ボスバトル
結局休みがあってもストックはほとんど貯まらない罠。
きっと自分と物語の時間は一緒に動いてるんですね(汗
リース達の企画を軽く纏めたものを運営に送り付けたところで、俺達はボス部屋の扉に手を掛けた。
と、そこでブリラさんから待ったがかかった。
「あ、カイリ。先に言っておくが」
「ん?」
「今回のボス戦では俺達は手を出さないから、戦力としては一切当てにしないでくれ」
「ああ。分かった」
多分ゲーム的な制約だな。
こうしないと、現地の冒険者が強すぎてプレイヤー達が何もせずにボス戦をクリアしてしまう、なんて事もあるものな。
ブリラさん達は当然、ボスを倒した経験も何度もあるだろうし。
「じゃあ開けるよ」
一声かけて扉を押し開く。
ボス部屋はサッカーコートより一回り小さいくらいの広さだった。
そしてこれまでの階層と同様に左半分が水没している。
肝心のボスは……あれか。
部屋の奥に緑色の鱗に覆われた小山があり、その周囲にリザードマンが10体立っていた。
俺達が完全に部屋の中に入ると、自動的に入口の扉が閉まった。
GRAAAAAッ!
叫び声と同時に動き出す緑色の小山改め、巨大ワニ。
リザードマン達も左右に展開して俺達を待ち構えている。
「みんな、右側に敵を誘導して水中に逃げられないようにしよう」
「「はい」」
これみよがしに水場があるんだ。
HPが半減したら水中に逃げ込むとか、水中に入ったらパワーアップするとか、きっと何かあるだろう。
こっちに魚人族が多くいるならそれでも有利に立てるかもだけど、そんなことも無いしな。
あとは、取り巻きを優先して数を減らしていくか。
「レイナ。ウィッカさん」
「はい」
「ほいっと」
リザードマンの1体にウィッカさんが火炎瓶を投げつける。
それは狙い過たずリザードマンの顔に飛んでいった。
ガードした腕に当たり爆炎が上がる。
「ふっ」
カカカッ!
視界を奪ったところにレイナの針が連続して突き刺さる。
痺れエフェクトと共に膝を突くリザードマン。って、そんなエフェクト前からあったっけ?
まぁいっか。
とにかく残った9匹のリザードマンがこちらに殺到してくる。
「左側止めますね」
続いてレイナが取り出したのは網。
それを上空へと投げ上げれば、リザードマン達の真上で花開いた。
「ぐぎゃっ」
「ぎっ」
「ぎょえっ」
見事左側3匹が網にかかった。
何とか引き千切って逃げ出そうとするも、魔物の力でも簡単には切れない程丈夫なようだ。
「やるわね~。じゃあ私は右側ね」
その言葉と共にウィッカさんが試験管を数本、リザードマン達の足めがけて投げつけた。
割れる試験管。飛び散る薬液。
……粘着性のある緑の液体がリザードマン達の足に絡みつく。
「……スライム?」
「一応、魔法生物ってことになるのかしらね」
「なにか、イケナイ事に使えそうですね」
「うふふっ。ちなみに服とかは溶けないわよ」
うーん、スライムに捕らえられて身動き取れなくなったところを襲われる。
エロ漫画とかにありそうなシチュエーションだな。
ただし、捕まってるのはリザードマンだけど。
ま、まぁ。ビジュアルはともかく右側3匹も無事に拘束されて、まともに動けるのは3匹だけだ。
ここに来てようやくサクラさん達が前に出ようとするけど、ふたりは後ろに控えてるボスの為に温存していてもらおう。
「中央の3匹は俺が貰うよ。
限定召喚『カウクイーンと愉快な仲間たち』」
「ブモオォーー」
「「モォっ」」
俺の呼びかけに応えて、カウクイーンと普段武器の素振りとかをしている眷属達がやってきた。
「随分待たせたけど、実戦訓練だよ」
「モモっ」
嬉しそうに鍬を振り上げるカウクイーン。
って、鍬!?
「カウクイーン、斧は?」
「モっ!?モホホホッ」
照れ笑いを浮かべつつ武器を取り換えるカウクイーン。
今度こそ、と斧を構えた先に見えたのは、眷属達に叩きのめされた無残なリザードマン達の亡骸だった。
「ブモーーー」
「「モモーー」」
出番が取られたことに怒って眷属達を追いかけまわすカウクイーン。
いや、一応まだ網にかかったのとか居るからそっちで我慢……?
捕らわれのリザードマン達に目を向けたら、なぜかそこに立っていたのは包丁を持ったリースだった。
「え、もしかして倒しちゃ不味かった?」
「いや、まあ良いんだけど」
どうやら今のドタバタの隙に身動きの取れないリザードマン達に止めを刺して回っていたみたいだ。
全然気配とか無かったけどいつの間に。
カウクイーン達は……あ、もう時間切れか。
限定召喚で呼んだから一仕事終えたら戻っちゃうんだよな。
眷属達と一緒に戻っていったので一気に静かになった。
GRAAAAッ!!
