畑に生きるもの
「ふたりは今後の予定とかって決めてる?」
「えっと今日はここで郷土料理を教えて貰うことになってて、明日は隣村に行こうと思ってるの」
「私も今日明日はクルミちゃんと一緒にお祖母ちゃんにお裁縫を習う約束はしてますけど、明後日以降は空いてます」
「なら折角だから明後日は皆で宝探しに行ってみようか」
「たから、さがし?……あぁ!」
「そういえば、そういうイベントでしたね、これ」
どうやら2人ともすっかりイベントの主旨を忘れてたみたいだ。
かく言う俺もこのままこの村で農作業してるのもありかなって思ってたところだ。
でも折角だしな。
島の人達は春祭りだって言ってたし、島の中央に向かえばお祭り騒ぎなのかもしれない。
「じゃあ、今日明日は各自でやることを済ませてしまおう」
「「はい」」
そう言って俺は再び畑へと向かった。
えっと昨日の老夫婦がどこかに居ると思うんだけど……あ、いたいた。
「おじいさ~ん、おばあさ~ん」
「おぉ、昨日の。どうかしたかね」
「勝手に耕しても良い畑ってありますか?」
「ん?おぉ。あるとも。むしろ今なら何も育ってない畑は耕し放題だよ。
そうかそうか。そんなに耕したいのか。
いやぁ、すまんね。息子たちが戻ってくる前にわしらだけで耕してビックリさせてやろうと思っておったが、君が代わりにやってくれると、実に助かるよ」
あ、あれ?
適当に1区画借りれたらって思っただけなのに、急に話が大きくなった。
<臨時クエスト:村の畑を耕せ を開始します>
あ~どうやらクエスト扱いらしい。
内容を確認すると、耕した範囲に合わせて報酬が増えるようだ。
期限はGWイベント最終日まで、と。
まぁ全部やらなくても良いみたいだし、予定より範囲が広がっただけと思おう。
「分かりました。
ところで、豆と大根以外はどうやって育てれば良いんですか?」
「ふむ、それなら芋と菜の花でも育てるかね。どちらも種があれば簡単に育つからの。
ただ菜の花の種はあるが、芋は山に入って……と、もう持っているのか」
「ええ、昨日この島に来た時に」
「なら話は早い。畑を耕しながらそれぞれの種を使えば大丈夫じゃ」
「なるほど、やってみます」
本来なら窪みを掘って、種を植えて、土を被せてと、面倒な工程が居るはずだけどゲーム的に簡略されるようだ。
早速空いている畑に行き、アイテムボックス内の芋を使うように選択した。
ついでだから昨日教えて貰った歌を歌いながらやるか。
「~~♪」
ザクッザクッザクッ
「~~~~♪」
ザクザクザクザクザクザクッ
……あれ?
気が付いたら1区画分が終わってしまった。
お昼ご飯の効果もあるけど、この歌のバフ効果とで相乗効果があるみたいだな。
耕す速度も上がってるし、全然疲れてないし良い事ずくめだ。
これだけでもこのイベントに参加した価値はあったな。
「よし、これなら全部の畑を終わらせられるかもな」
だけど、どうもそんな簡単には進めさせてくれないようだ。
次の畑に向かおうとしたところで地面が揺れ出した。
「地震!?」
「いかん! 早く畑から出なされ!!」
お爺さんが血相を変えて何か叫んでる。
畑の反対側だからうまく聞き取れないんだけど。
仕方ないから畑を横切って近くに行こうと思ったところで、それは現れた。
ズズズッ……ドゴッ
「ミィーー!!」
畑の中央から地面を突き破って魔物が現れた。
直径20センチ。長さは地上に出てる分だけでも2メートルを超えている。
「ミミズ?」
魔物っぽいからワームって呼ぶべきなのかもしれないけど、畑に居るからミミズだな。
そのミミズ魔物は頭をもたげると、俺を無視して再び畑に飛び込んだ。
「全長は5メートルを超えてそうだな。
って感心している場合じゃない」
ミミズが通った後にはポッカリと穴が開いていた。
そしてまだ地面が振動していることから、地中を動き回っているんだろう。
このまま行けばあれのお腹が満たされるまで何度も地中と地上を往復すると思われる。
つまり折角耕した畑を台無しにされるってことだ。
これは農家としては見逃せないな。
ズズズッ……
「そこだっ!」
ドゴッ、コンッ。
「ミィ?」
ミミズが顔を出したところを鍬で殴る。
ってそうだよ。鍬って攻撃には使えないんだった。
それでも一応気を引く効果はあったらしい。
ミミズは地面に潜ることなく、俺の方を向いた。
「おい、ミミズ。折角耕した畑を荒らすんじゃない」
「ミィ?」
「お腹が空いてるなら収穫が終わったのを食べさせてやる。
だから収穫前の畑で暴れるのはやめなさい」
「ミィ……」
じ……
お互い無言でにらみ合う。
俺の言葉は通じたんだろうか。
5分ほどそうして経った頃。
不意にミミズの眼力が弱まると同時に、するすると地中の中にあった部分も地上に出てきてヘビのようにとぐろを巻いた。
これは、お座り?
