神社へお参り
鳥のさえずりを聞きながら中央の神社に向かう為の橋の前で一人佇む。
程なくして、道の向こうからこちらへ駆け寄ってくる人影が1つ。
「カイリくーん。ごめん、待った?」
「いや、俺も今来た所だ」
「そっか、よかったぁ」
俺のところに来たリースが肩で息をしつつ、ほっとした表情を浮かべる。
「……」
「……」
「ぷっ」
「あはははっ」
お互いに見つめ合ったところで笑いが抑えられなかった。
それを見て、物陰に隠れていたレイナさんとウィッカさんもこっちへやってきた。
レイナさんは楽しそうに、ウィッカさんはちょっとあきれ顔だ。
「これで満足だったのかしら?」
「すみません。こういうの1度やってみたかったもので」
「今時携帯で連絡取り合うから、相手を待たせることなんてほとんど無いよな」
「ですね。待ち合わせに遅れる時とかもメール1本送って喫茶店で待っててもらえば済みますからね」
「はぁ。これが若さって奴かしらね~」
「いやいや、ウィッカさんも十分若いですから」
ちなみにこれをやろうってなったのは昨日の夜。
ログアウト前にリースから届いたメールで行う事が決まった。
ただ、実際にやってみるとちょっと恥ずかしいというか……。
「なんか周りの視線集めまくってるな!!」
「そ、そうね」
「ひとまず移動しましょうか」
各方面からの視線(8割は俺に向けての男性からの殺意)を避けるように俺達は湖に架かった橋を渡って中央の神社へと向かった。
そして神社で俺達を待っていたのは3つの鳥居。
それぞれに説明書きが付いていた。
『困難を乗り越え、力の先にある報酬を望む者は右へ』
『友人との絆を深めたい者は左へ』
『お参りに来られた方は真っすぐ』
だそうだ。
これ恐らくは今回のイベント用に左右の鳥居を追加したんじゃないだろうか。
戦闘職や高難易度に挑みたい人は右に行けって事だろう。
事実、今も一目で戦闘職だって分かる格好の人達がパーティーを組んで鳥居を抜けていった。
俺達、生産職としては右は無しだな。
「えっと、ひとまずお参りする?」
「そうね」
「はい」
「いいわよ~」
という訳で俺達は揃って中央の鳥居へ。
それと折角だからきちんと参拝の作法を守ってみよう。
鳥居をくぐる前に1礼。
心の中では元気に「おじゃましま~す」と言ってるけど、表面上は厳かに。
続いて道の端の方を歩きながら手水舎へ行き、手と口をすすぐ。
そしていよいよ本殿へ。
「賽銭箱は……無いな。代わりに物を置けるような台がある。
って事はお賽銭の代わりに物納でいいよってことなんだろうな」
「神様も人間のお金をもらっても使い道ないだろうしね」
「問題は何を納めるか、ですが」
「レア度や品質が高い物の方が良い事がある、かもしれないわね」
ふむ。
となると俺のアイテムボックスの中ではこれが一番だな。
俺は海草団子3つを3角に並べてその上にキノコつみれを乗せたものを置いてみた。
するとキラキラと光に変わって消えていった。
「……どう?」
「うん、特に何もないな」
「まぁそういうものかもしれないですね。
じゃなかったら皆、見返りを求めて何でもかんでも貢ぎそうですし」
「そうね。今後何か良い事あったらラッキーくらいに考えておきましょう」
「はい」
続いてリースは自作のパンを置いた。
どうやら酵母の作成に成功していたみたいだ。
「まだリアルで食べれるものに比べたら全然なんだけどね」
そう言ってたけど品質は4まで上がっているそうだ。
次はレイナさん。置いたのは手に乗るサイズのぬいぐるみだ。
「布の切れ端を集めて作ったんで所々色合いが違ったりするんですけど、それがこの子の個性にもなってるんです。
こういうのを納める人って居ないと思うので珍しいかと思いまして」
ここで祀られている神様がどういう方かは知らないけど、鬼子母神みたいに子連れの神様や神様そのものがまだ幼いって可能性もあるから、きっと喜んでくれるだろう。
これでオッサンだったらちょっとシュールだけど。まぁ怒られることは無いだろう。
「最後は私ね。うーん、本当なら日本酒があったら良かったんだけど、お米がまだ見つかってないからこれで我慢してね~」
言いながらウィッカさんが置いたのは焼酎のボトル。
なんか今までの中で一番キラキラ具合が激しかったから神様もお酒が大好きなのかも。
さて、後はどうするか。
おみくじとか絵馬は無いし、ひとまずこれでここでやる事は終わりかな?
