ひとりぼっちの迷走
東側の島、東グレイルに来た俺は改めて周囲を見渡す。
といっても近くには草原が広がっているばかりで、少し離れて丘や岩場がある程度だ。
西の崖には先日植えたつる植物が伸びており、当初の期待通り、崖の壁面に模様を作ってくれている。
後あるのは海面に降りるための洞窟と、その横に作った転送門用のマーカー。
つまりなんだ。
放牧地にするにも広すぎだな。
全体の1/3も使えば十分だろう。
「……ところで。牧草ってなんだっけ?」
根本から問題に直面してしまった。
えっと、雑草とは違うよな?
いやでも、スイスの少女では単純に山に生えてる草をヤギに食べさせてたっけ。
時々乳の出を良くするために花も食べさせてた気がするから、薬草花でも良いのだろうか。
うーん、こういう時は一度相談だな。
『さっきの今で悪いんだけど、牧草って何?って問題に行き当たった。
この世界に四季があるかは分からないけど、当分の間は今のままの草原で良いのかなと。
寒くなってきたり、草が足りなくなったら改めて考えようと思う。
強いて言えば薬草とか花畑とかがあっても良いかなって思うんだけどどうだろう?』
クランメールで全員に送ってみた。
するとぽつぽつと返信が返ってくる。
『厳密に言うと牧草に適した草ってありますけど、無理に育てる必要はないかもしれないね』
『もし魔物の牛を飼うとしたら肉食の可能性も高いですよね』
『薬草であればどちらにしても無駄にはならなくて良いかもしれません』
『花畑でピクニックとかも良いかもです』
『いっそ桜を育てて花見酒っていうのも乙よね~』
魔物の牛、魔牛っていうのかな。確かにゲームの世界なんだし、普通の牛よりそっちの方が可能性高いな。
当然レア度なんかも上がるだろうし、俺の従魔術があれば意思の疎通も出来るしいい事尽くめだ。
しかし牛が肉食っていうのは盲点だったな。
皆に相談してよかった。
これならレイナさんやウィッカさんの言う通り、放牧予定地はそのままに残りを花畑するのも良いかもしれない。
幸い花の種ならまだまだあるし。
よし、そうと決まれば早速耕しますか!
「……」
ザクザクザク
「……」
ザクッザクッザクッ
「……」
ザクッ、ザクッ、ザクッ
「……あれ?」
なんだろう。
いつもと違うというか。
何かが足りない?
手を止めて辺りを見渡せば、ただただ草原が広がっているだけだ。
耕した範囲も1区画分にも満たない。
なのに疲れたというか、つまらない?
「あ、そうか。つまらないんだ」
口に出すとすごくしっくり来た。
この1週間、みんなと島の探索をしていたり、もちろん竜宮農場にはヤドリン達が居たので同じ農作業でも楽しく出来ていた。
それが今は1人。
ミズモを呼ぶって手もあるけど、そんないつもって訳にも行かないしな。
「……よし。今日は止めよう」
まだ始めたばっかりだけど、これはだめだ。
ゲームはやっぱり楽しくやらないと意味がない。
一度村の方に戻ろう。
そうして転送門で西側に戻ると、なぜかそこにはリースとレイナさんが居た。
「あ、カイリ君お帰り~」
「もしかしてカイリさんもですか?」
「もって?」
首を傾げる俺に二人は顔を見合わせて小さく笑っていた。
もしかしてそういう事なのか?
「実は久しぶりに一人で野草の採取に行ってたんだけど、一人は静かだなって思って戻ってきたの」
「私も、裁縫やってたはずが、何となく気が進まなくなって、誰かおしゃべりする人いないかなって思って顔を出したんです」
「俺も一人で畑耕すのなんていつもの事だ~って思ってたんだけどな」
「おんなじだね」
「ですね」
「だな」
3人顔を見合わせて笑いあう。
どうやら皆で居るのに慣れてしまったのは俺だけじゃなかったみたいだ。
「ウィッカさん達は来ると思う?」
「うーん、どうだろう。ウィッカさんは私たち以上にマイペースというか、多分どこに行っても飲み友達が居そうですよね」
「確かに。わたしは飲んだことないですけど、お酒好きの人同士って仲良くなりやすいイメージがありますからね」
「ウィッカさんなら初対面でもすぐに乾杯始めそうだな」
「うんうん。サクラさん達は大抵2人で活動してるから、やっぱり来ない気がするね」
「あの2人って幼馴染って言ってましたっけ。ちょっとうらやましいですよね」
幼馴染か。陽介とはだいぶ長い付き合いになってきたけど、幼馴染とはまた違うしなぁ。
あ、そういえば転送門が使えるようになったんだから今度会いに行くのも良いな。
ただ今は。
「折角だから3人でどこか出かけてみる?」
「いいわね。一緒に冒険するのなんてラムラリアで中央目指すとき以来だし」
「はい。私もお二人の足を引っ張らない程度には戦えるようになりましたので安心してください」
「よし、そうと決まれば行き先にリクエストはある?」
「特には無いけど……」
「そうですね……あっ。じゃあ牛が居るところに行きましょう。
獣人族の本島から2つ渡った島に居たはずですから」
「牛かぁ。乳牛ゲット出来るかな」
「そもそも魔物ってそんな簡単に従魔に出来るものなの?」
「イカリヤ達は食べ物あげたら従魔になってくれたけどな。
まぁ行ってみて考えよう。ダメで元々ってことで」
「そうね」
「はい」
そんな訳で俺達は転送門で獣人族の本島へと向かったのだった。
後書き日記(続き)
クランの今後の方針をザクッと決めた?私たちはそれぞれのやりたい事の為に解散しました。
サクラさんとツバキさんは2,3話し合った後、飛んでいきました。
ウィッカさん、レイナさんも、それではといって多分自分の種族の本島に向かったのでしょう。
私はどうしましょうね。
うーん、折角だから私も自分の種族の攻略でも進めておきましょうか。
次の島に渡れば新しい食材なんかも見つかるでしょうし。
そう思って妖精族の本島に渡った後、馬車に乗って港町へ。
更に船に乗り換えて第1の島へ。
こう、乗り物に乗ってるとぼーっとしてれば目的地に着くので楽です。
楽、なんですけどちょっと手持ち無沙汰ですね。
ひとりだと話し相手も居ないですし。
そんな折、カイリ君からメールが届きました。
牧草は牧草、ですよね?
あれ、でもどんな草かって言われるとパッと出てこないです。
うーん。ってそもそもこの世界の牛って草を食べるんでしょうか?
イベント村の牛たちは草も食べてましたけど、倒した魔物の肉とか美味しそうに食べてましたしね。
でも肉食の牛って人を襲わないかちょっと心配です。
そんなことを考えているうちに無事に船が着きました。
転移門の登録をして、今日はフリーエリアを散策しましょう。
………………静かですね。
先月ならみんなと話をしながらの探索でしたが今日はひとり。
急に1人になるって言うのが良くないんでしょうね。
まぁだからと言って魔物が欲しい訳ではないのです、がっ!
ふぅ。新しいお肉もゲットしましたしちょっと休憩しましょう。
拠点のコンロで煮込んでみようかな。
料理してれば気も紛れるでしょうし。
と思ったらレイナさんが先に戻ってきてました。
何かあったのかと思ったら気分が乗らなかったと。
つまり私と同じですね。ふふっ。
久しぶりに2人で女子トークをしてたらカイリ君まで戻ってきました。
この流れはきっと、私たちと同じですね。




