あとは待つばかり
アルフロにログインして竜宮農場に行くと、イカリヤとコウくんがせっせと畑仕事をしてくれていた。
「ふたりともいつもありがとう」
「きょっ♪」
「ぴっ♪」
「明日……明後日までには向こうも落ち着かせるから、それまで頼むな」
他の皆は今、イベントダンジョンの第9階層に行って貰っている。
なのでここに居るのはふたりだけだ。
「何か変わったことはある?」
「ぴっ♪」
今しがた収穫した海シイタケっぽいものを渡された。
ぽいものと言ったのは、本体は海シイタケなんだけど、傘の外周にスズランの花みたいなのがぶら下がっている。前はこんなの無かったよな。
あと傘の中央が凹むようになったのか。
【提灯シイタケVer.2:レア度5、品質6。生産者:カイリ。
シイタケ系植物を光魔法系スキルで育てた結果、変異したもの。
更には多くの詩を聞かせ続けたことにより特殊進化を果たしている。
通常のシイタケと同様に食べることも可能であり、MPを回復させるだけでなく、一時的に最大値も上げる効果がある。
暗くなると外周の花が光を放ち、周囲の魔物の敵愾心を抑える効果がある。
寝室に置いておけば安眠効果も期待できる。
また一部の魔物、精霊との親和性がある】
いつの間にか品種改良されてたのか。
光魔法ってことはコウくんが丹念に育ててくれたのが功を奏したんだな。
レア度が結構上がってるし、凄いな。
あとは、Ver.2とかあるけど、1はどうしたんだ?
「すごい、よくやったな!」
「ぴっ!」
コウくんとハイタッチを交わす。
くいくいっ
「ん?」
「きょっ」
次はこっちと言わんばかりにイカリヤがほうれん草を渡してくる。
こっちはちょっと葉っぱの形が違う気がするけど、普通にほうれん草か?
強いて言えば根っこの部分が持ち手みたいになってるけど。
【剣ホウレンソウMk2:レア度5、品質6。生産者:カイリ。
ホウレンソウ系植物を刀剣系スキルで育てた為に食材の枠を超えたもの。
更には多くの詩を聞かせ続けたことにより特殊進化を果たしている。
通常のホウレンソウと同様に食べることも可能であり、一時的に筋力、器用、敏捷、耐久にプラス補正が掛かる。
根から魔力を通す事で、葉が鞭のようにしなやかで刃物のように鋭くなる性質を持つ。
根を切り離せばこの性質は失われるため料理をする際にはまず根を切る事。
また一部の魔物、精霊との親和性がある】
シイタケ同様にイカリヤのスキルで品種改良がなされたみたいだな。
でも、光魔法なら光を当てれば良いだろうけど、刀剣系のスキルはどうやって使ったんだろう。
あとやっぱりMk2とか付いてるんだな。
それで、根に魔力を通すってあるけど、こうか?
ブンッ!
「おぉ!」
試しにやってみたら、刀というか鍔がないから長ドスっぽくなったり刀身がふらっと揺れて蛇腹剣みたいにもなった。
「……もしかして今後はこれが俺のメイン武器になるのか?」
「きょっ♪」
「似合ってる?そ、そうか」
まぁ今まで鍬で戦ってたのは流石に無理があったからな。
個人的には見た目がちょっと気になるけど、戦力アップには違いないな。
「ありがとうな」
「きょっ」
この流れで行くとニンジンも何かありそうだけど、それはヤドリンが帰ってきてからにしような。
ちなみに、見た感じ2段階くらい品種改良が進んでる気がするけどなんでだろう?
え、あぁ。先日のボス戦を経てみんなも成長していたのか。
なるほどな。
よし、思わぬ嬉しいことがあったけど、当初の予定通りイベントのダンジョンに向かおう。
と、その前に更にもうひとつ寄り道しないと。
寄り道を終えた後は転送門へと移動した。
招待状特典なのか、ダンジョン内であっても拠点扱いで転送門から直接飛べるようになっている。
「よっ。おぉぉ」
飛んだ先ではヤドリンを始め、ミズモ、カウクイーンなどの従魔の他、ユッケたち魚人族のみんな、更には土の精霊ちぃズ、水の精霊みぃズが大勢で歌いながら動き回っている。
「みんな、おはよう。いつもありがとうな!」
「くぃ」
「みぃみぃ」
「モオオッ」
「「ヌシ様~。おはようございま~す」」
「ちっちちぃ~♪」「みみぃ~~♪」
皆が元気に返事を返してくれる。
うんうん。こうしてみると大分大所帯になってきたな。
そして畑はというと、稲穂が黄金色に輝いている、なんてことはなく、青々と茂っている。
でも背が高く細い葉の形状から期待は出来ると思っている。
残念ながらまだ1回も収穫してないから何が収穫できるかは分からない。
全ては明日だな。
「くぃっ」
「おっと、魔物が出たか」
「モッ!」
ビュンッ、グサッ。
ポップしたイノシシっぽい魔物は次の瞬間、カウクイーンの投げた手斧によって脳天をかち割られていた。
「こっちも来たわ!」
「やるぞ皆」
「「おうっ」」
ユッケたちもポップした魔物を取り囲んで危なげなく退治している。
彼女らは俺と会う前から海の魚や魔物を狩ってたから、ここに出る魔物の対処もお手の物なんだろう。
ミズモはミズモで器用に畝と畝の間を泳ぐように進みながらドジョウなどの小型の魔物を食べてくれている。
こうして見ると、元々心配はしてなかったけど、ちょっと過剰戦力だったかな。
でもいつ魔物が出るか分からない現状では休むことも儘ならないから大変だろう。
そう思って拠点防衛の心強い味方、死糸花を連れてきた。
今回は生花を根っこごと運んできたからすぐに活動できるはずだ。
「どのあたりに植えれば良いかな?」
『うーん、お水が無いと上まで届かないの~』
「あっ。言われてみればそうか」
『だから天井からぶら下がるのがおすすめなの~』
「でもそれだと水が無いけど生きていけるのか?」
『糸の先から吸うから心配ないの~』
「なるほど」
後の問題はどうやって天井まで届けるかだ。
ざっと5メートルくらいはあるからな。
そう思案しているとカウクイーンの眷属達が名乗り出た。
「ブモッ」
「ブモモ」
「フンモッ」
組体操の要領で2段3段と組みあがり、最上段にカウクイーンが立った。
それでもあと1メートルくらい天井まである。
「モモ~」
「あ、最後は俺?……登るのか、これを」
若干不安に思いつつ、崩れたら笑おうと腹をくくって一気に駆け上がった。
そしてカウクイーンに肩車してもらって何とか届いた。
後は死糸花を逆さまにして……お、根が器用に天井の鍾乳石に巻き付いた。
ただ問題は、これここ一ヶ所じゃなくて何ヵ所もやらないといけないけど、その度に組体操するのか?
