みんなも島にやってきた
時間軸的に本編より先を行く後書きっていうのも珍しい。
話し合いの途中で何やら部屋の外が騒がしくなってきた。
この部屋はそれなりに防音性が高いはずだから、相当大騒ぎしていると思われる。
「何の騒ぎでしょう?」
「さぁ。悲鳴は聞こえないので危険な感じはしませんが」
イセーラさんと顔を見合わせてから外の様子を窺うことにした。
そこでは……
「野郎ども乾杯だ~~!!」
「ウィッカの姉さんに乾杯♪」
「「乾杯!!」」
ガチャンッ。がははははっ。
なんだ?
さっきまでしかめっ面してた冒険者たちがジョッキを片手に酒盛りを始めている。
いつの間にこんなことになったんだ?それにさっきウィッカさんの名前が出てたような。
その疑問に答えるように見知った女の子たち、というかリース達が声を掛けてきた。
「あ、カイリ君。話し合いは終わったの?」
「リース。どうやってここに?」
「リースさんだけじゃなく、皆来てますよ」
「レイナも。向こうで盛り上がってるのはウィッカさんか。
サクラさんとツバキさんは端の方でご飯たべてるし」
「実はね。私達に届いた招待状を使えば普通に転送門からここに飛べるみたいなの」
「は?」
そう言って差し出された招待状を見せてもらう。
……なにこれ。
しれっと最後に『これを持って転移系施設を使えばイベントの島に飛べます』とか明らかに後から追記されてるし。
俺の方の招待状にはそんなこと書いて無いから見落とした訳でもなかったみたいだ。
くそ、運営め。やっぱりつけ忘れてたんじゃないか。
まぁ、今更どうでもいいけど。
折角みんなも来たんだから、さくっと話し合いをしてしまうか。
「イセーラさん。この部屋、まだ使わせてもらっても良いですか?」
「ええどうぞ」
「ありがとうございます。じゃあ、みんな集合~」
「「は~い」」
全員を呼び集めて改めて会議室に入ると、これまで分かったことを説明していく。
と、そこでツバキさんから疑問の声が上がった。
「そう言えば、具体的にどんなイベントなんでしたっけ?
ここまで聞いた話だと、夏休みに穴に篭って鉱石掘りをするって、凄く殺伐としてる気がするんですけど」
「あーやっぱりそう思うよな」
夏休みと言えば、海水浴とまで行かなくてもプールとか水遊びがしたくなる。
それなのに、イベントのメインは穴掘りだ。これだけだと絶対に苦情が殺到するだろう。
「そもそもの話。鉱石掘りは攻略を主体とするプレイヤーに限った話かもしれないな」
「そうなの?」
「ああ。この島はイベントの中心ってだけで、実際には各種族用の拠点となる島もあるらしい。
事前に貰った資料によると、今回のイベントは大きく3つの勢力が活躍することになる。
1つは一般のプレイヤーだ。彼らは自分たちの拠点の島で海水浴を楽しんだり、この島に渡ってきて洞窟探検や鉱石掘りをすることになるだろう」
「あ、それぞれの拠点には海水浴場があるってことなんだね」
「そういう事だ。生産系プレイヤーとかはそっちで海の家とか出すんじゃないかな」
「あ~海の家巡りも良いですよね~」
「うんうん。ナンパはウザいけど、砂浜を散策しながら食べるフランクフルトは美味しいよね。ナンパはウザいけど」
ナンパ2回言ったな。どれだけ言い寄られてるんだろう。
「で、話を戻して。
2つ目は俺達というか、この島の住民サイドだ。こちらは10年来の事件をどう乗り切るかが大事になってくる。
そして3つ目。海賊たちだ」
「海賊?」
「ああ。前に俺達も襲撃されたと思うけど、盗賊プレイをしている人たちにも声が掛かるらしい。
そいつらは一般プレイヤーと同じように活動するのか、それとも海賊になるのかの2択だな。
海賊になった場合、島に渡ってくるプレイヤーを襲ったり、鉱石を船に積んで戻るプレイヤーから鉱石を奪ったりすることが目標になると思う。
もちろん、この島を襲撃して略奪の限りを尽くすって可能性もゼロではない」
「また傍迷惑な話ね」
