襲撃する側される側
それから1時間後。
俺はせっせと荒地を耕していた。
広さは日本の一軒家4つ分くらいだ。
ここを試しに耕してみて欲しいそうだ。
一瞬、体よく使われてる気もしたけど、耕した後は俺の土地として良いこと、以降の種植えや収穫は魚人達が行うと契約を交わした。
なので俺としてはただで土地が手に入り、その畑で収穫出来た半分は自動的に俺の取り分となる。
つまりは地主になったようなものだ。
「ヌシ様、ウネと言うのはこれで良いでしょうか?」
「どれどれ」
俺の後に続いて手伝っていた魚人達の出来を確認する。
彼らは俺が「地主っぽいな」って呟いたのを聞いて、俺の事をヌシ様と呼ぶようになっていた。
女王様とはニュアンスが違うし不敬とかにはならないんだろう。
「えっと、うん。ばっちりだ」
確認すればちゃんと『海スギナの畑0日目』となっている。
これは『農家の目』というスキルの効果で一定回数育成した作物なら、こうして見ただけで状態が分かるという優れものだ。
俺の言葉に安堵した魚人達。
その嬉しそうな姿を横目に、俺は残りもどんどん耕していった。
ゥウウーーーーーーー!!
「なんだ!?」
突然鳴り響くサイレン。
それを聞いた魚人達は目の色を変えて慌て出した。
「ヌシ様。お逃げ下さい!」
「今のサイレンはなに?」
「凶悪な魔物の接近を知らせる警報です。
防衛隊では対処出来そうにない場合に鳴ります」
「そうか」
コウくんに視線を向けると、コウくんは南を指さした。
恐らくそっちから来ているって事なんだろう。
「状況は分かった。しかし折角耕した畑を荒らされるのは癪だな。
コウくん、俺達で一当てしてルートを逸らせられないか試してみようか。
危なそうだったら逃げる方向で」
「ぴぃっ」
元気よくヒレを振るコウくんと共に飛び上がる。
それをみた魚人たちが慌てて声を掛けてきた。
「お待ちください、危険すぎます」
「私たちの為にそこまでしていただく事はありません」
「隠れていれば多少の被害で済みますから」
ふむ、つまり多少は被害が出るって事だ。
それにみんな勘違いしてるけど、魚人の為に命を懸ける訳じゃない。
「俺は農家だからな。畑を荒らす敵をぶん殴ってくるだけだ。
皆はしっかり隠れててくれ」
「あ、お待ちを!」
なおも言いつのろうとするのを振り切って南へと泳ぐ。
そして、問題の魔物はすぐに目視出来た。
「あれは、タコか」
「ぴっ」
まだだいぶ遠くに居るはずのタコは邪魔くさそうに腕を振りつつもこちらへと向かってきていた。
腕を振っているのは多分、魚人の防衛隊が頑張っているんだろうけど小さすぎて点にしか見えない。
むしろそれだけタコが大きいって事なんだろう。
しかし、なぜ魚人族の街に真っすぐ向かっているのかが謎だな。
ま、どうでもいいか。
今はまずあれの進路を強引にでも変えるのが最優先だ。
「コウくん、側面に回り込もう」
「ぴぃっ」
俺達は東へと移動しタコの進路から少しだけ離れ待ち伏せすることに決めた。
恐らくタコがここまで来るのに5分はあるだろう。
「コウくん、最大出力で奴の頭をぶち抜いてやろう」
「ぴっ!」
魔法の充填を開始するコウくん。
それを頼もしく見ながらタコが接近するのを待つ。
うーん、それにしても大きいな。100メートル以上あるんじゃないか?
それこそ北の海にならいそうなサイズだ。
ここに居るって事は曰くフィールドボスみたいなものかな。
というか、レイドボスでもおかしくないよな、これ。
絶対俺とコウくんだけで挑む相手じゃなさそうだけど。
そんな巨大タコが遂に俺達の前まで来た。
その周りにはやはり魚人たちが槍を手に泳ぎ回っているけど、クジラ漁に挑む漁師くらいサイズ差が激しい。
今はタコの触腕に捕まれないように必死に逃げ回っている。
「コウくん、行ける?」
「ぴっ」
カッ!!
