陸上のリア友
本作はリアルパートもほんの少しだけ混ぜていく予定です。
いつか学園恋愛ものも描きたいなぁなんて考えているのでその練習も兼ねさせてください。
あと、海の深さが深すぎるとか浅すぎるとか、その辺りはバーチャルなので見逃してください。
多分光の屈折率とか水の透明度とかいろいろ違うんです。
翌日、俺は学校の自分の机に突っ伏していた。
そんな俺の頭をつんつん突いてくる輩がいる。
「おーい、生きてるか?」
「おお~。陽介か」
声を掛けてきたのは中学からの友達の酒井 陽介。
イケメンで陽キャラでスポーツ万能で頭も悪くないという、どこぞの主人公キャラだ。
『アルティメットサイバーフロンティア』を最初に俺に勧めてくれたのもこいつで、ちゃっかり1期組のトップ攻略メンバーらしい。
「なに、珍しく徹夜でもしたのか?」
「徹夜……に近いかな。
昨日とうとう『アルティメットサイバーフロンティア』が家に届いたんだよ」
「おお!!
ってことは『アルフロ』デビューしたのか。
それで、種族は何にしたんだ!?」
俺が『アルティメットサイバーフロンティア』、略してアルフロを始めたと聞いて喜色満面の陽介。
そういや2期の抽選に当たったって伝えてからずっと一緒に遊ぼうぜって誘ってくれてたもんな。
ちょっと悪いことしたかな。
「実はな『その他』っていうのが2期組から増えてて、それを選んだんだ」
「ぷっ、あはははっ」
あ、あれ?
がっかりするなら分かるけど、なんで笑うの?
「何がそんなに面白いんだ?」
「はははっ。いや、すまん。あまりにも予想通りでさ。
その『その他』って種族が増えたのはニュースになってたから知ってたよ。
それ知った瞬間『あぁ海里が好きそうだな』って思ったんだ。
そうか。やっぱ選んだかぁ。
ま、それでこそ海里だな!!」
笑いながらバシバシ俺の肩を叩くな。痛いだろ。
「で?種族は分かったけど、初期位置は?
ランダムって聞いてたけど、もしかして未開の山奥とかか?」
「ふっ。それが聞いて驚け。海だ」
「……は?」
ぷくくっ。
良いリアクションだ。
まぁそうだよな。
「運営に聞いたら元々地面があったそうなんだけどな。
地殻変動か何かで海になったらしい」
「あーあそこか」
「ん?何か知ってるのか?」
「ああ。前回のイベントで巨大ボスが出たって話はしたよな。
そのボスが大地をぶち割って行ったんだ。多分そこじゃないかな」
「おいおい。ア〇レちゃんじゃないんだから、そんな化け物と戦ってたら星が滅ぶだろ」
「その辺りは今後運営が考えてくれるって」
まぁそのボスにしたって星が無くなったら困るだろうから色々考えてはいるだろうけど。
でもそれでか。
ごく最近出来たからあんなに生き物が居なかったのか。
「でもそれだと即キャラ作り直しか?もしくは頑張って岸まで泳いだのか?」
「いや、どっちもしてない」
「ならどうしたんだ?あのゲーム、水中は普通に溺死するだろ?」
「そうだな。思いっきり体験してきたよ」
多分あの世界で誰よりもそれを俺が体感してるだろうな。
その甲斐はあったと言えるけど。
「実はな。色々あって水中で呼吸出来るようになったんだ」
「ほぉ。それはまた羨ましい話だな」
「ああ。それでな。折角水中に居られるようになったから今は海底を開墾してるところだ」
「開墾っておまえな。
そうか……結局ジョブは農家にしたのか」
「まぁな。いやぁこれがやってみると結構面白くてな。
ただ途中で、寝る場所が無いことに気付いて何とか壁に穴掘って寝れるようになった頃には夜が明けてた」
「そ、そうか。なかなかサバイバルだな」
陽介は驚いているような呆れているような顔をしている。
ま、確かにどんなリアクションすればいいか悩むわな。
「だからすまん。当分陽介と一緒に冒険することは出来なさそうだ」
