瞬なのに身振りだといちいち時間が掛かる。
これは良いものが掘れなければ水中は効率が悪すぎるな。
そして。
ごぼごぼごぼ……ごん
(くそ重たいな。地上の倍くらいか)
振るうツルハシが鉛のように重い。
それでも何とか採掘は行えそうだ。
そう思った矢先。
(ちっ。集まってきやがった)
(予想通りですね)
どうやらここの魔物は採掘をしていると集まってくるらしい。
ふと、ペーターはパンフレットにはそんな事は書いてなかったなと思い、そう言えば採掘に関しては全く触れられていなかったなと改めて内容を振り返る。
この町で作られたパンフレットなら採掘の話が中心になっていてもおかしくないのに。
(意図的に情報が隠されている?
それともまさか、このパンフレットを作ったのは……)
(ペーターさん、そろそろ限界です!)
(ちっ、仕方ないですね。離脱しましょう)
一瞬過ぎった可能性。
それを確認する暇もなく、ペーター達は陸地へと戻るのだった。
後書き前日談
21xx年7月16日つづき
襲いかかるサメを4匹ほど倒したとき。
「ボオーーーーッ」
「汽笛?」
「違う、クジラだ」
それまで静観していたクジラが鳴き声を上げた。
何が起きる?
サメじゃらちが明かないと見てクジラ自身が攻めてくるのか、それとも……。
「攻撃が、止んだ?」
「クジラは?」
「まだ前方に居る。でもなんだ?さっきと違って俺達なんて眼中にない感じだ」
さっきまでは俺達の船を視界に入れながらのんびりとしていたのに、今は完全に背中を向けてしまっている。
ひっきりなしに飛んできていたサメたちも攻撃の手を止めてクジラの近くに戻って行った。
クジラに近づくなら今がチャンスなのかもしれないけど、絶対何か起きてるよな。
「なぁ、これってもしかして。あれじゃない?
リーダーが拾ってきたフラグ」
「あぁ。あの徘徊型ボスに襲われたって奴か」
「サメだけでもかなり苦労してたのに、ボスまで来られたらアウトだぞ」
「うーん、ランダムエンカウントであることを期待して一度撤退する?」
みんなが相談し合っている中、俺はクジラ達の視線の先へと意識を向けていた。
ドオォォンッ!!
突然上がる水柱。
水中で何かが大爆発したんだろうか。
少なくとも普通の海の生き物が作り出せるものじゃないと思う。
……次はなんだ、と身構えていたけど、何も無いな。
まるでさっきのは何かの間違いだったと言うかのように穏やかな海に戻った。
クジラとサメ達も変わらず水柱の上がった方向を見ているだけだ。
と、そこでメンバーの一人が何かに気が付いた。
「クジラの目の前に何か居るぞ」
「なにっ!?……あ、確かに。白っぽいのと、緑っぽいのが居るな。
魚人族なのか? クジラに何か話しかけてるみたいに見えるな」
「しかし遠すぎて良く分からん。もうちょっと船を近づけよう」
「ええ。警戒されないようにそっとね!」
船をクジラへと進める。
その間に魚人族とクジラの話し合いは終わったのか、魚人族の緑の方がクジラに近づいて行って……よじ登ってるな。
白い方は水中に戻ったのか見えなくなったけど、緑の方は何かが分かってきた。
「……カッパ?」
「河童ね。ちゃんと服を着てるし、体つきもしっかりしてるわ」
「なんで河童が海に居るんだよ」
「まぁまぁ」
「お、背中の花畑に辿り着いたぞ。何がしたいんだ?って、何か抜いた!」
「槍……いや、銛かな。どうやらクジラの背中にずっと刺さってたみたいだね」
謎の河童は花畑を歩き回って数本の銛を抜き取り、その傷跡に何か振り掛けている。
恐らく治療薬の類だろう。
そのついでと言った感じで花を幾つか摘んでいるようにも見える。
「って、こっち見た」
「さっき引き抜いた銛を構えてるわよ!」
「げっ、投げた!みんな避けろよっ」
河童の投げた銛は甲板の中央に刺さった。
それを見てうんうんと頷いた河童は俺達とは反対側に飛び降りてしまった。
更にそれに合わせるようにクジラも海中に潜って行ってしまう。
「まずいっ。逃げられるぞ!」
「待ってリーダー。追わなくて大丈夫よ」
「なんで!?」
「あれを見て。さっき河童が投げてきた銛」
「ん?あっ、これは」
銛の柄には花クジラの物と思われる花が括り付けられていた。
これって攻撃じゃなくて、俺達に花をプレゼントしてくれてたのか。




