拠点防衛……交渉?
急ぎ状況を確認する。
襲ってきてるのは魚の体に人間の手足が付いた、所謂サハギンだ。
魔物たちはどこか統率が取れた動きでヤドリンを集中攻撃しつつ、余った戦力で拠点を攻撃している。
ただ拠点は少しずつ崩れているので早めに対処しないといけなさそうだけど、ヤドリンに至ってはぱっと見無傷だ。
どうやらここの魔物ではヤドリンの鉄壁の防御力を抜けないようだ。
その代わりヤドリンも攻めあぐねているように見える。
体力を温存しているっていうのもあるだろうけど、全力で攻撃すると拠点ごと破壊してしまう恐れがある為に身動きがとりにくいんだろう。
「ヤドリン!」
「くぃ!!」
ヤドリンと目が合った。
その目は喜びと共に伏せてと言っていた。
その言葉に従い慌てて伏せた次の瞬間。ヤドリンが左腕を大きく掲げつつその場で回転した。
たったそれだけでヤドリンを中心に渦が出来上がり魔物たちを吹き飛ばしていく。
ズゴゴゴッ
「うぉーーーっ」
「ギャーーーーッ」
「助けてくれ~~」
渦に巻き込まれた魔物たちから悲鳴が上がり、何とか難を逃れた魔物たちも慌てて距離を取った。
ヤドリン強すぎ。
でもこれで多少余裕が出来たな。
その間にヤドリンに状況を確認しよう。
「ヤドリン。あいつらは殲滅してしまえばいいのか?」
「!……くぃ」
おっと、少し言葉を間違えたかな。
ヤドリンは少し考えながらも、あまり良くないと答えた。
あまりって事はどうしても無理な時は殲滅もやむなしって事だな。
っていうか、この魔物たち、さっき普通にしゃべって無かったか?
「おいお前たち。なぜこの拠点と俺の家族を襲った? 返答次第では抹殺するぞ」
……おかしいな。やっぱりヤドリンが攻撃されて怒ってるみたいだ。
ただそうして声を掛けてみると、魔物たちから次々と声が挙がった。
「家族だと!?」
「貴様、そいつが何か分かって言っているのか!!」
「そいつは北の海の怪物だ。巣を作る前に倒さないとこの辺り一帯が死の海になるぞ」
「そうだ。はぐれが1体だけならまだ何とかなる。今のうちに殺してしまえ!」
えっと、つまりなんだ。
目に見えるものを闇雲に襲っていた訳じゃなくて、自分たちの生活を守るためにあいつらなりに一生懸命だったってことか。
まぁ、落ち着こう。幸いこっちもまだ被害らしい被害もないしな。
誤解さえ解ければ平和に解決できるかもしれない。
「俺はカイリ。そちらの代表と話がしたい」
「私は魚人ホッケ族の戦士長ヒラキーだ」
そう言って前に出てきたのは他の魔物よりも若干よさげな武器を持った奴だった。
「地上人の少年よ。先に確認させてくれ。君の横に居る怪物を家族と呼んだようだが、意思の疎通が出来ているのか?」
「ああ、もちろんだ」
「ではその怪物に北の海に帰るように伝えてくれ」
「理由を聞いても?」
「理由だと!? そんなこと決まっている。
北の海の怪物は凶悪にして残忍。その怪物が居たらこの一帯が滅びるからだ!」
そう断言するヒラキーだったけど、どうも勘違いか変な思い込みをしているようだ。
うちの子たちが残忍なはずがないからな。
それにさっきから怪物怪物と、なに様のつもりだ。
いやいや、落ち着け。
「なら聞くが、なぜお前たちはまだ生きているんだ?」
「なに?」
「だから、うちのヤドリンにちょっかい出しておいて無事な理由は何かと聞いてるんだけど」
「それは、この巣に被害が出ないように力を抑えていたんだろう」
「違うな。それだったらさっきの竜巻でお前たちが死んでない説明にはなってない。
それにここは所詮1日で作った場所だ。壊れたとしてもまた作り直せばいい」
「……つまり私たちは生かされていたという事か」
「そういう事だ」
苦々しい顔をしつつも多少は納得してくれたか。
まだ警戒が解けていないのは仕方ないけど、これでやっとまともな話し合いができるな。
「俺達としては話が通じる相手と無理に争う必要は無い。
むしろ出来る事なら隣人として良好な関係が築ければ良いとさえ思っている」
「そうか。……だが待ってくれ。
今はそうだとして、今後も変わらない保証はあるのか?」
「ん?」
「考えてもみてくれ。私達からしたらすぐ近くに怪物がやってきたんだ。
例え安全だと聞かされても安心できるものじゃない」
「まぁそうかもしれないな」
「だろう?だから、決して私達を襲わないと保証してほしい」
ふむ。保証ね。
口約束でって訳にも行かないだろうし面倒な話になってきたな。
これ以上ごたごた言うようなら力づくで解決した方が早い気がしてきたな。
と、そんなどす黒い感情が伝わったのかヒラキーが慌てたように口を開いた。
「た、例えばだ。
契約魔法で我らホッケ族には今後一切危害を加えないというのはどうだ?」
「俺達のメリットが無いな」
「それなら、我らの領で獲れる宝石を定期的に届けよう。
地上人にとってはかなり価値のあるもののはずだ」
「ふむ……でもだめだな」
「なぜだ!」
「俺は家族に首輪を付けたり鎖で縛ったりする趣味が無いからだ。
それに、契約魔法の効力がどれくらいなのかは知らないけど、お前たちに良いように使われる気もないからな」
「な、なんのことだ」
目が泳いでるぞ。
つまり自分でも意識してさっきの話を持ち出したって事で良いんだよな。
なら残念だけどこれ以上の交渉はあり得ないな。
「さっき『ホッケ族には』って言っただろ?
