頼もしすぎる仲間たち
さて、思いがけず3匹の魔物と従魔契約を結べてしまった訳だけど。
今俺はこのゲーム最大のピンチを迎えていた。
(じー……)
(じー……)
(じー……)
3匹が物欲しそうな顔で俺を見上げている。
これはあれだよな。
言葉なんか分からなくても「名前を付けてほしい」って事だよな。
どうしよう。
俺にネーミングセンスなんてないぞ?
しかしこの期待の眼差しを裏切る訳にもいかないしな。
「……よし!」
3匹とも魔物だけど可愛い見た目になってるし、そっち路線で行こう。
「岩ヤドカリのお前は、ヤドリンだ」
「くぃ♪」
「刀ヤリイカだから、イカリヤだな」
「きょっ♪」
「光アンコウは……コウくんでどうだ?」
「ぴっ♪」
3匹とも嬉しそうに手を挙げているから気に入ってくれたみたいだな。
ちなみに「コウくん」は「くん」まで含めて名前だ。
「さて、これからどうしようか」
「くぃ!」
「畑を手伝ってくれる?それは確かに助かるけど、みんなって何が出来るんだ?」
従魔になってくれたお陰で、言葉以上に気持ちが伝わってくるので、言いたいことが大体分かるようになった。
それで畑を手伝ってくれるっていうんだけど、鍬を持たせる訳にもいかないしな。
そう思ってたら、ヤドリンが畑の収穫が終わった部分へと移動、そしてハサミ状になっている左腕を地面に突き刺して持ち上げればスコップの様に地面が掘れた。
更に右腕がドリルの様に回転すると耕す前の硬い岩盤に穴を穿っていた。
「自分の宿の岩ってどうしたんだろうって思ってたけど、そうやって加工してたんだな」
「くぃ」
続いてイカリヤがすぃーっと泳いで新たに収穫可能になった場所に向かった。
そして沢山ある足を活かして収穫を行っていた。
収穫された作物はそのままアイテムボックスに入るらしい。
最後にコウくんがあかりを灯しながら畑の上を泳ぎ回る。
よく見るとキラキラと燐光が零れ落ちていく。
これは……光合成と肥料を撒いてくれてるのか?
3匹ともが自分の得意分野で畑を手伝ってくれる。
よし、これは俺も負けてられないな。
1人じゃあまり大きくも出来ないと思ってたけど、これならもっと畑を拡張しても良いだろう。
そうして俺は一気ににぎやかになった畑をせっせと耕していった。
しかし3匹の実力はこんなものではなかった。
翌日には早くもその変化は目に見える形で現れた。
「おはよう!」
「きょっ♪」
「ぴっ♪」
「くぃ♪」
ログインして皆に挨拶。
うーん、これだけでも昨日まで無かったものだから嬉しいぞ。
やっぱりひとりより大勢で遊んだほうが楽しいからな。
さぁ今日も頑張るか、と思った俺の目の前を何かが横切った。
それもひとつじゃなく、いくつも。
「魚?」
そりゃ海の中なんだから魚が居てもおかしくはないんだけど、昨日までは一切見当たらなかったのにどうして……。
その答えはすぐ上で光り輝いていた。
「コウくん?」
「ぴっ」
コウくんの光に釣られるように魚たちがすぃ~っと泳いでいく。
そう言えば元々アンコウの光って魚を誘引するためのものだっけ。
だからこれも一種のスキルでどこかから魚を連れてきたってことなんだろう。
見たところこの魚は魔物ではなく普通の魚っぽいし。
あとはここで飼うのは良いんだけどエサは?
あ、いつの間にか岩壁に水草が生えてるから、それを食べれば大丈夫?
畑を荒らすことはないと。
でも数が増えてきたらどうしようか。
そう思ったところでイカリヤが泳いできて前足を一閃。
見事、あっという間に最後尾を泳いでた1匹を捌いてしまった。
しかも他の魚に気付かれないままに。
「きょっ♪」
こっちも任せておいてと力強くサムズアップするイカリヤ。
頼もしすぎるな。
ならもしかしたらヤドリンも?
そう思って畑の方を見れば、ヤドリンは普通に畑の外周をズズズッと歩いていた。
どうやらヤドリンはマイペースに畑の管理をして「ドスッ」ん?
何の音だろうとヤドリンに近づいてみる。
「ヤドリンは何してるんだ?」
「……くぃ」
ドスッ
岩屋根を持ち上げたヤドリンは俺に見えるように左のハサミを見せるとそれを地面に垂直に突き立てた。
どうやら音の原因はこれだったようだ。
ただこれに何の意味が?
ヤドリンの歩いた後を見れば一定間隔に直径5センチほどの穴が幾つもあいている。
「うーん、風通し、この場合は水はけか、を良くしてる? 違う?そうか。
なら肥料を撒いてるとか。確か肥料を直接作物に掛けるのは良く無いって聞いたことがあるし。
え、それも違う?
なら……穴の中をよく見てみて?」
言われて穴の中を覗き込む。
中にあったのは白い石?何かの種か?
「くぃ」
違った。
正解は貝の卵だった。
どうやら貝の養殖をしてくれているらしい。
そんなものをどこからって聞いたらヤドリンの岩の中に詰め込んであるらしい。
いつか住処を決めたらそこでこうして育てて自炊するのが岩ヤドカリの習性だそうだ。
今は海ニンジンもあるから食べ物には余裕が出来そうだと喜んでる。
地味な作業もどこか楽しそうだ。
これは俺も負けてられないな。
後書き日記
21xx年4月24日
肉の臭みを消す方法を従兄に相談してみた結果。
まず、コショウなどの香辛料は存在はするけど希少で一般には流通していないそうです。
特に伝手もなく買うならオークションになるけど、小袋一つに万単位のお金が必要だそうです。
とてもではありませんが私には手が出ません。
続いて提案されたのがスキル。
何でも『解体(動物)』というスキルがあり、それを持っていれば動物や魔物を倒した時に手に入るアイテムの品質が向上するそうです。
ちなみに(動物)と付いているのは、似たスキルで『解体(造物)』というのがあるそうです。こちらは建物を破壊する時に使うスキルで、他にもゴーレムなどの無機物にも特効が付くそうです。
最後に現地住民の料理人に教えを乞うことを勧められました。
言われてみれば中央広場に出ている屋台ではウサギ肉の串焼きが売られていました。
改めて買って食べてみると、確かに私の焼いたウサギ肉とは臭みが全然違います。
ダメ元で味の秘訣を聞いてみたところ、
「『解体(動物)』で獲得したウサギ肉を10個持ってくればヒントをあげよう」
とクエストが発生しました。
一瞬ケチねと思ってしまいましたが、味の秘訣はその店の生命線でもありますから、教えてもらえるだけでも喜ぶべきでしょう。
ならまずはスキルの獲得からですね。
聞けば一定数の肉を獲得すれば良いそうなので、私の場合あと少しで大丈夫そうです。