ようこそ我が家へ
ひとまずここで1区切りです。
気が付けば信じられない程の人に読んで頂けて評価や感想も大量に頂けて嬉しい限りです。
皆様本当にありがとうございます。
お話自体はまだまだ続きますので、
今後ともよろしくお願いします。
「カイリくーん」
「おう、みんな久しぶり!!」
2週間ぶりの皆との再会だ。
この2週間、みんなにも色々あったみたいで、纏っている雰囲気が変わっている。
「というか、装備が充実してる?」
「変わってないのはカイリ君だけだと思うよ?」
「そうですね。という訳で、遅くなりましたがカイリさんの装備一式です。
私が作ったので見た目重視になってしまい申し訳ないですけど」
「いやいや。助かるよ。ありがとう」
レイナさんからプレゼントされた服を早速着てみる。
全体的に落ち着いた色合いで動きやすさも問題ない。
戦闘をするならこの上から胸当てとかを付けるのもありだろう。
ただ農家っぽいかと聞かれたら首を傾げるけど。
「どうかな?」
「良いんじゃない?格好いいと思うよ」
「はい。作ってよかったです」
よしよし、女性陣にも好評なようだ。
「で、ウィッカさんはなんでウィッチスタイル?」
「ああ、これ?ポケットが多いのよ」
お馴染みのとんがり帽子に黒マント。
錬金術師だし、家に帰ると大鍋をまぜてるんだろうか。
そしてマントを開くと腰回りにずらっと薬瓶が括り付けられてた。
「おぉ、魔女っぽい」
「ま~半分はお酒なんだけどね~」
そう言いながら1本を抜き取るとゴクゴクと飲みだすウィッカさん。
「ぷはぁ。お酒も飲めて各種バフまで付くのよ~。
残念なのは満腹度が低い時に飲むと酩酊状態になりやすいってところかしら。
そんなところまでリアルに近づけなくていいのにね~」
「なるほど、空きっ腹にお酒は良く無いって聞きますからね」
最後にサクラさんとツバキさん。
前に会った時は駆け出し冒険者って雰囲気だったのに、今ではベテランの迫力がある。
「サクラさんとツバキさんは格好よくなりましたね」
「はい。レベルも装備もだいぶ充実させることが出来ましたから」
「これも全部皆さんのお陰です!」
「? 俺達が何かしたっけ?」
リース達を見ても首を横に振っている。
特に心当たりはないようだけど?
「皆さん気付いてないかもですが、リースさんが作ってくれた料理にウィッカさんのお酒によるバフは強力ですし、そこにレイナさんの装飾品の効果が合わさって、1期組と遜色ない活躍が出来るようになってるんです」
「聞けばその材料の多くはカイリさんが提供しているそうじゃないですか」
「なるほど、そういうことか」
うちの畑もだいぶ充実してきたからな。
まだまだ量は採れないけど、ニンジン、ほうれん草、シイタケ、芋、小麦、大麦、香辛料の類も増えてるし、肉や乳製品はリースが別ルートで手に入れてるからかなり料理のレパートリーは増えているそうだ。
特にそれらが一度に食べられるシチューが各種バフが付いて良いらしい。
「リースさんのシチューは現在市場で一番人気の料理ですよ」
「そうそう。ほとんどの人が自分たちのクランにしか提供してないですし、お店開いてる人も持ち帰りに対応してるところは少ないんです。
だからマーケットに出そうものならかなり高額にしてても一瞬で無くなりますからね」
「あははっ。評価されるのは嬉しいんだけど、あんまり高いのはちょっとね。
材料費はほとんど掛かって無いし」
リースは嬉しいような困ったような感じだ。
評価され過ぎるっていうのも大変だな。
「……他人事みたいに見てますけど、カイリさんは指名手配されてますからね?」
「は?俺?」
「そうです。現在市場に農作物を提供している数少ないプレイヤーの中で、最も高レア高品質であり、更に農作物のみならず魚介類や調味料まで出してるじゃないですか。
それでいてどこに農場があるのか全くの謎。
情報提供者には最大100万Gが支払われるそうですよ」
「素材名から海岸沿いじゃないかと言われてますけど、まさか海中とは誰も思わないでしょうからね」