俺がそう言うと、陽介は一瞬「は?」と首を傾げた後、にこっと笑った。
「そんなこと、気にすんなって。
ゲームは楽しくやるのが一番。
それに、近くに居ないからこそ、お互いに足りないものを補い合えたりもするしな。
なら学校から帰ったらまずID教えてくれよ。フレンド申請飛ばすからよ。
誘った手前、最初はある程度支援させてくれ」
「わかった。
俺のところにはまだ何もないけど、今後何か作物が出来たらお返しするからな」
「ああ、楽しみにしてる」
よし、これでゲーム内での目標も一つ増えた。
海底の畑で何が作れるかさっぱり分からないけど、何とか役立つものを作らないとな。
帰宅後、さっそく陽介にIDを送りつつゲームを起動した。
うーん、流石に突然水中で目が覚めると驚くな。
俺は岩壁に掘った穴から出ると周囲を確認した。
「相変わらず何も居ないな」
見渡す限りあるのは岩の大地と岩壁のみ。
昨日のうちに軽く散歩した結果、ここは幅500メートルほどの海溝になっていて、垂直に切り立った岩壁がどこまでも続いている。
水深は300メートルくらいだ。
水が澄んでいるお陰で陽の光も海底まで届いている。
ピピッ!
ん?あぁメールが届いたらしい。
開いてみたらダンデ=陽介からだ。
『おっす。フレンド申請送っておいたから承認よろしく!
あと良かったらそっちの景色とか送ってくれ。仲間に自慢してくる』
と書いてあった。
ひとまず届いていたフレンド申請を承認。
あとは適当に写真を撮って。
『こちらは見ての通りまだ何もない。
だけどすぐに立派な畑を作るから楽しみにしててくれ』
簡単なメッセージも付けて送信っと。
するとすぐに返信が返ってきた。
『うはははっ。本当に海底なのな。マジ最高。
もう何か支援しようと思ったけど何送ればいいか全然分かんないから、欲しいものがあったらリクエストしてくれ』
『初期装備で【はじまりの鍬】があるから当分は大丈夫。
でも地面耕した後、植える種をどうするかが悩みどころだ。
多分陸上の植物は植えられないだろうしな。
あ、間違っても金はいらないぞ。こっちには店どころか人が居ないからな』
『ちぇっ。100万Gくらいトイチで貸そうと計画してたのに』
トイチってのは10日で1割の利子っていうぼったくりの常套句だ。
ま、冗談なのは分かってるからな。
ひとまずメールはそこで終わらせて俺は今日の活動を開始することにした。
といっても、当面は開墾だけどな。
後書き日記
21xx年4月21日
ゲーム2日目にして自分の見通しが甘かったことが分かりました。
この世界、そもそもがそれほど文明が発達していないのです。
何が問題かというと、食文化についても発展途上。つまり、碌な食材も調味料も手に入らないのです。
手に入るとしてもそれは高価。
ゲーム開始してすぐの私に手が出せるはずもなく。
仕方ないので植物学スキルを活用して街の外の森で食べられるものを探しています。
しかし見つかるのは薬草の類が主。
……植物学ってそっち専門でしょうか。
いいえ、レベルが低いからだと信じましょう。
あと問題なのが、合間合間に出てくる魔物が邪魔です。
角ウサギならお肉になるからまだ許せますが、ゴブリンとか食べられない魔物は不要です。
ちなみに私の武器はナイフです。料理人なので刃渡りの短い刃物にプラス補正が付くんです。
どこぞのコックみたいに足技とかはありません。
お陰でこう、グサグサと肉に刃物を突き立てる感触が手に残ります。
残酷補正のお陰で血とか内臓が飛び出すことは無いですけど。
でもよく考えればトンカツとかを作る時に肉の塊を切るんですからその練習と思えば良いですね。
ちょっとこう、ずぱっと頸動脈を切り裂くとクリティカル判定になってくれるので、癖になりそうです。