反撃!!
沢山の反響、ありがとうございます。
それだけ真剣に読んでくれてるんだなって思うと嬉しい反面、どうするとより良くなるかなと色々試行錯誤です。
俺はアイテムボックスから『はじまりの長斧』を取り出して構える。
ただ問題は俺一人で盗賊プレイヤー8人に勝つのは流石に無理って所だよな。
そしてまるで人質なんていないかのように振舞う俺を見て盗賊たちは慌て出した。
「て、てめぇ。人質がどうなっても良いのか!?」
「この人でなし!!」
「いや、盗賊にそんな事言われても。
それに、リースだしなぁ」
言いながらレイナに視線を向ける。
それを見て一番怒り出したのは言うまでもなくリースだ。
「ちょっとカイリ君!
これがレイナが人質だったら態度を変えてたの!?
ねぇどうなのかしら!!」
「え、いや。そんなことは、無いと思うぞ?」
「なんでそこで疑問形なの!?信じらんない」
突然始まる痴話げんか。
実際にはチャットで口裏合わせてるんだけど。
レイナからは演じるならきちっとやってほしいと言われた。
なので気合を入れて演じる。
その甲斐あって、盗賊たちもどうしたもんかとオロオロしだした。
見かねた4人組のリーダーが声を掛けてくる。
「お前いつか刺されても知らないぞ」
「って、そこはフォローしてくれるんじゃないの?」
「いや、今のは無理だろう」
はぁぁ、と深いため息をつかれてしまった。
同時に周囲からの俺の好感度もどんどん下がっていく気がする。
ま、まぁそれは後から回収するとしてだ。
視界の端に表示された通知を見れば時間稼ぎが出来たようだ。
なら奴らの気をこっちに引き付けよう。
「兎に角だ。残念だけど有り金は渡さないし、むざむざ殺されてやる気も無い」
「へっ。なら後悔しながら死にな!」
そう言って襲い掛かってくる盗賊A、B。
こちらも負けじと斧を振りかぶった、その時。
ヒュッ、パリンッ、ボッ!!
「ぎゃーー」
「づあじーー」
どこかから飛んできた試験管が盗賊たちの頭にヒット。
割れて中味がまき散らされると同時に小さな爆発が起きた。
「うちの子たちにオイタをしてるのは誰かしら?」
「ウィッカさん!」
試験管の正体はウィッカさんお得意の火炎瓶だ。
流石ナイスタイミングだ。
そして更に。
「たぁっ」
「はあっ!」
林から飛び出してきたサクラさんとツバキさんが盗賊たちに切りかかった。
突然の敵に慌てる盗賊たち。
その隙に俺もリースを捕まえてる盗賊へと駆け寄った。
「『開墾撃』!」
「ぎゃあ」
剣を持っていた腕を攻撃された盗賊は思わず剣を取り落とした。
俺は追撃にそいつの腹に蹴りを入れて吹き飛ばし、リースの身柄を確保した。
「怪我はない?」
「うん、大丈夫よ」
「なら反撃と行こうか」
「ええ、と言いたいところだけど、もう終わりそうよ?」
「ん?」
見ればウィッカさんに身体を焼かれてボロボロになった奴が3人。サクラさん達に倒された奴が4人。
そしてリースを捕まえていた奴は、いつの間にか首に包丁が突き刺さっていた。
みんな強いなぁ。
ぎりぎり俺の出番があって良かったよ。
「みんな、来てくれてありがとうございます」
「いいのよ~。その為のクランだしね~」
「ですね!!」
「救援依頼が飛んできたの初めてだったので、びっくりしましたけど」
そう、ウィッカさん達がここに居るのは偶然ではなく、先日実装された救援システムを使った結果だ。
このシステムを使えば1人につき1日1回15分だけ呼べるんだ。
確か課金アイテムを使えばその制限を緩めることが出来たはず。
ただこれ、呼ばれる側も自分の活動の手を止めて救援に行くことになるので、ちょっとリスクが高い。
その補填をどうするかは呼んだ側との交渉次第だ。
呼ぶ側がケチだとそのうち救援に応えてもらえなくなるんだろうな。
俺達の場合はお互いに協力しあう事で話は既に付いている。もちろんお礼の品は渡すけど。
俺やリースからは食料品関係を。レイナは拠点に戻った後に装備の補修などだ。
まぁこの場が助かったことを考えればお礼くらい奮発するよな。
と、安堵するのは早かったらしい。
「お、お前ら一体何なんだよ!!」
慌てた様子の4人組プレイヤー。
何で焦ってるのかと思ったら、そう言えばさっきの盗賊とグルなんだよな。
今は俺達に向けて武器を構えてるし。
「そういや、お前達もあいつらの仲間だったんだな」
「な、何を根拠に……」
「林の中で盗賊たちが話してたらしいぞ」
「ちっ、あの馬鹿ども。こうなりゃ仕方ない」
そう言ってレイナに走り寄って首に剣を当てた。
「お前達、1歩でも動いてみろ。この女の首が飛ぶぞ!」
おいおい、さっきの今で人質が役に立たないって学習してないのか?