つまり他の魚人族には効力を発揮しない内容で考えてたわけだ。
それはやろうと思えば『虎の威を借りる狐』が出来るってことだろうな。
その気が無かったとしても、お前の発言には所々信用のおけない部分があるからな。
残念だけどこれ以上ここでの交渉はなしだ。
帰って上司なり王になり相談してこい」
「くっ。貴様こそ、その怪物の威を借りているだけじゃないのか」
「力を借りていることは否定しない。
だけど、いい加減ヤドリンの事を怪物呼ばわりされることに我慢出来なくなってきたぞ。
それとも怪物らしくお前たちを食い殺してやろうか」
「ちっ。後悔するぞ!」
捨て台詞と共に泳ぎ去っていく魚人族たち。
だけどなぁ。
結局、あいつら一方的に襲撃しておいて謝罪も弁償も無しとか礼儀がなってないな。
あいつらの為に後悔もしたくないし。
やっぱりしっかりと落とし前付けておく必要があるだろう。
「ヤドリン、引き続きここを任せても良いか?」
「くぃ!」
「頼んだぞ。俺はあいつらの後を追って、上司と話を付けてくる。
その為には『召喚:コウくん』」
「ぴっ♪」
「あいつらを尾行するから隠密頼むな」
「ぴぃっ♪」
そうして俺とコウくんは魚人たちの後を追った。
後書き掲示板
No.223 通りすがりの魔族
無事に魔族第2の島のボスも攻略法確立できた~
No.224 通りすがりの人間
おぉ、乙カレー
No.225 通りすがりの妖精
魔族って強そうなイメージがあるけど4種族のなかで一番最後になるとは予想してなかったよ
No.226 通りすがりの獣人
やっぱあれか?
休憩所の差は大きかったか
No.227 通りすがりの魔族
ああ、まさに。
意地になって頑張ってた分、無い時とある時の違いがよく分かった。
No.228 通りすがりの妖精
今後はボス前に休憩所を作るのが定番化しそうだな。
No.229 通りすがりの人間
そう考えると獣人が一番有利か?
4種族の休憩所を比較したら圧倒的に獣人の所が良いもんな。
No.230 通りすがりの獣人
いや、一概にそうとも言えん。
No.231 通りすがりの人間
え、なんで?
No.232 通りすがりの獣人
あの休憩所、というかBBQ場を作ったのが獣人メインのクランじゃないからだ。
大草原クランにも確認したけど、あれ以来BBQ場作った人たちは見かけていないって。
No.233 通りすがりの魔族
確か先月末のランキング発表で突然幾つかの上位に食い込んだクランだっけ。
前線で全然見かけないってことは攻略組では無いって事かな。
No.234 通りすがりの獣人
そうみたい。
うちの所に来たのも牛肉目当てじゃないかって意見がもっぱらだ。
No.235 通りすがりの人間
それならもしかしたら生産素材を交渉材料に拠点作ってくれるかな。
No.236 通りすがりの魔族
出来るかもだけど、そいつらに依存するのも癪だから自分たちで何とかしたい
No.237 通りすがりの妖精
そう言って結局また魔族が攻略最下位になったりしてな
No.238 通りすがりの人間
な、なぁ。
今第3の島に渡る途中で魚人海賊団とかいうのに襲われたんだけど!?
No.239 通りすがりの獣人
ランダムエンカウント乙~
No.240 通りすがりの妖精
第2~第3に渡る途中は時々あるみたいだぞ。
統計的には25%くらいだって。
No.241 通りすがりの獣人
船が破壊されたら強制的に第2の島に戻されるからがんばれー
No.242 通りすがりの人間
くっそ、折角来るなら魚人じゃなくて人魚プリーズ!
それも飛び切り美少女の!!
No.243 通りすがりの妖精
そういう奴がいるから魚人になったんだよ、多分。




