ようやく領有権の主張
今日は5月8日。
陽介情報では『アルフロ』のアップデートは予定より遅れたものの14時には無事に終わったらしい。
授業中に小さくガッツポーズをしてるのが横目に見えた。
声を上げて立ち上がらなかった事を誉めてあげよう。
かくいう俺も楽しみにしてたからな。
家に帰って早速ログインだ。
「みんなおはよう。元気にしてたか?」
「くぃ♪」
「きょ♪」
「ぴっ♪」
出迎えてくれたみんなに挨拶しつつ、まずは畑の様子をチェック。
すると全ての畑が収穫済みの状態になっていた。
これはアップデートがあったせいなのかそれとも……あっ。
【竜裂海海底の畑:レア度3、品質3(-2)(12/100)、健康度0。所有者:カイリ】
やっぱり。
健康度が0になってる。
この状態でも野菜を育てることは出来るだろうけど品質に影響が出るだろう。
では早速今回のイベントで手に入れたミズモのフンの出番だ。
畑を耕しつつ、フンを混ぜ込んでいく。
更に先日作った『海の藻くず』も一緒に撒いておこう。きっと遅効性の肥料になってくれるはずだ。
そうして一通り耕した畑を改めて確認すると。
【竜裂海海底の畑:レア度3、品質3(24/100)、健康度90。所有者:カイリ】
よしよし。無事に健康な畑に戻ったな。
では改めて種を植えていこう。
現在の畑は7面分ある。そのうち4面は今まで通りみんなの好物を植えていく。
残った3面のうち、1つは小麦の種で、1つは胡椒の種。もう1つは謎の種だ。どうやら花の種同様、出来てからのお楽しみらしい。
蒔くときには品種改良を使う事も忘れない。
芋は成功率50%程度だったけど、今度はどうなるか収穫までのお楽しみだな。
畑仕事がひと段落した後は、プライベート設定の見直しだ。
先日のヤンキーみたいなのが今後こっちに来ないとも限らないしな。
忘れないうちに設定をしておかないと。
<エリアの名称を設定してください(デフォルト:カイリの畑)>
設定画面を開いたらシステム通知が出てきた。
名称か。
元々の【竜裂海海底の畑】っていうのはあくまで【竜裂海】って地名で呼ばれてただけだからな。
自分で名付けることで改めて所有権を主張する感じだろうか。
うーん。デフォルトのままでも良いけど。
いや、それするとミズモの居る畑は【カイリの畑 その2】とかになるのか?
それはちょっといただけないな。
なので一目で海底の畑だって分かるものにしよう。
一度ログアウトしてネットでククッてみたところ、意外と海底に沈んだ都市や伝説って多いな。
「アトランティス」なんかは結構有名だろう。
他に海神と言えばポセイドンだけど、調べたらポセイドンの神殿は地上にあるらしい。
あとは「トリトン」とか……は手塚先生に怒られそうだから止めておこう。
人魚姫伝説とかも参考にしても良いけど人魚は別の所に居そうだしな。
ここはやっぱり日本らしく竜宮城で行くか。これもどこかにありそうだけど。
ただまぁ俺のところは城じゃなくて農場だからな。
【竜宮農場】
これで良いだろう。
よし、無事に登録完了っと。
後でミズモが居る畑も名前を付けておこう。
あっちは【ミズモ農園】で良いかな。
今後新たに増えた時もきっと誰か管理人を置くことになるから、その人の名前を付けて行けば今後悩む必要が無くて良いだろう。
さて、無事に名付けが終わったので無断で侵入不可などの設定を……ダメ?
ここはあくまでもフリーエリア扱いらしい。
そこに俺が勝手に農地を切り拓いただけなのだ。
名前を付けて領有権を主張することは可能だけど、魔物や動物は自由に出入りできるし、他のプレイヤーが通ることも可能だそうだ。
今出来るのは領地の占有のみ。
他人が無断で建物を建てたり畑を使ったりすることは禁止出来た。
しかし他のプレイヤーや魔物からの「侵略」は防げないようだ。
防ぐためには防壁などを作り、主要施設を建て、村落としての形態をとることで自衛する必要があると。
ミズモ農園は村の一部だったから良かったって事だろう。
それでも芋畑にミズモが荒らしに来た事を考えれば、侵入者を撃退する方法は用意する必要があるな。
そう言えば課金アイテムに侵入防止結界とかもあったか。
あれはこのためのアイテムか。もしどうしても困った時のために頭の片隅に残しておこう。
「しっかし、それなら今までよく無事だったな。魔物とか来なかったのか?」
「きょきょ♪」
「あ、そっか。危険なのはイカリヤ達が撃退してくれてたのか。ありがとな」
よく見ればだいぶ増えてきた小魚を狙って肉食の魚や魔物も増えている。
その中で畑を荒らす奴やイカリヤ達を狙う奴は俺が指示とか出さなくても倒してくれてたのか。
本当なら俺がもっとしっかりしてないといけなかったんだろうけど、イベントでずっと留守にしてたからな。
「よし、次のイベントまで当分時間があるはずだし、その間に防衛体制の見直しも含めて、ここの拡充をしていこうか。
皆も引き続き頼むな!」
「きょ♪」
「くぃ♪」
「ぴっ♪」
畑の拡張もしたいし、そうすると管理の人手ももっと必要にになる。
イカリヤ達にとって天敵の魔物だってきっと居るはずだから、そういう奴に対抗できる手段も模索しないと。
やることがいっぱいだな。
後書き日記
21xx年5月8日
4時間遅れで大型アップデートが終了して、それから2時間が経過した今。
情報共有サイトや掲示板サイトは軒並み炎上中です。
私は少し不安を覚えつつ、思い切ってログインしました。
ん~街中はそれほど混乱は無さそうですね。
ただ、プレイヤー人口がいつもより少ないように思えるのは気のせいではないでしょう。
これはログインしている人が少ないのではなく、街の外に出ていった人が多いという事です。
あと、前まで閑散としていた街の共用生産施設が大繁盛しています。
前々から発表されていた空腹度の影響で商機を見出そうとしている商人プレイヤーが多いみたいですね。
生粋の職業:料理人の人はどれくらいいるんでしょう?
って、え?
冒険者ギルド主催で料理講習会が開かれているそうです。
そのハーブ塩を扱えるようになるまでにした私の苦労はいったい……。
あ、でもハーブ塩の作り方までは教えてくれないんですね。
ギルドで販売してます、と。うーん、ギルドも商魂逞しいですね。
でも私としては料理人人口が増えるのは大歓迎です。
これで私の見つけていない食材や調理法が出てきてくれれば私にもメリットはありますから。
ただこれじゃあ生産施設を使うのが順番待ちになってしまいますね。
自前で用意するのはお金の問題もですし、どこに?っていう問題も出てきます。
将来的にはウィッカさんが話してたクランで、拠点を作れば何とかなりそうですが、まだまだ先ですね。




