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竜宮農場へようこそ!!  作者: たてみん


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海底の花畑

補足:「情けは人の為ならず」=「情けは他人の為にはならないから、しない方が良い」は誤用です。

そこは海中にある台風の目なのか、さっきまでの海流が嘘のように穏やかな場所だった。

差し込む太陽の光がキラキラと煌めき、海底には色とりどりの花が咲き乱れている。


「きれいだね」

「ぴぃ!」


ふらっと踏み入れようとした俺を慌ててコウくんが引き留めた。

その姿は巨大な海獣に見つかりそうになった時より必死だ。


「一体何が……」

ゴォォーーー


俺達の前を「お先に!」っていう感じで10メートル級のクジラが進んでいく。

そして。


「ボォォォーーー」


悲痛な叫び声をあげながら水中に固定されてしまった。

よく見ればさっきのキラキラがクジラに絡みついている。


「あれは、糸?いや、触手か!」


あんな巨大なクジラが抵抗の一つもできなかった所を見ると、強力な神経毒を持った触手なんだと思う。

コウくんに止められてなかったら俺もああなってたんだな。

そしてクジラは俺達が見ている前で穴が開いた浮き輪のように萎んだ後、光になって消えてしまった。

光は海底の花へと吸い込まれていく。

つまりあの綺麗な花が触手の正体ってことなんだろう。


「それでコウくん。あの触手を糸代わりにして網を作れば良いんじゃないかってことかな」

「ぴぃ~」


そうらしい。

本来近づくことも容易ではないけど俺なら何とかなるんじゃないかというコウくんの期待と信頼が凄い。

さて、やっぱり仲間の信頼には応えたいところだけど、近づけないんじゃなぁ。


「ん?」


突然、目の前の花畑がざわつきだした。

まるで今度はあの花が悲鳴を上げているように見えるんだけど。

引き続き隠れて見ていると、悲鳴の原因がやってきた。

海底をのそのそと動く生き物。

魚介類でも甲殻類でもないそれは、魔物で言えばスライムが近いのか?

ただし可愛くない方の見た目が不定形魔法生物のスライムだ。

リアルで言えばナメクジかウミウシ?じゃあウミウシモドキとしておこう。

そのウミウシモドキが花畑に近づくと一斉に花の触手が襲い掛かって行ったけど、まるで何事もなかったように動き続けている。

そしてそのまま花畑に突入。

それが通った後にはむき出しの地面が残るのみ。

どうやら、この花達の天敵のようだ。


さて、どうしたものか。

自然の摂理で言うと、このウミウシモドキが花を食べる事によって、花の異常繁殖を抑えている側面もあるんだと思う。

だから「きれいな花が可哀そう」なんて理由でウミウシモドキを排除するのは間違いだろうな。

でも今は俺もこの花に用があるんだ。

このまま食べられてしまっては困る。


「俺の攻撃が効けば良いんだけど」


幸いウミウシモドキは防御力とかは皆無な見た目だ。

有効打さえあれば勝てる可能性は高い。

俺は『はじまりの銛』をアイテムボックスから取り出した。

更にイベント報酬のスキル強化書を使用。

強化内容は、『開墾』スキルの攻撃スキル化だ。

通常は数十分間のバフスキルだった所を1回の使用に収束させることで攻撃力をアップさせた。

クールタイムは3秒なので使い勝手は悪くない。

ちなみに元の『開墾』が使えなくなる訳ではないのが有難い。

そうだな。区別する為に『開墾撃』とでも名付けようか。


「よし、食らえ『開墾撃』!!」

ビシュッ!ざくっ!!