って、そうか。まだボス本体が残ってたな。
ボスの巨大ワニが叫び声を上げながらこっちに突進してきた。
流石にあの巨体に押しつぶされると不味いな。
「みんな散開!」
「「はい!」」
急いで左右に飛びのいた俺達の間をボスが通り抜け、ってその先は壁だぞ!?
GRUッ
ズガッ
壁に当たる瞬間、反転。尻尾で壁を叩くことで勢いを相殺していた。
いくら何でもこれで頭打ち付けて気絶するとかはないか。って
「みんな、うえっ」
「「!?」」
天井の鍾乳石が槍となって降り注いできた。
くっ。さっきの尻尾の衝撃で割れたのか。
避けるのは難しくないけど、上に意識を取られてる間に正面からボスが突撃を繰り返す。
突撃中はスーパーアーマー状態なのか、こちらの攻撃をものともしない。
どうやらこれがこのボスの必勝パターンらしい。
ならその起点となる突撃を止めるのが一番だな。
「俺が奴の突撃を止めるから、その隙に尻尾を切って」
「はいっ」
再びボスが俺目掛けて突撃を仕掛けてくる。
でも何度も見させてもらえば間合いも大体分かるからな。
振り返るのも毎回右回りだし。
「ここだ!」
突撃を避けた直後。ボスが反転すると丁度俺の目の前にボスの鼻先が来た。
「どっせい」
GRUUUUッ
俺の鍬がボスの眉間にぶち当たる。
流石にはじまりの鍬じゃスキルを乗せても突き刺さったりはしないか。
それでも鱗をはじけ飛ばして一瞬意識を飛ばすくらいの効果はあったようだ。
「もらったわ!」
大上段に構えたサクラさんの剣が尻尾の付け根に吸い込まれていく。
スパッ。
GYAAAAAAっ
鮮やかに切り落とされたボスの尻尾。
ボスも堪らず悲鳴を上げながら暴れると、湖の方へと走っていった。
って水中に逃げられるのはまずい。
しかし、湖の手前には待ち構えているツバキさんの姿があった。
「来ると思った。残念だけど逃がさないわ、よっ!」
ヒュンッ、グサッ!!
乾坤一擲
ツバキさんの投げた槍が旋風を巻き起こしながらボスの眉間に突き刺さる。
狙ったのかは分からないけど、そこはさっき俺が鱗を剥がしたところだ。
その一撃が致命傷になったらしく、無事にボスは光になって消えていった。
後書き会議室 パート3
7月も半ばを過ぎ、本格的なイベントの準備に活気が出てきた頃。
いつもの会議室では主任の楽しそうな笑い声が響いた。
「いやぁ。我々は一つ勘違いをしていたのかもしれないね」
「と言いますと?」
「例の彼1人が特に変わっていて、他のメンバーは引きずられる形で活動をしているのかと思っていたんだが、なかなかどうして。クランの誰もかれもが奇抜なことを考えるじゃないか」
「類は友を呼ぶとも言いますからね」
彼らの手元には幾つかの企画書があった。
『酒場の建設』
『洞窟の観光名所化』
『温泉施設の建設』
などなど。
中にはただの原案もあれば、きっちり纏まったものもある。
共通して言えるのは、全ての申請書に承認印が押されていることか。
「彼らはこのまま島をリゾート施設に作り変えるつもりでしょうか」
「いやいや。作り変えるという程ではないだろう。
洞窟の件はともかく、それ以外は島の発展を促すもので、イベント終了後も島の住民に管理させれば十分なものばかりだ」
「主任の目から見て、彼らの計画は成功すると思いますか?」
「8割方はうまく行くだろうね。
情報屋を上手く使っているし、これなら暴走するプレイヤーもほとんど出ないだろう。
まぁ暴走しやすいプレイヤーは海賊側にまわっているとも言うけどね」
「はぁ。海賊もそうですが、盗賊についても未だに賛否両論出ていますよ」
「それでいいのさ。全員が悪くないっていうものよりも断然いいよ。
人間のすべてが善人なんてことは無いし、リアルじゃ出来ない悪人プレイをしたいって人は少なからずいる。
それが世の中の当たり前で、悪人を排除した世界なんてどうしても歪になるものさ」
「それもそうなのですが。
あと一歩で世界のバランスが崩れるところを見ているしか出来ないこちらとしては気が気ではありませんでした」
「親心が分かって良かったじゃないか」
「そう、ですね。先日も母から『ちゃんと寝てるか?ご飯食べてるか?』って電話がありました。
なので今日は帰ってゆっくり休みますね。
後の事はよろしくお願いします」
「へ?あ、ちょっと?ま、待ちたまえ。今君に帰られるとこの未対応の企画書は誰が。ってもう居ないし!!」
ガシガシと頭を掻きまわす主任。
はぁーーーと深いため息をついた後、ニヤッと笑った。
「後からそれは無しと言っても聞かないからね」
再び会議室には主任の不敵な笑い声が響き渡るのだった。




