目的はひとそれぞれ
船着き場に戻ると警備員さんが出迎えてくれた。
やっぱりボートを1つ破壊したから怒られるのかな。
皆がボートから降りた後、俺も岸に上がって真っ先に頭を下げた。
「レンタルボートを1艘、破壊してしまいました。申し訳ございません」
それを見て助けた女の子2人が慌てて弁解に入ってきた。
「違うんです。彼は私たちを助けてくれたんです」
「そうです。暴走してたボートがこれ以上被害を出す前に止めてくれただけなんです」
警備員さんはにこっと笑って大丈夫だと手を振った。
「こちらにも連絡は届いていますし、ここからでも見えていたので、大体の事は分かっていますから安心してください」
その言葉を聞いてほっと一息つく一同。
「でも」と話が続いてビクッとしたのがちょっと面白かった。
「ボートを故意に破壊したのは事実ですからね。
その分のお咎めが一切なしという訳にはいきません」
「そんな!?」
「なので君には今日一日、湖の周りのゴミ拾いを行ってもらいましょう。
湖の周りを一周するか日が暮れたら終わりという事で。
あと、君一人でも良いし、パーティーを組んでいる他の3人も一緒でも良いよ」
終始にこやかな警備員のお兄さん。
その姿は決して悪いことをした相手に罰を与えているようには見えない。
なので俺はあっさりと頷くことにした。
「なるほど。分かりました。
悪いけどみんなも付き合ってもらっていい?」
「それはもちろん良いけど」
「カイリさんが罰を受けるのはちょっと納得できません」
「まぁまぁ。お散歩がてら行きましょう」
ウィッカさんもこの罰がなにか分かったようでのんびりとしてる。
でもやっぱり精神的に余裕がないからだろう。
助けた2人はまだまだ心配そうな顔で俺達を見た。
「あの、それなら私たちも一緒に行きます」
「そうね。助けてもらったのに、そのせいで罰を受けるなんてあんまりだよね」
こちらも反対する理由は特にないので2人をパーティーに招待することになった。
サクラさんとツバキさん。
改めてよろしく、と握手を交わしてから出発する俺達。
2人は気合十分に塵一つ逃がさないくらいに周囲を警戒してくれてる。
どうやらかなり真面目な性格なようだ。
これは早めにネタ晴らしした方が良いな。
「なぁ、2人ともそんなに気合入れなくて大丈夫だぞ」
「そうはいきません」
「そうそう。こういうのは中途半端はだめだよね」
「いや、そうじゃなくて。どうせゴミなんて落ちてないからさ」
「へ、どういうこと?」
「普通お祭りっていったら結構ゴミが捨てられてて問題になってますよね?」
普通はまぁそうなんだけどな。
よくニュースで『祭の後の惨状』ってやってるし。
ただここは普通のお祭り会場じゃないんだよな。
「このゲームって地面に放棄したアイテムってどうなるんだっけ?」
「それはもちろん一定時間で消えま……あ」
「そうか。残らないんだ。
え、じゃあ。私たち落ちてもいないゴミを探し回らないといけないの?」
「いやいや。
あのお兄さんは『ゆっくり会場を周っておいで』って言ってくれてたんだよ。
体裁だけ罰ってことにしてな。だから監視も報告も無いし、ダッシュで走って1周するだけでも良いはずだよ」
「なるほど、そういうことでしたか」
「それなら最初からそう言ってくれれば良かったのにね」
そこからはようやく2人ものんびりした雰囲気になり、雑談しながら散歩することになった。
今はリース達女性陣で女子会みたいになって、俺は後ろから付いていく形だ。
「じゃあ、2人はリアルでも仲良しなんだ」
「はい。小学校からの付き合いです」
「クラスは一緒になったり別になったりだけどね」
「いいな~。私は身近でこれやってるのって従兄しかいないのよね」
「その従兄さんはどうしてるんですか?」
「どこかの攻略クランを率いてるって言ってたわね」
「へぇ、凄いですね」
「2人は戦闘職よね?それなら今度紹介してあげようか?」
リースがそう問うと、2人は顔を見合わせてひとつ横に振った。
「気持ちは嬉しいんですけど、私たちそこまでガチで戦いたい訳じゃないんです」
「そうそう。どっちかというとエンジョイ勢?
綺麗な景色を見に行きたいの。秘境とか。
でもその為には道中の魔物をどうにかしないといけないと思ったから戦闘職にしたんだ」
「なるほどねぇ」
楽しみ方は人それぞれだからな。
俺達だって人の事言えないし。
他人がやらないことをしてみたいって言って海底で農家をしている俺。
美味しいものが食べたい&作れるようになりたいから料理人のリース。
めいっぱいオシャレがしたいレイナさん。
浴びる程、好きにお酒が飲みたいウィッカさん。
改めて考えるとみんなバラバラだな。
バラバラだからこそ、お互いに手を貸しあえてるって説もあるし。
それは生産職だからとかそんなことは決してない。
「ならさ。その行った先で珍しいものが見つかったら教えてくれ。
俺達も綺麗な場所が見つかったら行き方とか連絡するから」
「良いですねそれ」
「ぜひお願いね」
「じゃあ、お近づきの印に前に撮った俺のホームの写真だ」
そう言って最近撮り直した写真を見せると、全員が息をのんだ。
サクラさんとツバキさんは目をキラキラさせている。
「青の世界……」
「光の差し込み具合とか素敵ですね」
「ダイビングの映像とかってこんな感じですよね~」
「こっちにいるアンコウ可愛いわ」
みんながうっとりしている中、ウィッカさんだけは冷静に突っ込みを入れてくれた。
「……待ってみんな。これどう見ても水中よねぇ。
ねえ、カイリ君。これどうやって撮ったの?」
「もちろん水中に潜ってですよ。
俺、称号のお陰で水中でも普通に活動できるんですよ。
まぁその称号取る為に20回くらい溺れましたけどね」
そう言うと呆れた眼差しが返ってきた。
まぁその気持ちは分からなくはないけど。
後書き日記(続き)
ひと悶着ありましたが、無事に船着き場に戻ってきた私たち。
人助けをしてきたはずなのに待っていたのは罰を告げる警備員さん。
レイナさんから怒りの波動が伝わってきましたが、気持ちは私も同じです。
でも当のカイリさんが怒っていないので私たちが勝手に怒る訳にもいきません。
というか、カイリさんって怒ることあるんでしょうか。
結局、助けた2人と一緒に会場を周る私たち。
カイリさんがネタ晴らししてくれなかったら私も血眼になってゴミを探していましたね。
その後は楽しく女子トーク。
学校とは違って、年齢も住んでいるところも少しずつ違うので話が弾みます。
ただふと後ろを見るとカイリ君だけ少し離れているのが気になります。
まぁ、とは言っても女子5人の中に1人だけ男の子じゃなかなか入りづらいのでしょうね。
今回一番の功労者なのに。
私にもっとコミュ力があればまた違ったのかもしれません。
これは今後の課題ですね。