島に上陸
霧隠れ島。
岸壁に既にいくつか採掘ポイントが確認できることから、島全体が採掘場になっているのかもしれない。
また本島とでも呼ぶべき一番大きい島の他に小さめの島も近くにあって、そちらにも採掘ポイントやダンジョンがありそうだ。
中盤になって人がごった返して来たらそちらもにぎわうのだろうけど、他のクランより先行で来た今日は本島を思う存分探索させてもらおう。
そして港に到着。
事前情報では港町には友好的な種族の魚人や人獣っていうのが暮らしているらしい。
拠点で流れてた噂話だったからどこまで信ぴょう性があるか心配だったけど杞憂で済んだようだ。
『ようこそ、霧隠れ島へ』
そんな横断幕まで用意して俺達を歓迎してくれていた。
今回のことは俺達プレイヤーだけじゃなく、現地の人たちにも神託みたいな形で伝えられているってことだからな。
迎える準備もしてあったってことだろう。
「じゃあ船長。船を頼みます」
「おう。とは言っても心配はないだろうけどな。
警備や見張りも十分居るし練度も悪く無さそうだ。
ま、暇だったら町の酒場で飲んでるさ」
「飲み過ぎないでくださいよ?」
「はっはっは。それは約束しかねるなぁ」
「まったく」
まぁともかく後を船長に任せて俺達は船を降りた。
あ、流石に町中までは採掘ポイントは無いな。
しかしどっちを向いても着ぐるみかって言いたくなる姿の人ばかり。
そんな中、ふたりの魚人が俺達に声を掛けてきた。
「ようこそ、霧隠れ島へ♪」
「私たちはガイドのサクラエビとツバキンギョです」
「「よろしくね♪」」
「お、おう」
かなりハイテンションのふたりは、確かにエビと金魚の着ぐるみもとい、魚人だ。
「皆さんがこの島にきた目的はやっぱり採掘ですよね!」
「この島では他ではなかなか採れない鉱石が出るみたいですからね」
「でも、この島をただの鉱山島だと思ったら大間違い」
「幾つも素敵なスポットがあるので是非立ち寄ってくださいね」
「あ、これ。島のパンフレットです。あまり数は無いので皆さんで見てくださいね」
「「それじゃあごゆっくり~」」
息の合った掛け合いに口を挟む暇もなかったな。
ふたりは言うだけ言って、あっという間に居なくなってしまった。
多分、他に到着したクランの所に向かったんだろう。
「さて、パンフレットを貰った訳だが」
「何が書いてあるの?」
パンフレットをクランメンバー全員で見れるように共有する。
「えっと『まずはここ。冒険者ギルド!ここに行かないとイベントの5割は損するよ』だって」
「こんな島にもギルドはあるのね。他には?」
「『お酒好きなあなたはバーはいかが?美人なお姉さんが待ってますよ』とか」
「私はお酒は飲まないからパスね」
「美人なお姉さんとか言っておばあちゃんが出て来るとか定番だよな」
「オイオイ。俺は絶対行くからな。
リアルでそういう店行ったら金が幾らあっても足りないからな」
「はいはい。全部の時間を採掘に使う必要はないでしょうからね」
他に書いてあったのは市場のお買い得情報に採掘ダンジョンの位置(全部じゃないらしい)。
あとは……なんだ、これは。
「デートスポット?」
「『気になるあの人を誘ってみてね♪』だって」
「『願いの泉』とかありがちですね」
「あら。占いと一緒でほとんどないと分かっていても一縷の望みに賭けたくなるのが人ってものでしょ」
「まあそうですけどね」
あとは商店街のチラシよろしくお買い得情報とかが載ってるくらいか。
「さて、俺はまず冒険者ギルドを見てこようと思うけど、全員で向かう必要もないだろう」
「そうだな。なら俺は早速バーに行くか。情報収集にもなるだろうしな」
「とか何とか言って、バルガモもお酒が飲みたいだけじゃないの?」
「それもあるがな」
「はぁ。酔って暴れたりしないでよ?」
「わかってる。そう言うフラフはどうせリーダーと一緒に行くんだろ?」
「そうね。ダンデだけに任せる訳にもいかないし」
「ま、建前はな」
「……何が言いたいのかしら?
