イベント招待状が届いた
いい加減、リースのリアルパートも進めたいなと思う今日この頃。
でもまだすれ違い続ける気もしますが。
7月に入り、梅雨明け間近のこの時期。
野球部では甲子園に向けて最後の追い込みが始まり、一般の生徒も期末試験と夏休みが見えてきた頃。
俺の元にアルフロの運営から1通の招待状が届いた。
タイトルには『海の勇士ならびにホーリーグレイルの皆様へ』とある。
送り主はアルフロ運営責任者のアマガハラってなってるけど、誰だろう。
偉い人って事だけは分かるんだけど。
内容を確認したら俺一人で決めれる事でもなかったので、早速みんなに相談を持ち掛けることにした。
「それでカイリ君。手紙にはなんて?」
「あぁ。今読み上げるよ」
『海の勇士ならびにホーリーグレイルの皆様へ
初めまして。
私はアルフロ運営責任者のアマガハラです。
長々とご挨拶をして皆様を退屈させる訳にはいきませんので、要点を纏めてお伝えできればと考えています。
この度アルフロ運営委員では7月後半に開催するイベントに特別ゲストとして皆様を招待することを決定しました。
もちろん一方的な決定ですので、断っても何もペナルティは発生しませんのでご安心ください。
この招待を受けた場合、今回のイベントに限り他のプレイヤーと同じ立場での参加は出来なくなります。
また今回のイベントに関する一切を口外しない守秘契約を結んでいただきます。
これはイベント終了後も同様です。
その代わりと言っては何ですが、招待に応じて頂けた場合は幾つかの特典をご用意しています。
幾つか例に挙げますと、
・未発見の素材、食材、調味料についての情報+サンプルの提供
・8月開催予定の夏祭りor花火イベントの特別席チケットの贈呈
・○○進化用アイテムの贈呈(これはまだ公表出来ない内容でした)
等になります。
招待を受けて頂ける場合は、このメールの返信に一言「受ける」と書いて頂ければ十分です。
受けない場合は、その旨を書いてメールを送って頂くか、7月5日になっても返信が無い場合は自動的に招待を取り下げさせて頂きます。
それでは、色よいお返事をお待ちしております』
「……だってさ」
みんな難しい顔をしながら内容を吟味しているようだ。
とは言っても具体的に何をすることになるのかは一切書いてないし、判断材料が少なすぎる。
ただなぁ。
特典の例がピンポイントで俺達のニーズを突いている気がする。
これはもしかしたら普段からモニターされてるのかもしれないな。
「俺としてはデメリットはほとんど無いみたいだし受けてみても良いかなって思ってる」
「そうね。今更他のプレイヤーと同じじゃないと嫌だなんて言う気はないし」
「わたしも、大丈夫です」
「未発見の食材って何かしらね~」
「特別席だって、ツバキちゃん」
「くっ。去年のあの人混みは地獄だった」
やっぱり。もう皆の目が特典に釘付けだ。
乗せられてる気もするけど、反対意見も無いからいっか。
「よし、じゃあ『受ける』って返信するよ」
「「はいっ」」
ピンッ!
おっと。
返信してすぐにまた運営からメールが来た。
多分予め受けた時と断った時、両方の文面を用意していたんだろうな。
メールの内容を確認すると、そこには7月のイベントについての詳細と、俺達が何に招待されたのかが書かれていた。
「……運営は何を考えてるんだ?」
「た、多分、カイリ君なら出来るって思ったんじゃないかな」
「どちらかというとカイリさんを隔離したかったんじゃないでしょうか」
「そうねぇ。このイベントの内容だとあなたの独断場になりそうだからね~。
これなら裏方っぽいし大丈夫だと踏んだんじゃないかしら」
「むしろ私達が役に立てるかがちょっと不安です」
「よっ。流石、個人総戦力ランキング1位。もうボスキャラ待遇ですね!」
くっ、皆の視線が生温かい。
ツバキさんからは謎の煽り文句を頂くし。
個人総戦力っていうのは従魔とか全部ひっくるめての戦力なんだろう。
じゃなかったら俺が1位になれる訳ないからな。
ちなみに7月イベントのテーマは意外性も何もない『海』だ。
つまりウィッカさんが言った通り俺の最も得意とするフィールドだ。
これ下手に無双すると全プレイヤーから睨まれるな。
……うーん、無双できる前提で考える俺が居る。
むしろイカリヤ達が1人でも居れば無双出来てしまう未来が予想できるんだが。
あとこれ、1つ問題があるんだけどみんな気付いてるかな?