「みぃ?」
「へ?」
何故か目の前にミズモが居た。どうやら天井の鍾乳石で体を支えてるみたいだ。
「でもどうやって天井にあがったんだ?」
「みぃみぃ」
壁を伝ってきた?
まぁ天井に張り付けるくらいだから壁くらい余裕か。
「あ、もしかしてその状態で俺に巻き付きながら移動もできる?」
「みぃ!」
うにゅっと俺の脇の下に巻き付くと、すぃっと身体が持ち上がった。
そしてそのまま揺れもなく水平に動いていく。
あ、なんかこういうアトラクションあったな。
さっきと違って下を見る余裕もあるし、楽しいかも。
「……よし、これで最後だ。ありがとう、ミズモ」
「みみぃ♪」
さて後はどうやって降りるかだけど。
「みっ」
「どわっ」
突如始まる自由落下。
それが地面に当たる手前で、みょーんと伸びたミズモのお陰でふわっと軟着陸。
まるでバンジージャンプだな。
さっきの空中散歩といい、いつか拠点に遊園地っぽいものを造っても良いかもしれない。
ダームさんがいれば建築は何とかなりそうだし。
「さて、後は、か」
開墾も終わって、魔物対策も終わった。
収穫は明日以降だし今出来ることはこれくらいか。
なら残り時間は、
「コウくん達も呼んでみんなで演奏会と洒落こもうか」
「くぃ♪」
「「はーい」」
そうして俺達は思い思いに歌ったり、パーカッションをしてみたりして遊ぶ事にした。
……みんなの為に楽器も用意してあげたいな。
後書き相談室 レイナ編
現在私はウィッカさんが建てた酒場の奥の個室に来ています。
というのも、ウィッカさんに相談事があったからです。
「カイリくんとリースちゃんねぇ」
「はい。これまでの出来事から考えて、おふたりはリアルでも知り合いのようなんです」
「確かにその可能性は高そうですね~」
「それでその、私達はどうしたらいいのかと思いまして」
私がそう言うと、ウィッカさんはお酒のグラスを傾けながら「私もそんなに経験ある訳じゃないんだけど」とぼそっと呟いてからこう言いました。
「そもそもの話、ふたりは好き合ってるのかしら?」
「え?」
「例えばそうね。
仮にリースちゃんがカイリくんの事が好きで、でもカイリくんはリアルのリースちゃんが好きだった場合。もしくはその逆ね。
それなら拗れる前に伝えてあげた方が良いかなって思うわよ。
でも、今のところそうでもないわよね?」
「そう、ですね。
ゲーム内や勉強会の時は凄く息が合ってるなって思う事は良くありますけど、お互い特に意識している様子はありませんでしたね」
「でしょう?なら今のままでも良いんじゃないかしら。
リアルとゲームを完全に別に考える人は多いし、ゲームではっちゃけてる姿をリアルの友人に知られたくないって話も聞くしね」
まぁ確かに。
時々ニュースになっている最近の離婚理由の上位に、ゲームで残虐プレイをしていた夫(妻)の正体を知ってショックだった(信じられなくなった)というものがあるくらいです。
流石におふたりに限ってそんなことは無いと思いますが、結局私はおふたりのリアルを知らないから何とも言えないんですよね。
「結局、恋愛って周りが変に動いてもややこしくなるだけだから、温かく見守っておくのが良いのよ」
「はぁ。やっぱりそうですよね。
でも、ふたりの姿を見てるとどうもヤキモキしてしまうんですよね」
「まあ、その気持ちは分かるわ。
でも人として好きなのと、男女の恋愛は違うし、一目ぼれで無ければ何かキッカケが無いと恋愛にシフトしにくいかもしれないわね」
「きっかけ、ですか」
「例えばデートとかね」
「デート……あっ。それなら今回のイベントにふたりで回ってもらうとかどうでしょう」
「ふふっ。悪くはないわね。それで何かが変わるかはあのふたり次第だけど」
よし。ならデートコースの警備をしてくれるサクラさん達にも相談して、ふたりっきりでデートを周れるようにしてみましょう。