そう思ってたらそいつが俺を見てニヤッと笑った。
「お前はそっちの女と違って彼女が人質に取られてたら困るんだろ?」
……ん?あ~そんなようなことも言ったな。でも。
「勘違いするな。
俺は誰が人質になっても態度は変えないって言ったつもりだったんだけど。
ゲームなんだから最悪拠点に戻るだけだしな。
それにしても、お前ら。
大人しく立ち去っておけばいいものを、そのままレイナを殺したら同族殺しで盗賊行き確定だぞ?」
「うるさいな。そんな脅しで屈する俺達じゃないんだよ」
「そうか。まぁ剣を向けられた時点でこちらの正当防衛は成立してるし、俺としてはどうでもいいんだけど。
ちなみに一応言っておくと、彼女はただの可愛い女の子じゃないぞ」
「なに!?」
ぎょっとレイナを見たが遅い。
そのわき腹には既にレイナが隠し持っていた麻痺針が突き立てられていた。
「がっ、ぎっ」
痺れて動けなくなる男がレイナによって吹き飛ばされると、残りの3人は慌てて距離を取った。
「おい、どうする?」
「このままじゃマズいな」
「仕方ない。俺達も救援を呼ぶぞ!」
「くっ、痛い出費だけどな」
3人はじりじりと距離を取りつつ、視線をきょろきょろさせている。
どうやらクランメンバーやフレンドに救援要請を投げているようだ。
しかし。
「……」
「……」
「おい、どうして誰も来ないんだ?」
どうやら救援は来ないらしい。
これが口が上手な奴なら「今から俺の仲間が100人駆けつけてくるからな!」くらい言ってのけるんだろうけど。
やっぱり日頃の行いの問題だな。
「誰も来ないみたいだな」
「うん、ならこれ用意しなくても良かったかも。折角だから使うけど」
リースが持っていた粉薬に火を付けた。
たちまち噴き出す黒煙。
それをレイナが扇いで男たちの方へと流していく。
「うごっ。くさっ」
「なんだこれ、力が抜ける」
「ぐふっ」
ウィッカさんが調薬に失敗して(成功して?)出来た毒の粉だ。
直接摂取しても危険だけど、こうして煙を吸わせるだけでもそれなりに効果がある。
そうして弱った所を全員で討ち倒した。
そう言えば、何気にみんなで戦うのって今回が初めてだな。
「しっかし、盗賊行為をする人が結構多くて大変ね」
「ほんとそうですよね。何が楽しいんでしょう」
「まぁそれは人それぞれって事なんじゃない?
っと、もう時間みたい。じゃぁまた拠点でね」
「はい、ありがとうございました」
そうしてウィッカさん達は戻っていった。
「よし、俺達は気を取り直して港に行こうか」
「そうね」
「はい!」
流石にもうこれ以上のハプニングは無かった。
色々あって疲れたから今日はここまでかな?
