採掘をしよう
無事に水中に逃げられる前にボスを倒せたことに、ふぅ、と小さく息を吐いた。
水中だと俺しか戦えないから、最後の美味しいところを全部持って行ってしまうことになるからな。
ぱちぱちぱちぱちっ
いつの間にか避難してたブリラさん達から拍手が送られた。
というか、何処にいたんだ?
「理想的な勝ち方だったな」
「ありがとうございます」
「部位破壊までバッチリね」
「ん?」
「あぁ、知らずにやってたんだ。
尻尾よ。倒す前に切り離すと報酬が良くなるのよ」
「なるほど」
Uターンする時に壁を尻尾で叩いてたから、切り落として貰ったんだけど、そんな特典があったんだな。
「あ、あとここだけ少し採掘していっても良いか?
ボス部屋は他よりも良い鉱石が出やすいんだ」
「もちろん。それなら俺達も採掘してみようか」
「「はーい」」
俺は武器を鍬から鶴嘴に持ち換え、リース達にも鶴嘴やハンマー、タガネを配っていく。
「じゃあ皆はブリラさんの指示を聞いてくれ。
俺は水中の採掘ポイントを見てくるから。
タツミさん、オコトさん。よろしくお願いします」
「はーい、任せて」
「地上人なのにアイテムを使わずに水中で行動できるって不思議ね」
そう言う2人と共に俺は湖の中へと飛び込んだ。
さて、採掘ポイントは……あれか。
有難いことにキラキラとエフェクトが付いてるから場所は一目で分かる。後は。
「掘り方のコツって何かありますか?」
「そうねぇ。掘れるものによってちょっと変わってくるわね」
「というと?」
「土に混ざっているものと、完全に分かれているものって言ったらいいのかしら。
分かりやすいところで言えば、いくつかの宝石は明確にここから宝石って分かるじゃない?
でも鉄なんかは鉄鉱石、つまり鉄を含んだ石なのよ。
だから前者なら必要な部分だけを綺麗に取って、なおかつ割らない事が重要になってくるの。
逆に後者は割れる事は気にしないで、ガンガン行っちゃえばいいのよ」
「なるほど。分かりやすいですね」
「ここで採れるのはサファイアとかの宝石になるから、慎重にね」
「はい」
「あとは、採掘スキルとか持ってるとまた違ってくるんだけど」
ん?
採掘スキル……ヤドリンが確か持ってたな。
「あの、俺の仲間が採掘スキル持ってるんで呼んでも良いですか?」
「え?ええ」
「じゃあ、失礼して。召喚『ヤドリン』」
「……くぃ」
「ひぃっ」
ズササッ!
「……」
ヤドリンの姿を見た瞬間、数メートル離れるふたり。
その様子を俺とヤドリンが茫然と眺める。
って、そうか。魚人族からしたらヤドリン達って畏れられる存在なんだっけ。
「すみません。俺の仲間なので、危険は無いですから」
「……くぃ」
「そ、そう?」
「食べられたり、しない?」
「大丈夫ですって」
恐る恐る近付いて来るのを見守りつつ、ヤドリンに採掘をお願いする。
「あそことあそこ、かな。
宝石が掘れるらしいんだ」
「くぃ」
元気よく返事をしたヤドリンは俺が指し示したところ、とはまた違う場所に右手のドリルを突き立てた。
ズガガガッ!!
一瞬にしてヤドリンが入れる程の穴が出来た。
でもそこは採掘ポイントじゃ無かったような……。
「くぃ」
差し出されたヤドリンの手には幾つかの青い宝石があった。
これ、色合い的にサファイアじゃないな。
受け取って確認してみれば『ラブラドライト』だ。
「げっ。なんでラブラドライトが!?
それって10階層以降で採れるやつだよ!」
「もしかして上級採掘?」
「……くぃ」
そうらしい。
流石うちのヤドリンだな!
