はじめての収穫
一応先に補足しておくと、無条件で収穫できるのが今回の作物になります。
それ以外はちゃんと種を植えるなどが必要です。
さぁ今日もアルフロだ!
と気合を入れてログインした俺の目に飛び込んできたのは昨日までとは違い1面青い世界ではなかった。
俺が頑張って耕した場所には、これでもかと言わんばかりに緑が生い茂っているのだ。
さらに所々が薄っすら光って見える。
これは確か収穫可能のサインだ。
芽が出てから3日目にして収穫か。
流石ゲームの世界だな。
「さて何が収穫出来るのかな」
早速手近なところに手を伸ばしてみる。
ガシッと確かな手ごたえの後、採れたのは……ニンジン?
【海ニンジン:レア度2、品質4。生産者:カイリ。
海中で育てられた変わったニンジン。
通常のニンジンに比べ甘みが強い。
生産者の愛情が籠められている為、高品質。
また一部の魔物の好物である】
説明文を見ればマジでニンジンだった。
という事は他のも?
【海ほうれん草:レア度2、品質4。生産者:カイリ。
海中で育てられた変わったほうれん草。
通常のほうれん草に比べ栄養価が高い。
生産者の愛情が籠められている為、高品質。
また一部の魔物の好物である】
【海シイタケ:レア度2、品質4。生産者:カイリ。
海中で育てられた変わったシイタケ。なぜか地面にそのまま生える。
通常のシイタケに比べ味に深みがある。
生産者の愛情が籠められている為、高品質。
また一部の魔物の好物である】
【海スギナ:レア度2、品質4。生産者:カイリ。
海中で育てられた変わったスギナ。
通常のスギナに比べコクがある。
生産者の愛情が籠められている為、高品質。
また一部の魔物の好物である】
やっぱり。
でもこの海を付ければ何でもいいのかと言いたくなるネーミングは何とかならなかったのか?
多分地上の畑で採れるものを何とか海中に適応させてくれたんだろうとは思うけどさ。
説明部がかなり適当だし。
まぁ分かりやすいからいっか。
ひとまず今日収穫できるのはこの4種類みたいだな。
「それにしても、この生産者の愛情って、あれだよな」
多分歌ったり応援したりしたのが良かったって事なんだろう。
ただそんな事どっちでもいい。
だって、無事に育ってくれただけでかなり嬉しい自分が居るからな。
ほんとよく元気に育ってくれたよ。
「ちゃんと美味しく食べてやるからな……って、あれ?」
最大の問題に気が付いてしまった。
俺は一体どうやってこれを料理すればいいんだ?
リアルであれば水洗いして適当な大きさに切って炒めたり煮込んだりすれば食える。
それこそ昼の弁当みたいに野菜炒めとかにすれば良いと思ってたんだ。
でもここ、水中だよな。火が使えないじゃないか。
更に仮にダンデに食材を渡して料理したものを返してもらったとして、水中で食えるのか?
一応火が通ってれば食えないことは無いだろうけど、味付けとか台無しになりそうだ。
特に鍋物とか汁が確実にアウトだ。
いっそのこと生でかじりつくか?
ほら、ニンジンなら野菜スティックとかいって生で食べるし。
この海ニンジンも行けるって。
「……(じー)」
「(ごくり)」
思わず生唾を飲み込んでしまった。
目の前に掲げた海ニンジン。
大丈夫だ。
これはちょっと太い野菜スティック。
ただカットされてない野菜スティック。
「よし、行くぞ」
「……(じー)」
「あー……ん?」
「……(じー)」
なんかものすごい視線を感じる。
おかしいな。ここには俺しか居ないはずなんだけど。
辺りを見渡してもあるのは畑と岩壁と岩壁に空いた穴。
あとは畑の隅に立っている岩。……岩?なんで岩があんなところに?
近づいてみるも、やっぱり岩だ。高さ1メートルのキレイな円錐型だ。
ただ若干周囲の岩壁とは材質が違う気がする。
コンコンッ
試しにノックしてみると意外と軽い反応が返ってきた。
中は空洞なんだろうか。
なら俺の力でも持ち上がるかな?ここにあったら畑の拡張に邪魔だし。
「ふっ、ぬぐぐぐっ」
くっ、全然動かない。どうやら予想外に重いらしい。
仕方ない。開墾スキルで崩してしまうか。綺麗な円錐だから勿体ない気もするけど。
「よっ(ガキンッ)あれ?」
開墾スキルが弾かれた。
という事はただの岩じゃないって事か?
そう言えばさっきの視線の主も見当たらないし、もしかしてこの岩に見えるのが生き物だったり?
それならお願いすれば動いてくれるかな。
「おーい、ここにあると困るんだよ。もっと壁際に寄っててほしいだけど」
「(ズズズッ)」
おぉ、言ってみるもんだな。
やっぱりこの岩は生き物、魔物?の一種だったみたいだ。
俺のお願いを聞いて、ズリズリと壁の方に動いていく。
「あ、そこらへんでもう大丈夫だ。ありがとな」
「……」
お礼を言いつつ頭の代わりに岩の表面を撫でてみる。
結構つるつるしてて触り心地は悪くないな。
「って、そうだ。さっき俺を見てたのはお前だよな?
もしかして、この海ニンジンが欲しかったのか?
お願い聞いてくれたお礼に何本か置いていくから、良かったら食べてくれ」
「……」
返事はなし。でもいいか。
俺はポンと岩の前に海ニンジンを置いて畑へと戻った。
まずは今日中に収穫できるものを収穫して、ダンデに一部お裾分けとして送ろう。
あいつの友達ならどうにかして美味しく調理してくれるだろうしな。
後書き日記(続き)
森からの帰り道は、残念ながら何事もなくとはいきませんでした。
今私の目の前には先ほどと同じ狼が3体。
足の速さでは間違いなく向こうが上なので逃げられはしないでしょう。
包丁を持った右手に力が籠ります。
そうそう、メイン武器は【はじまりのナイフ】から出刃包丁へと変えました。
ジョブ補正のお陰で通常よりも切れ味が鋭くなっています。
じわじわと隙を窺う狼たち。
以前従兄から教わった内容によると、通常の犬系動物の攻撃手段はたった2つ。飛び掛かるか噛み付くか。これのみだそうです。
更に言えば攻撃部位は爪と牙のみ。
ゲーム内では魔法を使う魔物もいるので一概にそうとは言い切れないですが、先ほどの男性たちとの戦いを見てても魔法は使ってなかったので大丈夫でしょう。
であれば、背後を取られないようだけ気を付けましょう。
そして待つこと2秒。
最初に飛び掛かってきた狼の右足を力いっぱい切り付けつつ左に半歩体をずらします。
速さはうさぎとそんなに変わらないので1対1なら避けるのも難しくなさそうです。
狙いが逸れて通り抜けた狼はうまく着地が出来なくて地面で半回転。直ぐには起き上がって来れなさそうです。
これは、期待以上にダメージが通りますね。
とは言ってもこちらも防御力は無いも同然。
次々と襲い掛かってくる狼に油断は出来ません。