お客様は○○です。
さて、と。
ある程度落ち着いたところで話を再開する。
「この島にある坑道やら洞窟やらダンジョンだけど、大きく魔物の出るところと出ないところに分かれる」
「それなら、みんな魔物の出ない方に行くんじゃないの?」
「いや。そこは当然のように魔物が出ない方は鉱石もほとんど取れないらしい。
つまりただの洞窟だな。
逆に魔物が出る方は大体ダンジョン化していて、深い階層に行くほど魔物も強くなるし手に入る鉱石も良くなる」
「という事は、攻略組はそっちに殺到するのね」
「そういう事だな」
ここまでの話はよくありがちと言うか、こんなイベントじゃなくても他のダンジョンでも同じだろう。
「ここに来る前に領主とも話してきたんだけど、領主曰く、
『外から来た者たちが採掘をするのは構わない。だがただで資源を奪われるのは見過ごせない』
だそうだ。つまり掘っても良いけど対価は払えってことだな。
あと一般の鉱石は問題ないけど、一部のレアメタルについては出来る事なら一切取られたくないとも言われた」
「そのレアメタルの取れるダンジョンを立ち入り禁止にするだけじゃダメなの?」
「一応、この島最大のダンジョンらしいからな。立ち入り禁止にしたらクレームが出るだろう。
あと禁止って言われると忍び込みたくなる人種が少なからず居るからな」
「あー居るわね、確かに」
このゲーム。盗賊はPKプレイヤーの総称みたいになってるけど、『忍者』とか『怪盗』なんかは特殊職として存在している。
怪盗が普段どんな活動をしているかは気になる所だけど。
とにかくそういう職業を選択した人たちにとって、システム的には入れるのに立ち入り禁止の札が立っている場所は格好の潜入ポイントだろう。
そうじゃなくても押すなと言われたら押したくなるのが日本人だ。
「なのでレアメタルが取れる階層は俺達で突破されないように防衛することになる。
幸いルートは1つだけらしいからな」
「『ここを通りたければ私達を倒していけ』って感じ?」
「そうそう」
「何というか、ボス部屋っぽいですね」
「でもそれって、私達が盗賊落ちになりませんか?」
「そこはちゃんと配慮してくれるみたいだ。
外見や鑑定でも俺達だって分からないようにしてくれるらしいし、相手を倒してもPKにはカウントされないって」
「それなら安心ですね。問題は私達で攻略組に勝てるかどうか、ですけど」
「確かに……」
うーん、と悩むみんな。
俺達の中で正規の戦闘職ってサクラさんとツバキさんだけだからな。
他の皆も足を引っ張ることは無いだろうけど。
「まぁそんなこともあろうかと」
「何か手があるの?」
「ああ。現地ガイドを付ける」
「なにそれ」
「要するに、この島の冒険者にガイドとして同行してもらうってこと。
どうもダンジョンは1本道じゃなくて、複雑に枝分かれしているらしい。
なので、その冒険者に問題の階層にプレイヤー達が向かわないように誘導してもらうんだ。
うまく行けばイベント終了まで誰も辿り着かない、って事も出来ると思ってる」
「でもそんな上手くガイドを雇ってくれるかしら」
「自分たちだけで攻略したいって人も多いですからね」
「そこも一応考えてある。
ダンジョンの一部は地底湖みたいになってるらしいんだ。湖の上に飛び石が置いてあるような感じの。
当然魔物は水中にも居るし、プレイヤーも落ちたら上がるのに一苦労だ。
だから魚人系の冒険者を連れて行けば救助してもらえるって売り込む。
更に湖底にも採掘ポイントがあるから、採掘量も増えて一石二鳥だ」
「なるほど」
これだけメリットがあれば大抵のプレイヤーはガイドを雇おうと考えるだろう。
島の住民としてもガイド料を貰えるのでメリットはあるし、何なら護衛専門のガイドと湖底採掘専門のガイドに分けても良いかもしれない。
と、ここまで話を聞いてウィッカさんから意見が出た。
「フィールドの半分が水中ってプレイヤーからしたら面倒よね~。
自分たちじゃ水中は碌に活動出来ないでしょ?