「じゃあ戻ろうか」
「待って。その前に、はいこれ」
そう言ってリースが何かを差し出してきた。
受け取るとそれは『麦の種子』だった。
「ありがとう。貰っていいのか?」
「もちろん。先日のツミレのお返しってのもあるし、それで美味しい小麦が手に入ったらいいな~っていう打算もちょっとあったり」
てへっ、と笑うリース。
まぁそういうことなら遠慮なく貰ってこう。
「あ、じゃあ私からはこれを。前にお願いされてたリボンです」
「おぉ、ありがとう。きっとみんな喜ぶよ」
色合いはシンプルながらもしっかり編み込まれたリボン。
帰ったらイカリヤ達に着けてみよう。
そう喜んでいたらウィッカさんがムッとしていた。
「どうしたんですか?」
「いえね。二人とも用意がいいなぁって思っただけよ。
なんか仲間外れにされた気分だから私も何かプレゼントを~って思ったんだけど」
「そんな無理しなくても良いですよ」
「そうはいかないわ。やっぱりお姉さんとしての矜持もあるしね~。
……そうだわ!こうしましょう」
リースとレイナさんをちらっと見た後、そう言ってにやっと笑うウィッカさん。
なにか嫌な予感がするんですけど……。
「カイリ君、ちょっと中腰になって目をつむって貰えるかしら」
「は、はぁ」
何だろう。まぁ危ないことはしないだろうし言う通りにしてみるか。
そうして目をつむりながら膝を曲げてみる。
さて、なにをするつもりなんだろう。
と思ってたら後頭部に手を置かれて、次の瞬間。
ふにっ
「わぶっ」
「ちょっ!?」
「~~!」
顔が柔らかいものに包まれた。
同時にちょっといい匂いがする。
ってこれ、どう考えてもウィッカさんのあれだよな。
そのまま3秒ほどして解放されたけど、やっぱり目の前にはウィッカさんのお胸があった。
横を見ればリースとレイナさんが顔を真っ赤にしてるし。
多分俺の顔も真っ赤だろうな。
「感想は?」
「の、ノーコメントで」
にやにやと笑うウィッカさんに何とかそれだけ返した。
くっ、これが大人の女性の力か。
後書き日記
21xx年5月3日
今日は10時に待ち合わせ。
折角なので以前ドラマでやってた待ち合わせをやってみました。
そのドラマでは数パターンあって、食パンを咥えて突撃しつつ肘撃ちを決める、なんてのもありましたが食パンが無いですし意味が分からないので却下しました。
そうして待ち合わせた後は神社へ。
神社なんて初詣と花火大会くらいしか行かないので、カイリ君の見よう見まねです。
というか、カイリ君はなんでこんなこと知ってるんでしょう?
え、わざわざ調べてきた?マメですね。
無事にお参りも済んだあとはプレゼント交換。
やっぱりカイリ君には金銀財宝よりも作物の種の方が喜んでくれるみたい。
そして私の後にレイナさんも以前頼まれていたリボンをプレゼント。
ただ、ウィッカさんのあれは反則だと思います。
でもカイリさんもしっかり顔を赤くしてるってことは、ちゃんとそういうのに興味はあるんですね。
良かった。
私たちに可愛いとか素のままで言うので、女性に興味がないのかとちょっと心配してたんですよね。
あ、もちろんBとかLを疑ってたわけじゃないですよ?




