焼肉パーティー
気が付けば後書きが本編並みに長くなりそうな今日この頃。
そしてすみません。
今週は毎日更新出来ないかもしれないです。
順調に狩りをしていた俺達は一休みすることにした。
といっても、戻ろうと思うとそれなりに移動しないといけないので、ちょっと危険だけどここで行おうということになった。
そうと決まればもうちょっと安全性を確保しよう。
リースにはお茶とかの準備をしてもらいつつ、俺はレイナを連れて穴の外側へ。
「俺がこれから竹竿を地面に刺していくから、竿と竿を糸で結んで行ってくれ」
「はい。不用意に触ったらスパッと指が切れる感じですね!」
「いやいや。糸も竿もそんなに丈夫じゃないから」
むしろそれが出来るなら牛の進路に設置しておけば呼び込むだけで牛がスライスされていくことになる。
それってどんだけ強力な罠なんだよ。
そうして竹竿と糸で穴の周囲を広めに囲ったあと、掘り上げた土で左右に壁を作りつつ、前後の穴を広げておいた。
これなら相当助走をつけないと飛び越えることは難しいだろう。
「ふたりとも、準備できたわよ~」
「はーい」
「待ってました!」
さっきからずっといい匂いが漂ってきてたんだよ。
リースの所に戻ってみれば、待っていたのは海藻サラダにツミレ汁。そして網で焼かれた牛肉!!
いつの間にか即席のバーベキュー台が作られてるし。
「これ今とれた牛肉だよな?」
「そうよ。こうしてすぐに調理出来るのは流石ゲームって感じよね」
「肉汁が滴ってて美味しそうです」
「さっ、熱いうちに食べましょう」
「だな!」
「はい!」
突如始まった焼肉パーティー。
誰も「軽くお茶を飲むだけじゃなかったのか」なんて野暮な突っ込みはしない。
なにせ肉が美味いから。
味付けはシンプルに塩コショウだけだけど、むしろそのおかげで肉の旨味を堪能できた。
3人とも夢中で肉を焼いては食べていく。
「……ごくっ」
「ん?」
ふと、気配を感じて顔を上げると、柵の向こう側に居たプレイヤーと目が合った。
それも1人や2人じゃなく15人近く。
どうやら近くでプレイしていた人たちが匂いに釣られてやってきたみたいだな。
「えっと、良かったら一緒に食べますか?」
「い、いいのか?」
「ええ。良いよな?」
「そうね。マナーさえ守ってくれるなら良いと思うわよ」
リースのその言葉に全力で首を縦にふるプレイヤー達。
そうして再びはじまった焼肉パーティー。
焼くのはリースがほぼ一人で担当して俺とレイナはサポートだ。
もちろん他のプレイヤー達もタダで食べさせるのではなく、肉などを提供してもらっている。
「うめぇ~~」
「いやマジ最高」
「まさかこんなところで、こんな美味い肉にありつけるなんてな」
「ほんとほんと。お前たちに会えて良かったわ」
涙を流さんばかりに喜ぶみんな。
って、あれ?
「皆さんはどうして自分で焼肉しないんですか?
肉は沢山取れているでしょうし、塩だって普通に買えますよね」
「いや、俺達料理スキル持ってないし」
「そうそう。前に試しに焼いてみたけど、硬くて食えたもんじゃなかったよ」
「焼き加減も生だったり黒焦げだったりな」
「それはあんたがマンガ肉が食べたいって塊のまま焼くからでしょ!」
「はははっ。気持ちは分からんでもない」
リアルじゃ早々出来ないだろうからな。
でもそうか。こうして普通に美味しく食べられてるのは全部リースのお陰なんだな。
そして1時間後には全員が動けなくなる程満腹になったのでお開きにすることにした。
「いやぁ、ありがとう。こんな美味い肉を食べたのは初めてだ。
俺達はクラン『大草原』。俺はリーダーのインガルスだ」
「『ホーリーグレイル』のカイリです」
「って、カイリ君」
くぃっと袖を引かれた。
「言っちゃって良かったの?」
「ん?」
「だってほら。カイリ君って賞金が掛けられてるって話だしクラン名も」
「あぁ、そう言えば。まぁ良いんじゃないか?
俺がその金を払う訳じゃないし、この人達も悪い人じゃなさそうだし」
改めてインガルスさん達を見ても怪しいところはない。
これなら昨日の盗賊とかと違って俺達に危害を加えることはないだろう。
そしてそんな心配そうなリースを見てインガルスさんが楽しそうに笑った。
「はっはっは。そうかそうか。
いや、安心してくれ。俺達は飯の恩を仇で返すことは絶対にしないからな。
しかしそうか。
突然ランキングに入ったクランがあると聞いていたからどんな奴らなのかと思っていたが、君たちのその様子を見れば納得だな」
「そ、そうですか?」
「ああ。3大攻略クランを歯牙にもかけない奴らは普通じゃないと思ってたが、こんなバトルエリアの中心で料理を始めるような感性の持ち主なら分からなくもない」
これは褒められている、のか?