「ギュアアアアッッッ」
コウくんが放ったビームが見事巨大タコの頭にぶち当たる。
上がるタコの悲鳴。
しかし流石に倒すまでは至らなかったようだ。
まぁそれでもさっきまで魚人たちを無視していたのに、今はしっかりとこちらを睨みつけている。
「よし、逃げるよ」
「ぴぃっ」
「ギュオオオオッ!」
南東へと逃げる俺達を追ってくる巨大タコ。
よし、これで畑は守れそうだな。
進路を変えたのを確認して魚人たちも一斉に西へと離れていく。
しかし困ったな。さっきのコウくんの一撃で致命打にならないとなると、あのサイズに見合った膨大な体力を何とか削らないと勝ち目がない。
それには俺とコウくんだけじゃ何時間かかるか分かったもんじゃない。
かといって、向こうの方が若干だけど泳ぐのが早いみたいで引き離すどころかじわじわ距離を詰められている。
「仕方ない。コウくん。ここは俺が囮になるから、コウくんは逃げ切ってくれ」
「ぴっ、ぴぴっ!!」
怒られました。
でもなぁ、俺が死んでも拠点に帰されるだけで済むけど、コウくん達従魔が倒されたらどうなるかは未知数だからな。
出来れば犠牲は俺だけにするのが最善なんだけど。
「ぴぃ」
「……まぁ、そうだな」
勝てばいい、か。
実にシンプルで、そして真理だ。
「わかった。勝とう。
でも、そうと決まれば全力だ。
『召喚:イカリヤ』『召喚:ヤドリン』」
「きょっ!」
「くぃっ!」
「ぴぃっ!」
元気に腕を振り上げるイカリヤと力強く頷くヤドリン。そして嬉しそうに笑うコウくん。
頼もしすぎる。
皆さえいれば、あんなタコ一匹どうとでも出来る気がしてくるから不思議だ。
「よしみんな。あんなタコ、さくっと倒して今夜はタコ焼きパーティーだ!」
「きょっ!」
「くぃっ!」
「ぴぃっ!」
逃げてた足を反転。
俺達は巨大タコへと襲い掛かった。
後書き外伝 サクラ・ツバキ 1/2?
私達は今、妖精族本島の奥にある深い森を進んでいます。
「サクラちゃん。本当にこっちであってるのかな」
「さぁ。地図にも細かい位置情報までは出てこないからね。
でも行けるところまでは行ってみよう。もしかしたらまだ見ぬ秘境も見つかるかもだし」
「だね!」
周囲には虫系、獣系、そして樹木系の魔物が出てきます。
強さで言ったら第2の島くらいでしょうか。
なので私達2人でも不意打ちを受けなければ何とかなります。
また、森に入ってから私達以外のプレイヤーは一切見かけていません。
5月のアップデートから本島以外の島が解放された影響で攻略組のほとんどがそっちに掛かり切りになってるから、本島の探索が途中で切り上げられた形になったんです。
本島も結構広いので、まだまだ未踏破地域の方が多いんですけどね。
そして私達がなぜ今、こうして森の中を突き進んでいるかというと、森の手前の村で噂話を聞きつけたからです。
「この先に居ると良いね。その伝説の建築家の人」
「うん。何とかしてグレイル島の施設建設を手伝って貰えるようにお願いしようね!」
そうなんです。
嘘か本当か、この森の奥に王都の設計と王城の建設に携わった建設家が暮らしているそうなんです。
正直、こんな道らしい道のない所に住んでる人って想像が付かないんですが、多分一筋縄ではいかないでしょう。
それでも今までずっとお世話になってる皆さんに報いる事が出来そうなので是が非でも頑張ります。
そうして2時間は経過したでしょうか。
もう方向も分からなくなって、戻る手段は死に戻りしかないなって思ってた頃。
遂に森の終わりが見えてきました。
「ツバキちゃん。とうとうゴールが見えてきたよ!」
「やったね!やっぱりつらい道のりの先にある絶景こそ、心に響くものだよね」
そして、森を抜けた私たちを待ち構えていたのは木造のお城だった。