「まぁそんなところに畑を作る酔狂な奴は俺くらいだろうな」
「自分で言いますか」
サクラさんが呆れたため息を吐いてる。
俺としては別に秘密にしたい訳でもないんだけどな。
「折角こうして集まったことだし、俺の農場に招待しようと思ってるんだけどみんな大丈夫か?」
「ええ、覚悟は決めてきたわ」
「海底の農場ってどんなところでしょう?」
「期待と不安が鬩ぎ合ってます」
いや、そんな魔境じゃないんだけど。
まぁ行けば分かるか。
「じゃあみんな、パーティー組みつつ俺に掴まってくれ」
「「はい」」
差し出した右手にみんなが手を重ねたのを見て、左手で転送門の宝石……転送石に触れた。
次の瞬間、無事にみんなと一緒に元の島へと戻って来れた。
みんなは急に変わった景色に周りをきょろきょろしている。
「カイリ君。ここは?」
「俺の農場がある場所の島。確か4月のイベントでボスが真っ二つに引き裂いた場所だっけ」
「へぇ。まさかそんなところに来れるなんてね。
それで農場はどこ?」
「そっちの崖の下ですけど、入口はこっちです」
そうして洞窟を通って海面までやってきた。
さて問題はここからだな。
皆にはちょっと待ってもらって俺だけ1度戻る。
そして転送門で農場まで飛んでから改めてみんなの元へ戻った。
「お待たせ」
「カイリ君って本当に海中をすいすい泳げるのね」
「羨ましいです」
「これからみんなにも似たような体験をしてもらう予定だぞ」
アイテムボックスからつる植物で作ったロープを取り出してっと。
「皆これから海に入るけど、流されないようにこのロープに掴まってくれ」
「えっと、カイリ君?私たち泳げないわよ?
あ、いや。リアルなら泳げるのよ?でもゲーム内、それも潜水となるとちょっとね」
「大丈夫大丈夫。ちゃんと考えてるから。
みんなロープは持った?流石にこれを離されると安全の保障が出来なくなるからな」
「「……(こくこく)」」
みんな若干緊張気味だな。
まぁ仕方ないんだろうけど。
「じゃあ行くよ」
そう言って勢いよく海へと身を躍らせる。
当然皆もロープに引っ張られて海中へと飛び込んでいく。
「きゃー溺れ……あら?」
「なんで?息、出来てますね」
「むしろ水の中にあるのは下半身だけのような」
「ほんと。私たち海の中にいるはずなのに」
よしよし、みんな驚いてくれてるな。
これが大気魔法の成果だ。
海に入る際に出来る限り大量に空気を一緒に持ってきて皆を包んだ。
これなら呼吸も出来るだろう。
「いやぁーごめんなさい。私泳げないんですーー!!がぼがぼがぼっ」
そんな中、ツバキさんがロープから手を放してしまった。
すると当然、海中に完全に投げ出されてしまう訳で。
「ぴっ♪」
レスキュー隊(コウくん)に救助されてロープのところまで戻ってきた。
「大丈夫?ごめんね。びっくりさせようと思って説明せずに飛び込んじゃったから」
「ごほっ。いえ、わたしこそすみません。ちょっと動転してしまって」
そういえば前にボートから落ちた時も暴れてたのはツバキさんだったか。
泳げないのによくボート遊びとか出来たな。
むしろゲームだから大丈夫だったのか。
「じゃあ気を取り直して海底まで行くけど大丈夫?」
「は、はい」
そうしてゆっくりと沈んでいくと程なくして皆の緊張もほぐれてきたみたいだ。
もう周囲の景色を眺める余裕が出来てきている。
「わたしダイビングってしたことないんだけどこんな感じかな?」
「いえ、これはダイビング以上ですね。ゴーグルも何もなしで居る訳ですから」
「ん~海底で飲むお酒も美味しそうね」
「ツバキちゃん、ツバキちゃん。お魚がいっぱい泳いでるよ」
「ほ、ほんとだ。こんなに沢山の魚見たの去年の水族館以来かな。手が届きそう」
そうして無事に海底まで辿り着いた。
「「……」」
みんなその光景に口を開けて驚いてる。
そりゃまぁ、海底に畑があるんだからな。
視線を上げれば魚が泳いでるし。
幻想的というよりちょっと、いやかなり変な光景だろう。