転移門の登録を済ませて明日の予定を2人として終わりにしよう。
後書き議事録 ダンデ編
21xx年6月1日
その日は『太陽の騎士団』の主要メンバーを集めて今後の活動方針について話し合っていた。
当然最初に出てくる議題は昨日発表されたランキングだ。
「この『ホーリーグレイル』ってクラン、誰か知ってるか?」
「いや、聞いたことが無いな」
「私も無いわ」
「うーむ、和名にすると『聖杯』か」
「いや待て。『Holy Grail』か『holy grail』かで意味が変わってくる。
前者は『聖杯』だけど、後者なら『至高の目標』って意味もある」
「流石ジーニーは博識だな」
「今回のランキングを見る限り、誰も到達していない場所を目指すクランなのかもな」
「あっ。もしかして自分で船を作って本島を飛び出したとか」
「北の空白地帯を目指した奴らは例外なく撃沈されたって言うけど、それ以外ならワンチャンあるんじゃない?」
「それで運よく無人島を見つけて占拠したとか」
「ありうるな。確かにそれなら占有率でトップに躍り出るのも不可能じゃない」
「でもそんなことするなんて相当変わり者よね」
『変わり者』と言われてあいつの顔が思い浮かんだ。
多分俺が知る中であいつ以上に変わった事をする奴はいない。
それに行動力もあるしな。ってそうか。
「2期組で種族に『その他』を選んだらスタート地点ランダムだよな。
確か無人島スタートになったって話も聞いたことがあるから、そいつがって事も考えられるな」
「なるほど。じゃあ、別段不正をしたとかチート的な何かをしたって訳じゃなさそうだな」
「運営が何も言ってない所を見ると大丈夫だろう」
「なぁダンデ。一つ良いかい?」
「ん?なんだフラフ」
「農地面積ランキングってあるでしょ?
私、1位と3位のクランに知り合いが居るの。
それで3位の方だけど妖精族を中心としたクランで、アップデート後から妖精族の本島で大規模に農業を始めたのよ」
「??それで?」
「私の知っている中で、その3位のクランよりも生産物の売上高が高い『個人』に心当たりがあるんだけどどう思う?」
「ぶふっ」
それは間違いなくあいつの事だよな。
しかし俺はそんなに気にして見てなかったけど、いつの間にかそんな事になってたのか。
相変わらずぶっ飛んでんな。
だからこそ、一緒にいて楽しいんだけど。
あぁそう言えばこの話をしてた時、微妙に目を逸らしてたっけ。
「よし、このクランについては俺に任せてもらっていいか?どうやら俺の知り合いが参加してそうなんだ」
「そうね。任せるわ」
「俺達としても不正さえしてなければいい」
「挑む相手が居るのは良い事だしね」
全員が頷いたのを見て、次の議題へと移った。
「じゃあ続いて昨今のプレイヤーのマナー問題だ。
元々4種族が競い合うような世界観のゲームだからPvPが多くなるのは仕方ないとしても、
問題は盗賊プレイをする奴が増えてるってことだ」
「運営側がわざわざ『盗賊』っていう職業を作ったってことは今の状態も運営の意図通りって考えられるね」
「でもこのままじゃ生産職とか対人戦に興味のない奴が辞めて行ってしまうぞ」
「世紀末まっしぐらね」
「俺としてはそうはなって欲しくない」
「そうだな」
「ええ」
「そこでだ。他のクランにも声を掛けて有志で自警団みたいな活動が出来たらと思うんだけどどうだろう?」
「積極的に盗賊プレイヤーとぶつかるってことか」
「逆恨みされる危険はあるけど、元々それが無くても悪質なプレイをすることに変わりないものね」
「トップ攻略からは一歩引く形になるかもしれないけど、俺達『騎士団』だからな」
「そうそう。変な正義感がある訳じゃないけどさ。ゲームを楽しくプレイするにはそれなりの秩序ってものが必要だよな」
「よし、いっちょやってやるか」
「「おう!」」