その後もヤドリンがススッと動いてはズガンドガンと右手を振るえば、原石と呼んで良いのか怪しいレベルまで加工された宝石が採掘されていった。
「ヤバいよ。私たちの掘る場所が無くなっちゃう」
「そうだね。ぼーっと見てる場合じゃないね!」
はっと動き出したふたりは、俺でも見えている採掘ポイントに取り掛かった。
でも、ヤドリンは敢えて俺達が見えてるポイントは外してくれてるから、慌てなくても大丈夫だと思うけど。
そうして1通り採掘を終えて満足げに帰っていくヤドリンを見送り地上に戻ると、みんながへばっていた。
「みんな大丈夫か?」
「あ、カイリ君。ちょっと疲れただけだから大丈夫。
やっぱり力仕事は私達には向かないみたい」
それはそうか。
リースは普段重いものって言ったらフライパンとか鍋くらいだろうし、レイナに至っては糸と針と布以外ほとんど振り回す機会も無いだろうからな。
流石にサクラさん達はまだ余裕そうだけど。
「それで良いものは採れた?」
「んー、銀とミスリルが1本ずつくらいかな」
「1本?」
「ん」
指された方を見ればウィッカさんが2本の銀色のインゴットを持っていた。
って、もしかして鉱石から既に加工し終わったって事?
「わたし、錬金術師だから」
「あ、言われてみれば」
ウィッカさん普段は薬品とお酒しか造って無いから忘れてたけど、物質の分離合成は錬金術師の十八番だよな。
横でブリラさんがあり得ないものを見る目で見てるけど気にしないでおこう。
「じゃあ、一休みしたら第6階層に向かおうか」
「「はい」」
ブリラさんの話ではここまでが上層階で、次から中層階。つまり魔物も1ランク強くなるらしいからな。
気を引き締めて行こう。
後書き日記 リース編
21XX年7月17日
期末試験が終わった翌日。
今日はみんなでイベント島のダンジョンに向かいます。
あ、そう言えばみんなでお出かけって牛肉以来ですね。
さて、ダンジョンを案内してくれるのはブリラさんというゴリラの着ぐるみ、もとい人獣と魚人族のタツミさんとオコトさん。
ふと最近まわりに居る人の割合がどんどん人外になってる気がします。
別に嫌じゃないですし、今のままの方が変な権謀術数に巻き込まれない分、楽と言えば楽なのですが、気が付いたらそっちよりに進化していた、なんて事にならないことを祈っておきましょう。
それはともかく。
ダンジョンに向かう途中、前を歩くカイリ君とブリラさんがざっくりとしたフォーメーションや役割を決めているのを眺めつつ、後ろでは女子トーク中です。
やはり最初に話題に上がるのは恋バナですね。
ブリラさん達は別に恋愛関係では無さそうですが、異種族間での恋愛ってあり得るのでしょうか?
お、おぉ。
どうやら恋愛自体はあるそうです。
ただ、結婚となると別問題ですか。
まぁそれはそうですよね。どう考えても種族が違い過ぎると子供出来そうに無いですし。
ゴリラ顔の魚とか、人面魚以上に見たくありません。
私達、ですか?
うーん、仲の良い友達ですね。
やはりこの世界でしか会っていない関係ですから。
好きになるとしたらお互いの素顔を知ってからになると思います。
え、仮面を被っているのか、ですか?
そうですね。それが近いですね。
素顔を見せない理由は、無いと言えばないのですが、プライバシーの問題です。
自分は良いと思っていても、相手はそうじゃないってこともありますし、ネットで個人情報が流出して事件になった、なんていくらでもある話ですからね。
もちろんカイリ君たちを疑っている訳じゃないですけど、どこに他人の目が光ってるとも限りませんし。
きっと素顔を見せる機会があるとしたらオフ会とかですね。
オフ会……このゲーム、性別は変えられないからネカマの心配はないですけど、実は富豪の子供でしたとか、実は年齢詐称してて大学教授です、なんて事はあるかもしれません。
ほら、カイリ君とか特に謎の知識量ですし。
そう考えると会うのがちょっと怖いですね。
と、そんな話をしている間にダンジョンに到着しました。
ここからは気を引き締めて行きましょう。