「でも彼らにとって、鉱石掘りなんてやってられないだろうからな。
海水浴場で強引なナンパをされたり、水着姿を盗撮されたりするよりかは良いって判断なのかも」
「あー、居たわね。そういうの」
「夏の海は人を大胆にさせるからね~。……そういう人は死ねばいいけど」
ぼそっとウィッカさんも怖い事を言ってる。
どうやら身に覚えがあるようだ。
「それで?私達はどう動くんですか?」
「うん。それなんだけど。
まず大前提として、ずっとこの島に居ないといけない訳じゃないと思ってる。
さっきの海の家もそうだし、イベント当日はある程度自由時間を取れたらと思う」
「そうね。折角の夏の海なんだし」
「カイリくんを連れて行けば~、ナンパ避けにもなりそうよね~」
「ふ、二人で行けば海水浴デートですね」
「あ、私、夕陽を背景に砂浜で追いかけっこしたいです」
「うーん、そこはほら。海岸をふたり、手を繋いでしっとりと散歩する方がロマンチックですよ」
「はいはいっ。私は……」
わいわいきゃっきゃと盛り上がる。
やっぱりみんな女の子なんだな。
それぞれ理想のデートシーンがあるみたいだ。
「それでカイリ君だったらどういうシチュエーションが良いの?」
「俺か?うーんそうだな。
ふたり並んで砂浜に座って、夕陽が水平線に沈むところを眺める、とかかな」
「そして夕陽が見えなくなったところでそっとキスするんですね!」
「「……すてきですね~」」
い、いや。キスまでは言ってないぞ?
「ごほんっ。
それで俺達のこの島での活動についてだけど」
「あ、話逸らした」
「照れてるカイリさんも可愛いですね」
「そうね~~」
「普段澄ましてる分余計に来るものがありますね」
「記録記録」
くっ。こういう時女性ばかりなのはキツイ。
恋愛トークとスイーツを前にした女性は無敵だからな。
おっさんでも良いから男性プリーズ!
後書き日記 リース編
21xx年7月11日
おはようございます。
皆さんは遠足前は寝坊する方でしょうか。
私は夜明けと共に目が覚める方です。
時計を見れば午前5時。待ち合わせは9時なので4時間近くあります。
荷物も着ていく服も昨日のうちに準備し終えているので、大丈夫です。
メイクに時間をかけると言っても厚化粧する訳じゃないので、気合を入れてナチュラルメイクをしても1時間と掛かりません。
仕方ないので朝食の準備を手伝おうと台所に行けば、お母さんが既に起きていました。
そして一言「お弁当は?」
お・べ・ん・と・う!?
そうでした。デートと言えば彼女からの手作り弁当は鉄板。
男の子はハートより先に胃袋を射止めろは常識。
いえ別に模擬デートみたいなものですし、先輩を射止めたい訳じゃないのですが、でもやっぱりここは女の子として外せない一線ですよね。
でも何の準備もしてない状態の私では今からお弁当を用意するのは無理ではないですが、完成度は下がりそうです。
「そんな事だろうと思ったわ。今回だけよ?」
そう言ってお母さんがバスケットを渡してきました。
中にはサンドイッチと水筒。
一言にサンドイッチと言っても具はカラフルで手が込んでいるのがよく分かります。
流石お母さん。こうしてお父さんの事も射止めたのですね。
ところで、デートの待ち合わせって何分前に行くのが良いのでしょう?
もちろん遅れていくのは論外として、5分前?10分前?
30分前に行ったりしたら気合入れ過ぎって笑われてしまうでしょうか。
お母さんに聞いたら、ベストは相手より5分早く、だそうです。
なるほど。無駄に待つこともなく、なおかつ先に居ることで「あなたに会うのを楽しみにしてたのよ」とアピールするんですね。
そして次回の待ち合わせでは彼もその時間より早く来てくれるようになると。
そうしてお互いにどんどん予定時間より早く着くようになってしまい、これじゃあ待ち合わせの意味がないねって笑いあったんですか。
そして次回からは家まで送り迎えしてくれるようになったんですか。そうですか。
はいはい。のろけをありがとうございます。




