移動しよう
本編の時間の流れがゆっくりなので、ちょいちょい後書きの内容を変えてみようかなと思ってます。
冒険者ギルドを出た俺達が次に向かったのは港町、ではなく転移門だ。
本島にある港町に歩いて向かうと1時間足らず。馬車で6分。
「1つ目の島への転移門までは開けてありますよ」
というレイナさんのお陰でその6分も掛けずに、しかも海を渡る10分も省略出来るんだからありがたい。
そうして着いた1つ目の島。
場所は波止場というか入江にある港だな。
「すみません、ここからは歩きになります。
島の中央を蛇行しながら貫いた街道の終端に次の島に行ける港と転移門があるそうです」
「いやいや、ここまで移動を短縮出来ただけでも有難いよ」
「そうそう。本当ならここまで1日掛けて踏破する距離だからね」
さっき1時間って言ったけど、何事も無ければ、という前提だ。
もちろん普通そんなことは無い。
道中魔物も居れば素材採集ポイントもあったりして結構時間が掛かるものだ。
「ところで、この島を縦断するのにどれくらい時間がかかるんだ?」
「そうですね。何事も無ければ1、2時間で行けるそうですよ」
「ちなみにこの島ってバトルエリアあり?」
「はい。その方が距離は短かったもので」
「そっか」
それはフラグかな?
まぁいいや、とにかく行こうか。
「今回の目標は次の島だから街道を駆け抜けよう「なぁお前ら」ん?」
突然呼びかけられて振り返れば獣人の男性プレイヤー4人が居た。
ん~初対面、だよな。
「なんでしょう?」
「今次の島に行くって言ってたか?」
「ええまぁ」
「それなら俺達と一緒に行くか?
俺達も次の島に行く予定だし、お前たち2期組だろ?
ついでに護衛とかもしてやるよ」
ふむ、どうしようか。
リース達の方を見ると「任せますよ」というジェスチャー。
うーん、なら折角だしな。
「すみません。お誘いはありがたいんですが、今回は俺達3人でどこまで行けるか試したいもので」
「あーそうか。まぁ仕方ねぇな」
「心配してもらったのにすみません」
「いやいや良いって。じゃあ、俺達は少し準備してから行くから、またな」
「はい。お声がけ頂きありがとうございました」
挨拶をするとその4人組は港のどこかの施設の中へと入っていった。
「良かったの?」
「ん?ああ、まぁな。戦闘職に一緒に居てもらえるのは心強いけど、何かの拍子に俺達のクラン名が伝わると、ひと悶着ありそうだからさ」
「あ、なるほど」
「それに3人で行ってみたいっていうのも嘘じゃないし」
「そうですね。私たち出会ってもう1か月近くになるのに、あの島以外で一緒に活動したのなんてほんの少しですからね」
「そういう事。なのでウィッカさん達なら大歓迎だけど、それ以外は無しにしよう」
「「はい」」
そうして今度こそ港を出た俺達は街道をランニングくらいの速度で走っていた。
街道の周囲は草原が広がっていて、街道から少し離れたところには何体も魔物の姿が見える。
またそれと同じか1/3くらいのプレイヤーと思われる人たちも魔物を討伐したり採集をしていた。
「こうして見ると意外と混雑してないんだな」
「それはほら。最初に渡れる島って3つあるじゃない?
そのおかげである程度分散したみたいよ」
「はぁっはぁっ。島ごとに、出る魔物も違うみたいなので、ギルドで受けた依頼によっても、行き先が変わるみたいですね」
後ろを振り返ると肩で息をしてるレイナさんが居たので、普通に歩くことにする。
出発してから15分くらい。距離にして3、4キロってところか。
ゲームだからか、俺は全然疲れてなかったけど、やっぱり運動が苦手そうなレイナさんにはきつかったか。
「はぁ、ふぅ。すみません。わたし体力無くて」
「いやいや、レイナさんは悪くないよ。
リアルで考えればここまで走れる女子って凄いから」
「うんうん。この距離を走れるのって陸上部の子くらいだよ」
でもそうか。
ステータスには特にないけど、スタミナみたいなパラメータもあるんだろうな。
もしくはリアルに準拠しているのか。
「よし、そんなレイナさんにこれを上げよう」
そう言って俺は1本のボトルを渡した。
「これは……お水?」
「島の井戸水にちょっと手を加えたものだ」
「えっと『高濃度酸素水』、ですか」
「リースもどうぞ」
「ありがとう、貰うわ。どれどれ……」
【高濃度酸素水:レア度2、品質4。製作者:カイリ
大量の酸素を溶かした水。飲むことで低酸素状態から回復出来る。
ただの水である為、空腹度の回復は気休め。いくら飲んでも太らない。
適度なミネラル分が含まれている為、のど越し爽やか。
マラソン好きなあなたに!