少なくとも貶されてるって事は無いだろうけど。
ひとしきり納得したインガルスさん達はよいしょと腰を上げた。
「さて、俺達はこれからボスに挑んでくるよ」
「あれ、ここのボスってまだ未討伐ですよね。大丈夫なんですか?」
「さぁな。だけどこれだけ大量のバフを貰ったんだ。
これで勝てなかったらお前たちに顔向け出来ん」
「そこはそんなに気にしなくて良いですけど。頑張ってくださいね」
「ありがとう。
君たちも気を付けろよ。これだけ匂いを振りまいたんだ。
今はまだ大丈夫みたいだけど、魔物が集まってきてもおかしくないからな」
「あー、ですよね」
牛肉を焼いた匂いで釣られてくる牛っていうのもどうかと思うけど、少なくとも目立ちまくってるだろうからな。
そうしてインガルスさん達は旅立っていった。
方角からして、やっぱり入口の港の反対側にボスは居るんだろうな。
後書き会議室
「今日は呼びかけに応えてくれてありがとう。
これだけ大勢のクランリーダーが集まってくれて嬉しく思う。
このアルフロをより楽しむために共に力を合わせて行こう」
「楽しみ方は人それぞれだが、それは他人に迷惑を掛けない範囲ならだ」
「先月のアップデートである程度住み分けは出来たのは良かったが、グレーゾーンを突く奴らはどうしても居るからな」
「そういう意味では、盗賊側にまわった人たちは健全とも言えるわね」
「一番厄介なのは自覚無く他人を陥れてる奴らだよ」
「あー、いるいる。どっかのアヤシイ宗教信者っぽいやつら居るよな。
こっちの話は全く聞かないし、自分のすることは何でも正しいと思ってるし。
一度脳みその中を見てみたいよ」
そこに集まった人たちは多かれ少なかれ体験があるのか苦い顔を浮かべた。
「で?集まったは良いが何をしようって言うんだ?」
「ああ。俺が考えてるのは、2つ。
1つはバトルエリアの健全化だ。生産プレイヤーや少人数のグループへの略奪行為を阻止したい」
「ふむ。しかし過度な干渉はただの横やりに取られかねんぞ?」
「分かってる。だから直接介入ではなく、救援という形で力を貸していければと考えている」
「救援システムね。確かフレンド登録しておけば呼べるのよね」
「そう。そうすれば少なくとも救援に向かった奴が盗賊認定されることはないしな」
「……あー」
「ん?なにか気になることでもあったか?」
「あ、いやすまん。一昨日、救援が間に合わなくて『どうしてもっと早く来てくれなかったんだ!』って言われたのを思い出してな」
「あぁ、あるある。他にも救援に向かっても力及ばなかった時に『役立たず!!』って言われたりね」
「そういうこと言われると、もう二度と助けてやるか!って思うな」
「そうだな。
だから救援される側にも、必ずしも救援に行けるとは限らないこととか幾つか事前に約束を交わしておく必要があるよな。
その内容は追々詰めるとして、まずはそうやって救援システムを使っていこうと思ってる」
「まぁ良いんじゃないか?」
「そうね。何をやるにしても問題は多少出るのは仕方ないしね」
「ふむ。それでもう一つは?」
「生産系の活性化をしていきたいと思ってる」
「空腹度の実装のお陰で多少は盛り返してきたとは言っても需要と供給が全く釣り合ってないからな」
「そうだなぁ。簡易調理機で作った食料はお世辞にも美味いとは言えないからな」
「あ、そう言えば、例の生産職って見つかったのか?」
「ん?あぁ~」
「一説には太陽の騎士団が匿ってるって噂もあるが?」
「いや、匿ってはいないぞ。情報を開示してないだけで」
「何か理由が?」
「プライバシーの問題だ。本人が良いって言えば良いんだろうけど。
あいつは基本独自路線で自由に活動する奴だからな。出来る事なら今のまま好きにさせてやりたい」
「……過保護にも思えなくもないけど。もしかして彼女?」
「いや友達だ。親友って言っても良いな」
「あ、俺この前会ったぞ」
「そうなのか、大草原の」
「おぉ。焼肉をご馳走してもらった。
お陰で獣人族第2の島のボスも無事に倒せたぜ。
ぶっちゃけその料理バフが無かったら勝てる見込み皆無だったけどな」
「そんなに凄いのか?」
「ああ。短時間とは言え、筋力30%アップを始め、HP自然回復量アップ大、MP自然回復量アップ中、衝撃耐性とかな」
「なんじゃそりゃ!」
「凄すぎだろ」
「それを聞くと、是が非でも生産職に力を入れたくなるな」
「ああ!」
「問題は具体的に何をしていくかだが……」
「……」