襲って来ないところを見ると、多分俺の言葉を聞いてくれたって事なんだろう。
「ミィ」
多分言葉にすれば「それで、何を食わせてくれるんだ?」ってところか。
なら前みたいにこれまで収穫したものを並べてみる。
「ミィ……ミッ(ぷいっ)」
一瞬、芋の前で視線が止まったけど、お眼鏡には適わなかったらしい。
この様子だと多分品質が低すぎるって事なんだろうな。
俺が持っているのは山で採ってきた野生のものだし。
なら。
「お爺さん。収穫済みの芋を分けてもらう事って出来ますか?」
「お、おぉ。そりゃ構わんがな」
「ありがとうございます」
お爺さんは魔物に驚いているけど、それでも俺に芋の入った袋を一つ渡してくれた。
えっと、品質は2か。
「これでどうだ?」
「ミィィ」
まぁまずまずと言ったところか。
食べてはくれてるけど、感動するほどおいしくは無いと言ったところだな。
「うちの畑で育てられるようになれば品質3も狙える気がするんだけどなぁ」
「ミミ!!」
「お、おぅ。今のところうちの畑で採れた野菜は全部品質3だからな」
「ミィ!」
「いやだから、そう興奮するなって。
ちゃんと育つのか確認しないといけないし、すぐには無理だから」
「ミィィ……」
すぐには無理と言われてしょんぼりするミミズ。
しまったなぁ。
言ったはいいけど俺の畑って海の中だから、育てられない気もするんだよなぁ。
後書き日記(続き)
無事にパーティーを組み終えた後、
カイリさんは畑に向かい、レイナさんはクルミちゃんとクルミちゃんのお婆さんの家に向かいました。
私は私で村のおばさんの指導のもと、パン作りに挑戦です。
厨房で小麦をボウルに取り出して塩と溶かしたバターと牛乳を加えながらコネコネ。
……って、待ってください。
このバターと牛乳ってどこから出てきました?
聞けば島の反対側に酪農が盛んな村があるそうで、行商人が10日に1回来て売っていくそうです。
この村では酪農はやってないのか聞いてみたところ、地中に生きる魔物が時々畑までやってくるので、無理だそうです。
地上から襲ってくる狼なら対処は出来るけど、地中の魔物の攻撃は家畜では避けられないし、地面を揺らされるだけでもパニックが起きるのだとか。
ちなみに島の東西南北で出る魔物も産業も少しずつ違うそうです。
この島って意外と広いんですね。
あと生産量は多くはないので、島の外にはごく僅かしか売りに出せないそうです。
これは農産物についてはカイリさんに頑張ってもらう必要がありそうです。
でも農家では乳牛とニワトリは飼えないでしょうから、どうにかしないといけませんね。
あ、牛乳はともかく、卵なら鳥の魔物が居れば手に入る可能性はありそうです。
イベントが終わって戻ったら調査してみましょう。
今はまずはパン作りに集中です。
そう言えばパン作りに欠かせないものと言えばイースト菌、というより酵母というべきですね。
えっと……え。ない?ふわふわのパンを作るには必須とも言えるのですが。
どうやらこの世界のパンはまだ硬いものが主流だそうで、スープに浸けて食べるのが一般的でした。
これは酵母作りは急務ですね。
ただ、その元となる果物を探すことから始めないといけません。
先はまだまだ長そうです。