「なぁ、一応確認なんだけど。確かみんな学生だったよな?」
「?えぇ、そうね」
「俺達の準備期間と期末試験が被ってないか?」
「……あっ」
「言われてみれば……」
「「……」」
みんなの背中に冷たい汗が流れた気がする。
ウィッカさんだけは大学生で試験とは無縁なのか、いつもののんびりした状態から変わってない。
「あらあら。じゃあ今回はやっぱりやめるの?」
「それは流石に。特典の事もありますからね。
でもログイン出来る時間が減るのは間違いないかな」
「うん。これで成績下がったら怒られるしね」
「最悪ゲーム禁止とかも」
「わ、私は赤点取らなければ大丈夫かな」
「わたしも多分、怒られたりはしないと思う」
とは言ってもゲームで遊んでて人生ダメにしました、なんてことになったら目も当てられないからな。
学生は学生らしく趣味と勉強を両立させていく必要があるだろう。
サクラさんとツバキさんは勉強嫌いなのか。
「よし。こうなったら勉強会でも開こうか。
集中して勉強すればその分短い時間で大丈夫だろうし、皆でやれば楽しく出来るからな」
「勉強会って。私達、リアルだと会ったこともないのにどうするの?
住んでる場所だって当然離れてるだろうし」
「そこはほら。オンラインでやれば良いだろう。
『ROOMミーティング』ってアプリ使えば教科書やノートの共有とかも楽に出来るし。
勉強に集中できるルームも幾つか用意出来るぞ」
「なるほど。それなら行けそうね」
「ま、それに何より大学生っていう頼りになる先生が居るし」
そう言いつつウィッカさんを……あれ?
さっきまで隣にいた筈のウィッカさんが遥か向こうに居るんだけど。
「若者は若者同士頑張って~。
というか、高校の勉強とかもう全部忘れたからごめんね~」
なんて早い逃げ足。そして危険察知能力。
仕方ない、自分たちだけで頑張るか。
後書き日記 リース編
21xx年7月1日
7月になりました。
皆さんにとって7月ってどういう月でしょう。
夏本番、プールに海、夏休みには旅行とかも良いかもしれませんね。
VRが発達したお陰で旅行の疑似体験が出来るようになったとはいえ、やはりリアルにはリアルの良さがあります。
……リアルを抜かさないようにVR世界が抑えて作られている、なんて説もありますけど。
ともあれ高校1年2年の夏と言えば青春を謳歌しないと勿体ないでしょう。
でも今年は何となくアルフロをずっとやっていそうな気がします。
ゲームの中なら日焼けとかの心配もないですし、みんなと一緒に何かをするのは楽しいですから。
あ、もちろんリアルの友達とも何度かは遊ぶと思います。
そっちの友達を蔑ろにするわけではありませんから。
あ、そうそう。
結局あれから先輩には会えていません。
メールを送れば返って来ますから会う約束をすれば会えるんですけど何となく、ね。
ただ前回のメールで前に話してたケーキの出来はどう?
って聞かれてしまいました。
うーん、期待されているようです。
一応。ゲームの中ならちゃんと焼けるようになりました。
カイリ君達も美味しいって言ってくれてるので大丈夫でしょう。
あとはこれをリアルで挑戦するだけです。
リアルだと多分まる1日掛かりそうなので気合を入れていきましょう。
あ、でも最初はお母さんに手伝ってもらうのが無難でしょうか。
小さい頃はクッキーとか良く焼いてくれてましたし、多分パウンドケーキなら焼ける気がします。
早速聞いて……うぐっ。
「ケーキ焼くのは手伝ってあげるけど、ちゃんと勉強もするのよ」
って。
そう言えば期末試験なんてものも7月はありましたね。
別に勉強が苦手な訳ではないですけど、以前に比べれば勉強時間は減ってますから、成績もちょっと不安です。
誰かに教えて貰う?
といっても従兄は却下です。面倒見は良くてもからかわれる事間違いなし。
他に教えて貰えそうな年上の人と言えば先輩ですけど、突然勉強教えてくださいって言っても迷惑ですよね。
うーん。