】
要は水に大気魔法で大量の酸素を溶かしただけだ。
なぜかペットボトルっぽい入れ物に収まったのはよく分からないけど、便利だから気にしないことにしよう。
そして早速飲んでみたレイナさんの息がすぐに整ったところを見ると効果は抜群のようだ。
「凄いですね、これ。さっきまでの息苦しさが嘘のようです」
「リアルで同じ効果が得られるとは限らないから注意してくれよ」
「あーまぁ、そうよね。これさえあれば体育が楽になるかなって思ってしまったけど、そんなことないよね」
「リースらしい考えだけど、無いだろうなぁ」
目をそらし気味に笑うリース。
残念だけど現実はそんなに甘くはない。
と、思ってたら、なにやらレイナさんが思案顔?
「レイナさん。どうかした?もしかして美味しく無かったとか?」
「いえその、ちょっと気になっただけなんですけど。
カイリさんってリースさんの事は呼び捨てなんだなって」
「ん?」
「え?」
「ほら、私の事はさん付けじゃないですか。その違いは何かなと思いまして」
言われてみればッて感じだけど、なんでだっけ。
そもそもなんでリースは呼び捨てになったんだ?
思い返してみても特に何かがあった記憶はないな。
「強いて言えば気安さっていうのかな」
「気安さ……」
「例えば、そうだな。花で例えるとリースはタンポポなんだよな」
「タンポポってそれ褒めてるの?」
「まぁまぁ。
タンポポって言ったら春になったら公園とか河川敷とかで見かけるだろ?つまり生活に溶け込んだ存在っていうのかな。
それで言うとレイナさんはユリの花かな。よく手入れされた庭に咲いているイメージで、間違っても踏み荒らしたらいけない感じがするんだよ」
「それだとタンポポの私は踏み荒らしてもいいって事になるの?」
「そ、そういう意味じゃないよ。ほら、俺タンポポは好きだし、子供のころに綿毛を吹いて遊んでたし」
しまった、例えが悪かったか。
リースのジト目がキツイ。
でも何となくレイナさんにはイメージが伝わったみたいで、反芻するように頷いてる。
「ユリの花……手入れされた庭……なるほど。
それなら私は皆さんの庭に咲いていると思ってください。
そう考えれば、もっと気安くなりますよね!」
にこっと笑うレイナさん。あ、いや。
「じゃあこれからはレイナって呼べば良いのかな?」
「はい、それでお願いします。リースさんも私の事は呼び捨てで良いですからね」
「うーん、それは良いけど、ならレイナも私たちの事をさん付けするのはおかしくないかな?
敬語だって使わなくていいと思うんだけど?」
「それはその、小さい頃からの癖と言いますか。別に無理してる訳じゃなくてこれが普通なんですよ」
「あー時々居るよね。敬語が普通って。なら無理して崩す必要もないか」
「そうね。じゃあ、改めてこれからもよろしくね、レイナ」
「はい!」
そんな風に和気あいあいと話していた俺達に無粋な声が飛んできた。
「あーお取込みのところ悪いけどな」
「ん?」
「ここは通行止めだ。通りたかったら1人10万G払ってもらおうか」
気が付けば街道を塞ぐように5人の男たちが立っていた。
後書き日記 レイナ編
えっと、先日出来たお友達が日記を書いてるって話を聞きましたので、
わたしも書いてみようかなって思ったのですが、いざ書こうとすると何から書けば良いのでしょうか。
あ、そうです。まずは日付からですね。
21xx年5月10日
わたしは4月の後半から学校で話題になっていたVRゲームを始めました。
すごいです。噂通り、ゲームとは思えないリアルさです。
これは期待できますね。
私が選んだ職業は裁縫士です。
現実ではお洒落しようとするとお金が掛かりますからね。
その点、ゲームの中なら自由にお洒落が出来ます。
とは言っても最初から何でも出来る訳ではないので地道にコツコツと進めてます。
そうしてゴールデンウイークが終わる頃には一般的な服は作れるようになりました。
まだ素材の関係でそんなに沢山は作れませんが、自分である程度デザインは決められるので、オリジナルの洋服も作れるのが素敵です。
そして何より、私の作った服を着てくれる人が居るのが嬉しいですね。
まだまだ手習い感のある状態ですが、やっぱり着てもらえると嬉しさもひとしおです。
でも今後の課題として、良い素材を手に入れようと思ったら危険な魔物を倒したり、魔物がはびこる場所での採集が必須になってきます。
わたし、運動神経はあまり良くない。いえ、正直悪いと言った方が良いですね。
幸い『念動力』というスキルを最初に選んだお陰で糸を魔物に絡ませることで動きを阻害することは出来ます。
(元々はこれでいつか人形劇が出来たら良いなと思ったんです)
攻撃も友達になった男の子から強力な針を頂いたので、上手くすれば自分の身を守るくらいは出来るでしょう。
更に糸を戦いに使うなら丈夫にする必要があると思ってイベント特典で『強靭化』スキルを取得しました。
ですがこのスキル。
糸も強く出来るのですが、本来は人に使う物のようです。
一時的とはいえ、戦闘職並みの力を発揮する女子ってどうなんでしょう。