まぁいいけどね。ペーターは?」
「僕かい?そうだね、市場でも眺めて来るよ。何か珍しいものとかもありそうだしね」
「値切り過ぎて怒られるなよ」
「はいはい」
サブリーダーの3人がさくっと行動方針を決めると他のメンバーもそれぞれ分かれることになった。
この辺りは派閥ってほどじゃないけど、大体分かれ方は毎回同じだ。
ただ今回で言えば酒の飲めないメンバーがペーターと一緒に市場に向かうくらいの違いがある。
そしてやって来た冒険者ギルドは、建物自体はそれ程珍しくないけど、他のプレイヤーが誰も居ないのはちょっと新鮮だな。
あと普通の人が全然居なくて代わりに魚人と獣人、いやプレイヤーの獣人とは全く違うから人獣って呼ぶんだっけ。
こうしてここに居ると少数派な俺達の方が物珍しく思われてそうだな。
そうぼぉっと眺めていたのが不味かったんだろう。
屈強なゴリラの人獣が俺達の所へとやってきた。
「よぉ。お前ら、見ない顔だな。霧が晴れて島の外から来たのか?」
「ああ。おれはダンデ。こっちはフラフだ」
「こんにちは」
「俺はブリラってんだ。……しかし、そんななりでダンジョンに行くつもりか?」
「ん?何か変か?」
「変っつぅか、その細いやつばかりじゃ碌に採掘も儘ならないんじゃないか?」
言われて仲間たちを振り返る。
一緒に来てるのは料理人のフラフ以外なら戦闘系3人、魔法系2人だからそんなに悪くないと思う。
あ、でも採掘っていう意味ではパワー系は俺ともう一人しかいないか。
「確かに戦闘は何とかなるだろうけど、採掘は大変かもな」
「それに魚人族が居ないだろう。行く場所にもよるが、ダンジョン内は半分は水中だ。
採掘場所も半分は水中にあるし、魔物だって水中から攻撃を仕掛けてくる。
掘った鉱石を抱えた状態じゃ、そいつらの攻撃を避けるだけでも一苦労だぞ」
今回のイベントは夏ってこともあって、とことん水にちなんだ内容になってるのか。
うーん、カイリならやりたい放題だろうに。
何か用があってイベント期間中はほとんどログイン出来ないって言ってたんだよな。残念だよなぁ。
まぁ、あいつの分まで俺達が頑張ればいいか。
先日の礼に代わりに採掘もしてやりたいしな。
「しかし今から魚人族の仲間を作るっていうのも時間が勿体ないな」
「おう、そこでだ。良かったら俺達を雇わないか?」
「ん?どういうことだ?」
「現地ガイドってやつだ。見ての通りここには普段からこの島のダンジョンで活躍してる奴が沢山居る。
魚人族なら水中でもお手の物だし、俺とかは効率的な採掘の仕方も知ってるしポーターにもなれる」
「なるほど、しかし、俺達は嬉しいけど、そっちはどうなんだ?
普段の仕事を奪われるようなものだろう?」
「もちろん、ただでとは言わんさ。もらうものは貰う。
それにお前達、外の冒険者が採掘に来たら採掘場所の奪い合いになっちまうからな。
それに比べたらお互いに協力した方が得ってもんだろう」
ふむ、言ってることは理にかなってると思う。
確かに彼らの力を借りた方が圧倒的に効率的に活動できるだろう。
だけどなぁ。
ちらっとフラフの顔を見れば、全てわかってると言いたげに頷いた。
ほかの皆も俺の言いたい事は分かってるんだろう。薄っすらと笑ってる。
「ブリラさん。なら明日から頼めるか?」
「明日?今日はどうするんだ?」
「今日は俺達だけで行ってくるよ」
「無茶だと思うがな」
「分かってるけど、それが冒険ってものだろ?」
ニカッと笑って見せると、ブリラさんもはっとした顔をした後に笑い出した。
「はっはっは。そうだな。
こりゃ参った。俺も年を取ったもんだ。
よし、なら最後に一つだけ言っておくが、市場で『水竜のお守り』ってのを買って行くといい。
それがあれば短時間だが水中でも息が出来るからな」
「分かった。ありがとう」
市場ならペーター達が着いてる頃か。
そう思いながら俺達は冒険者ギルドを後にした。
後書き前日談
21xx年7月15日
昨日のうちにマーケットや知り合いの伝手を使って、必要なアイテムのうち幾つかは手に入った。
だけど残り3つは手に入らなかった。
今日はそのうちの1つを取りに来ている。
その名も『崖っぷち草』。
獣人族本島にある山の山頂付近、その断崖に生えている草だ。
効能は気付けが主らしい。だから気付けが出来るなら他の素材でも良いそうだけど、必要な基準がレア度4。
レア度3までならもっと簡単に手に入るけど4まで来るとこういう普通じゃない場所に来る必要がある。
「まったく。最前線まで出てるところで本島まで戻すとか運営も意地が悪いな」
「リーダー、何か言ったーー?」
崖の下から仲間の声が聞こえてくる。
くそ、あいつら。そういう美味しい役はリーダーにこそふさわしいとか言い出しやがって。
俺が崖から落ちるところを激写しようとカメラ構えてるのは分かってるんだぞ。
「そんなところに居ないで、お前らも登って来いよ。良い眺めだぞ~」
「いやっす。おれ高所恐怖症なんで」
「嘘つけーー」
「それに誰かが援護しないと。ほらっ。またハゲワシが来たっすよ!」
「くそっ、こいつもさっきから俺の頭ばっかり狙いやがって」
崖にしがみついてて碌に反撃が出来ないのを良い事に、この魔物はじっくりホバリングして近づいては頭を攻撃してくる。
ハゲワシってそういう意味じゃないだろ。
ひゅひゅひゅっ
「グゲーーッ」
仲間からの弓の援護射撃に慌てて飛びのいたハゲワシだったけど、今度はその矢が俺に当たりそうになる。
ちょっ。1発俺の股の間に刺さったぞ。
「このへたくそーー!
俺の穴狙ってんじゃないだろうなーー!」
「げっ。バレたっすか!?」
「てめぇ。後で覚えてろよ!!」
そうして何とか『崖っぷち草』の元まで辿り着いた。
「よし、確保っ」
ボガッ
「あれ?」
『崖っぷち草』を抜いた瞬間、手を掛けていた根本の岩までポロっと取れた。
そうなるともちろん足だけで体を崖に繋ぎ止めることも出来ない訳で。
「どわああああああ~~~~」
「さっすがリーダー。お約束は外さないっすね。もうマジ最高!!」
「こなくそ~~~~」
こうなったら一蓮托生だ。
あいつに向けて飛び込んでやるぜ。
「行くぜ『空中ダッシュ』」
「ぎゃああーーリーダー来ないでーー」
「はっはっはぁ。もうどおにでもなれだーー」
そして俺達は崖の染みになるのだった。