「えーと、おほんっ。
みんな、俺のホーム『竜宮農場』へようこそ。
みんながここに来た最初のお客様だ。
今日はもう戻らないといけないけど、将来的にはみんなも気軽に来れるようにするから楽しみにしててくれ」
「……くぃ」
「きょっ♪」
「ぴぃ♪」
ちょっと格好つけて挨拶してみた。
一度言ってみたかったんだよ、このセリフ。
更にヤドリンは俺の隣に鎮座して控えめにお辞儀。
イカリヤとコウくんはみんなの周囲をクルクル泳いで歓迎してくれている。
さて、そろそろ酸素濃度的に厳しそうだからここまでだな。
「よし、じゃあ今日はそろそろ戻るよ」
「はぁ」
そうして俺は用意しておいた転送石に触れてみんなと一緒に地上に戻った。
「ほへっ!?」
うーん、やっぱり突然海中から地上に戻ると驚くよな。
まるで夢から醒めたようなみんなの反応が面白い。
落ち着いたところで改めて話をすることにしよう。
元々の今日集まった目的は別だしな。
「さてと。結局クランってどうするんでしたっけ。
確か拠点が必要とか聞きましたけど」
「え、ええ。そうね。
ただ……そうねぇ。拠点って言っても建物は必要ないのよ。
必要なのは区切られた占有地って事になってるわ」
「区切られた占有地?」
「そう、『ここからここまでが私たちの拠点』って宣言出来ればいいの。
だから宿の1室でも良いし、酷く言えば町の外に杭を打ってロープで囲むだけでも良かったりするの。
逆に世界を統一出来ればこの世界全体が自分の拠点だっていう事も可能かもしれないわ。
もちろん反対する人が居たら無理だし、お互いの領有権を巡って争いも起こるけどね」
世界統一王か。狙う人とか居るのか?
もちろん俺は興味ないけど。
あれ、でもそうすると……
「気付いた?今ならこの島全体を私たちの拠点に出来るのよ」
「あ、やっぱり」
「その場合、元々ここの所有者はカイリくんだし、クランリーダーもカイリくんで決定よね」
「げっ」
にやっと笑うウィッカさん。
いたずらが成功したっていうその顔は、さっき驚かされた仕返しかな。
「えっと、みんな。ウィッカさんの意見に反対する人とかは?」
「私は良いと思うわよ? 元々私たちはカイリ君を中心に集まったようなものだし」
「そうですね。カイリさんなら無理な命令とかしないと思いますし安心です」
「島一つ占有って、多分まだどのクランもやってないですよね」
「えっ。じゃあ私たちが暫定トップクラン!?凄いですね!!」
誰も反対しないみたいだ。
仕方ないか。俺としてもデメリットがある訳じゃないしな。
「じゃあ、みんな。改めてこれからもよろしくな」
「「はい!!」」
そうして今日から俺達のクランは活動を開始したのだった。
後書き日記
21xx年5月21日
昨日は色々ありました。
カイリ君を含めてみんなで集まった後、カイリ君のホームに招待されました。
まさか突然海に飛び込まされるとは思いませんでしたけど、事前に色々準備はしてくれていたみたいです。
それにしても普通、海底に行けるようになったからってそこに畑は作らないですよね。
そういう突拍子もないところは凄いと思います。
地上に戻った後は改めてクラン結成の話をしました。
こちらの根回しはばっちりです。
ウィッカさんの見事な話術でカイリ君がリーダーになりました。
その時の彼の顔はちょっと面白かったです。
それにしても、島一つを丸ごと拠点にしてしまった私たち。
幸い島には危険な魔物は居ないそうですし、場所だけは十分にあります。
つまり全て私たちの思った通りにこの島を改造できるって事ですね。
あれ、こういうのをなんて言うんでしたっけ?
箱庭?ワイクラ?……とにかくそんな感じです。
1から全部作るのは大変そうですけど、その方が愛着は持てますよね。
気が付けばみんな役割が分かれてますし、私は料理番ですね。
決してお母さん役ではありませんので間違えないように。
何はともあれ、これからやりたいこともやるべき事も沢山あります。
大変そうですけど楽しみで仕方ありません。