皆がみんな、カイリくんみたいにスキル持ってる訳じゃないし」
「確かに。このイベントの為に何十回か連続で溺死して来いっていうのも酷い話ですしね」
「それなんだけど。一応こういうアイテムが売り出されてる」
「ん?なになに」
【水竜のお守り:レア度3、品質2。
水竜の鱗を加工して作ったお守り。
これを身に付けると約1時間、水中で呼吸が出来るようになる。
1回限りの使い捨て。
】
「この街の冒険者って言っても全員が全員、魚人族って訳じゃないからね」
「なるほど、自分たちで水中も採掘したいならどうぞってことね」
「誤って落ちた時用に1つは持っておきたいですね」
「問題は1つ幾らかってことだけど……そこは勿論お祭り価格よね?」
「はい。プレイヤー相手には5割増しで良いと思ってます」
「わっ、ぼったくりだ」
「いやいや。需要が上がれば値段も上がる。ごく普通の市場原理だから。
……別に今のうちに俺達で買い占めておこうとか考えてないから」
「ちょっとは考えてたっぽいですね」
「まぁまぁ。
あ、それと、今回のイベントに限り、アイテムボックスに仕舞える鉱石の量には制限が掛かるみたいだな。
同時にマーケットなんかにも鉱石は出品できないらしい。
そうしないといくらでも採掘出来てしまうからな」
「じゃあ、みんな大量の鉱石を抱えて移動することになるの?」
「そういう事。拠点まで持って帰れればその限りじゃないらしいから、帰りの船には鉱石が大量に積まれることになるだろうな」
「そこを海賊が襲ってくると」
「そうなるだろうね」
そうじゃないとむしろ海賊の旨味が少なすぎるからな。
「護衛とか付ける?」
「いや、そこまでは良いだろう。むしろそれくらいは一般プレイヤー同士で何とかしてほしい」
「そうね。何でもかんでも助ければ良いって訳じゃないものね」
「その代わりと言っては何だけど、島内で鉱石を加工したり余った分はギルドで買い取りを行ってもらおう。そうすれば万が一奪われる量も減るからね」
「2割増しで加工して2割安で買い取るのね。ふふふっ」
「それくらい島にメリットがあってもいいでしょう」
結果として島に落ちるお金は、
・冒険者たちのガイド料
・お守りの販売料
・鉱石の加工代
・割安の鉱石
・その他消耗品や特産品の売り上げ
これだけあれば島の人たちにも喜んでもらえるだろう。
「最後にデートスポットを作ろうと思う」
「デートスポット?」
「ああ。最初に魔物も出ない場所があるって言っただろ?
鍾乳洞や地底湖って幻想的な雰囲気があるし、それとなくライトアップとかすれば行けると思うんだ。
あとは適当な言い伝えをうわさ話として広めておけばなお良いだろうな」
「『カップルで地底湖に祈りを捧げれば、ふたりの絆は永遠になる』的な?」
「湖に貢物を捧げれば更に効能アップとか良いかもしれないわね~」
「あっ。ならレアメタルを投げ込むように仕向ければ」
「サクラちゃん、なかなかに酷い事考えるね!」
「その辺り、どういうのがウケるかは皆の方が良いのが出ると思うから任せても良いかな?」
「「もちろん、任せて」」
「後は実際にデートコースとしてどう売り込んでいくかとか、色々考えないとな」
皆にまかせっきりも良くないし、一応男性目線のデートコースも考える必要があるか。
うーむ、こういう時、経験の少なさが裏目に出るな。
陽介でも誘って行ってみる?……いやいや、ダメだろう。
後書き日記 リース編 続き
現在、8:45
結局先輩がどれくらい早く来る人かなんて知らないですから、ちょっと余裕を持って家を出てきました。
さて、先輩は……あっ、もう居ました。
慌てて駆け寄ります。
「おはようございます。すみません、お待たせしました」
「おはよう。俺も今来たところだから大丈夫だよ」
「……」
「……」
「デートの待ち合わせって初めてですけど、意外とすんなりこの言葉って出るものなんですね」
「うん。俺もびっくりした」
そう言ってお互いに笑いあいました。
ところで先輩は実際には何分に着いてたんでしょう?
8:20ですか。
早過ぎませんか?って聞いたら私なら30分前に来そうだったからって言われました。
こっちから誘った手前、待たせる訳には行かないと思ったそうです。
なるほど先輩らしい考えですね。
それはともかく出発です。
目的地は電車で6駅先になりますので、電車に乗っている間にふたりでパンフレットなどを見ながら道順をチェック。
どうやら山というより高低差の少しある森を抜けるような形になるようです。
目的の滝に着くころにお昼になりそうですね。
先輩も目ざとく私のバスケットを見ています。
え、あーはい。手作りのお弁当ですよ?(誰が作ったとは言いませんが)
電車から降りた私達を迎えたのは、深い緑でした。
これだけでもマイナスイオンで元気になりそうですね。
そして少し進んだ先で地面はアスファルトから踏み固められた土へと変わりました。
歩く事1時間半。遂に滝が見えてきました。
滝には名前の通り虹が掛かっていて綺麗です。
もっと近くから見たいですよね。行ってみましょう。
ただ地面の石が濡れていて滑ります。
え、危ないから手を繋ごう?
し、仕方ないですね。
転んだらお弁当が大変なことになりますからね。