俺は隠れていた岩場から飛び出して銛を投げた。

銛は先日のイカリヤの様に高速で水中を飛び、見事ウミウシモドキの頭付近に刺さった。

そして刺さると同時に頭を『開墾』されて土に還るウミウシモドキ。

流石に後ろ半分では生きていけないみたいだな。


「ふぅ。見た目通り防御力無い奴で良かった」

「ぴっ!ぴっ!」

「ん?おわっ」


ウミウシモドキを倒して気を抜いたのがマズかった。

コウくんの警告も虚しく、触手が俺の腕に巻き付き、あっという間に花畑の中へと引きずり込まれてしまった。

慌てて飛び込んで来ようとするコウくんを慌てて引き留める。

いくらコウくんでも、この触手に捕まったら無事では済まないだろうからな。


こうなったらもうどうにもならないだろう。観念して目を瞑って介錯されるのを待つか。

まったく、情けは人の為にはならない、なんて言葉もあるけど、助けたつもりが逆に食われるっていうのも自然の摂理かね。

おれもさっきのクジラみたいに吸われるんだろうか。

せめて痛くないといいなぁ。


「………………あれ?」


おかしいな。いくら待っても死ぬ気配がない。

そう言えば触手に捕まれたのに麻痺とかの状態異常にもなってなかったな。

恐る恐る目を開けてみると、花畑の中に居るのは変わらないけど、目の前に俺の投げた銛が置いてあった。

触手は今も俺の周りをキラキラと漂ってるけど俺を襲う気はなさそうだ。


「えっと、食べないでくれるんだな」

キラキラッ


おっと、そうだ。

こんな時の為に『感応魔法』を取得したんだっけ。


『ありがとう』

『助かりました~』

『救世主降臨』

『『キャーキャーキャーキャー』』

「おわっと」


お礼の大合唱に慌てて感応魔法を止める。

どうやら花1つ1つに意思があるみたいだ。

なら目の前の幾つかだけに感応魔法を使うようにしてみた。


『あいつ私達の天敵』

『倒してくれてありがとう』

『これからも守ってくれる?』

『共生関係♪』

「うーん、俺も帰る場所があるからずっとここに居る訳にはいかないんだ」


俺がそう伝えると触手のキラキラがシュンとなってしまった。


『残念』

『でも無理強いはダメ』

『うん、ダメね』


参ったな。感応魔法を取得したのは失敗だったかも。

こんな意思の疎通が出来てしまったら何とかしてやりたいと思ってしまう。


「天敵はさっきのウミウシモドキだけなのか?」

『そうね』

『他にはいないよ。えっへん』

「あいつが苦手なものとかが分かれば対処も出来そうなんだけどな」

『うーん』

『うーん』

『うーん……あっ』

「なにかあった?」

『あいつ落とし穴が苦手かも』

「落とし穴?」

『そう。前に穴に落ちた後全然登って来れなくてそのまま死んでた』

「なるほど。それなら何とかなるかもしれないな」


つまり堀を作ってしまえば良いんだ。

そうと分かれば、早速鍬を取り出して花畑の外側をぐるっと囲むように幅40センチ、深さ80センチほどの溝を掘っていく。

ただこれだけだと海流に乗って飛び越えてくる可能性もありそうだから内側に竹竿を刺して簡単な柵も作る。

あんまり大きいと他の魚に体当たりされて壊されそうだから高さは50センチほどに調整してっと。


「よし、これでどうだ」


完成までに丸1日かかったけど我ながらいい出来だ。

これなら簡単には壊れたりしないだろう。

花達の反応も上々だ。


『すごーい』

『お城みたい』

『あっ、あいつがまた来たわ』


声の方を向けば、さっきとは若干色合いの違うウミウシモドキがのそのそとこっちへ近づいてくるところだった。

そいつは溝のところまで来ると、一瞬体を伸ばしたかに見えたけど、足を踏み外すように溝の中に落ちていった。

慎重に溝の中を覗いてみれば、ウミウシモドキは溝に沿って動くばかりで登ってくる気配はない。

どうやら本当に登るのが苦手みたいだな。


「これで溝が埋まるまでは安心だな」

『……』

『……』

『……』


ん?また感謝の大合唱が聞こえてくるかと思ったら静かだ。

どうしたんだろう。


『……神だわ』

「は?」


何か変な言葉が聞こえた気がする。

そしてどことなく拝まれてる雰囲気。

だんだんおかしな事になってきた気がするし、そろそろお暇した方が良さそうだな。


「よし、じゃあ俺はそろそろ帰るな」

『お待ちください!』


そそくさと立ち去ろうとした俺の行く手を大量の触手が阻んだ。


「えっと、なにかな?」

『このまま帰す訳には参りません』

『そうです。何かお礼を!』

「いや別に……ってそうだ」


そう言えば元々はうちの守りを強化するために来たんだ。

この触手が網になるかなって思ってたけど、いっそのことこの子達の花畑がうちにもあれば良いんじゃないか。


「いくつかうちの農場に移住してもらう事は出来るかな?

もしくは種か苗か株分けとか、出来るだろうか」

『私たちの種が欲しいと』

『それならどうぞ持って行ってください』

『ぽっ』


……なんか、最後おかしくなかったか?

まぁいいや。

予想以上に色々あったけど、目標は無事に達成だな。


「お待たせ、コウくん。帰ろうか」

「ぴっ♪」

『おたっしゃで~』

『またいらしてくださいね~』


そうして俺達は花達に見送られて農場へと帰るのだった。



後書き日記


21xx年5月11日


アップデートから3日が過ぎましたが、まだまだ皆さん浮足立ってますね。

私としては料理をする為に調理場を確保することと食材を安定供給することが急務です。

ウィッカさんに連絡を取った所、向こうでもアップデートの影響でクラン設立には拠点が必要になってしまい先に進めてないそうです。

なので一度集まって相談がしたいそうです。

まぁ確かに拠点を作るとなると、お金も然ることながら場所も問題になってきます。

皆さん種族もバラバラなので今いる場所もバラバラですからね。

やはりホームが自分の国にある方が何かと便利なので、出来れば偏りの無い方が良いのですが。


それともう一つ問題なのがカイリ君です。

どこの国にも属していないカイリ君は、現在拠点が海の中。

もちろんそんなところに街があるはずもなく、転移門もありません。

なので集まろうにも集まれないんです。

イベント中であれば転移門が無くても非戦闘状態であれば転移出来ましたが、次のイベントまで待つと多分1か月後です。

もしどこかの国が近いなら頑張って移動してもらう手もありましたが、どうやらどの国もかなり遠いようです。

かと言ってカイリ君抜きで話を進めるというのも気が進みません。

カイリ君自身は「別に気にしなくていいよ」と言ってましたけど。


そんな訳で今はどうすれば全員が合流出来るかを検討中です。

一番はカイリ君の所に転移門があることなのですが、ああいうのって簡単には作れないですよね?

作れるとしたら空間魔法士? もしくは神官とかでしょうか。

どちらもプレイヤーでなった人は居ませんが。


後は強行軍でカイリ君の居る場所まで舟を漕ぐ?

うーん、無理ですね。

絶対に途中で魔物に襲われて死に戻ります。

多分1期組の戦闘職が数人居ても無理でしょう。


逆にカイリ君にこっちまで泳いで来てもらうって無理無理。

彼、戦闘は苦手そうでしたし、拠点の外は凶悪な魔物が大量に居るはずです。

拠点が安全地帯だって事が奇跡みたいなものなんですから。


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― 新着の感想 ―
[一言] 花……ウミユリ(動物です)等やイソギンチャクや珊瑚の仲間なんでしょうね
[良い点] クジラを手懐けて移動手段にしましょう
[良い点] 更新乙い [一言] 花達(暗喩)にお礼(意味深)してもらう主人公 うーん、このwwww
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