生産者パーティー結成
一応、後書きのヒロインですが、話し言葉と書き言葉で若干変わります。
後書きが「ですます調」なのはそういう物だと思ってください。
リースの鍋に続いてお椀なども運び込まれて来る。
そして、リースがパッと鍋の蓋を取ると、部屋中に美味しそうな匂いが広がった。
鍋の中を見れば、俺の渡したツミレの他に菜っ葉が入っていた。
続いて大皿に山盛りの野菜炒め。
「おぉ~~」
「いいにお~い」
途端に周囲から歓声が上がる。
その反応にリースも嬉しそうだ。
そして鍋の中味がお椀に注がれて集まった村人全員に配られると。
「頂きます」
「「いただきま~す」」
「うめぇ!!」
「あちちっ」
挨拶もそこそこに口を付けた少年たちが飛び上がりそうな喜びようだ。
野菜炒めも我先にと箸が飛んでくる。
それを横目に見ながら俺も一口飲んでみる。
味付けは、多分塩のみだろう。
そこにツミレから出た出汁とスギナの独特の苦みが合わさって味に深みが出ている。
「うん、美味いな」
「ほんと。リースさんは料理上手なんですね」
「ありがと。でも褒めてくれるのは嬉しいけど、今回のはほとんどこのツミレのお陰ね」
「村の人達もあまり魚を食べる機会がないみたいだから大喜びだな」
そうしてあっという間に昼食を食べ終えた後、改めて話し合いをすることにした。
「昨日みたいな強引なナンパって多いのか?」
「私は前に1度、パーティーに誘われたはいいけど、生産職って分かった瞬間、見下された経験はあるわね」
「わたしは、過去に8回ほど。そのうち2回はかなりしつこかったですね」
「そりゃ多いな」
「このゲーム、生産職を蔑ろにする傾向が強いんだと思う。
特にレイナさんは見るからに服飾系の職人だって分かるから絡まれやすいんじゃないかな。
今着てる服だって自作よね?」
「あ、はい。私の場合、色々おしゃれがしたいなって思って最初に作れた服がこれなんです」
「うんうん、とっても可愛いわよ」
「ありがとうございます」
にこにこと笑い合うふたり。
やっぱり女子が集まると会話が華やかだな。
と、レイナさんが俺の方を向くとじっと見つめてきた。
「あの、カイリさん」
「な、なんだ?」
「カイリさんはどうして初期服のままなんですか?
服に無頓着な男性でも多少は防具を付けたりすると思うんですけど」
「あー……まぁそうだな」
「あっ。ごめんなさい。言いにくい事だったら別に」
俺が一瞬遠い目をしたのを、何か深い事情があるんじゃないかと勘違いされてしまった。
別にそんなことはないんだけどな。
「まぁ簡単に言うと今まで服を買うお金も無ければ、近くに服を売ってる店も無かったんだ。
ほら、俺って種族がこれだから、初期位置が人が全くいない場所なんだよ。
だからまぁ誰に見られる訳でも無いし、良いかなってほったらかしにしてた」
「なるほど。
あの、それなら今回のお礼に何か作らせて貰えませんか?
まだ手に入る素材が少ないので大したものは作れないかもしれないですけど」
「じゃあお願いしようかな」
「はい、お任せください」
「あ、そうだ。これ、少ないから手袋か小物くらいしか作れないかもだけど、使えるなら使って」
そう言ってアイテムボックスに放り込まれていた素材を渡す。
「これはウミヘビの皮?レア度3って!?こんなレア度の高いもの良いんですか?」
「俺が持ってても使い道無いからね」
俺がそう言うとリースが「はぁ」とため息をついた。
あれ、おれそんな変なこと言ったか?
「カイリさんって高価なものを何の気負いもなく渡してくるから怖いよね」
「そうか?」
「そうです!お昼のツミレだってレア度3の食材なんて初めて見ましたよ」
「あれはまぁ、俺の従魔が頑張ってくれた成果だからな。仕方ない」
「……なんでそこで自慢げなのかな。はぁ」
そんな顔してたのか?まぁしてたのか。
やっぱうちの子たちが褒められたら嬉しいからな。
「っと、話を元に戻すけど、ナンパというか強引な勧誘対策を何か考えないとな。
そもそもの原因としては、ふたりとも可愛いのに無防備に一人で居る事なんだよな」
「ふぇっ」
「カイリさん!?」
ふたりして変な声を出したかと思ったら顔を赤くしてる。
あれ、何か変な事言ったか?
「どうかしたか?」
「きゅ、急に可愛いとか言いださないでください」
「ん?ああ。リースはどっちかというと美人って言った方が合ってるか」
「そうじゃなくて!」
なんか余計に怒らせてしまったようだ。
おっかしいなぁ。可愛いも美人も誉め言葉だと思うんだけど。
「俺、また変なこと口走ったか?
まぁ、悪口じゃないと思うから見逃してくれ。
で、魅力的なのは仕方ないとして、ふたりって自衛手段って持ってるのか?」
「だからっ。はぁ、もういいや。
私は料理人だから魔物相手なら短剣、特に包丁を使えるけど、対人戦はからっきしね」
「…………はっ。
あ、えと。すみません、私は戦闘は全然したこと無くて。
スキルも針と糸とハサミを扱うものの他は素材集めと服作りのものしかありません」
「大丈夫大丈夫。俺だってほとんど農具しか扱えないからな。
一応、従魔術を初期スキルで覚えたけど、ここに従魔は呼べないから意味無いし」
戦力という意味ではレイナさんとそんなに変わらないだろう。
でもそうか、これなら二人の戦力アップは出来るかもな。
「リース。これを」
「これは?」
「毒薬と毒魚。あ、ゲームだし使用しなければ危険は無いから」
「は、はぁ」
「この毒薬を武器に使うとかなり強い毒属性が付くんだ。
短剣に塗って相手を傷付ければ、かすり傷でも相手を毒状態に出来ると思う。
ただ注意なのはこれ使って倒した獲物は、この魚みたいに毒まみれになって食べれないから」
「え、じゃあなんで魚まで出したの?」
「これで毒団子を作って罠が作れるかなって思って」
「……どこかの魔女か暗殺者ね」
「俺もそう思う。でも、ま。敵の口の中に放り込むとか使い道はあると思う」
「分かったわ。でも公共の調理場とかは使えないわね、これ」
「まぁな」
万が一、村人がその毒で倒れたりしたら大変だからな。
「で、レイナさんにはこれだな」
そう言って麻痺針と毒針を渡す。
「これは杭、ですか?」
「そう言いたくなる程大きいけど、分類は針だ。
棒手裏剣みたいに投げても良いし、手で持って刺しても良いと思う」
「あ、ほんとです。装備したら片手投擲武器(針)ってなりました。
スキルも本来は硬い布地用を貫く為の【針通し】が使えるみたいです」
「なら皮鎧くらいなら貫通出来そうだね」
「……完全に暗器に見えるのは私だけかな?」
「……」
「……ま、まぁ。女の子の防犯グッズってそういうものだし大丈夫大丈夫」
「はぁ~~」
リースのため息が深い。
まぁゲームだからね。気楽に行こう。
「さて、これで最低限の自衛は出来ると期待して、後はパーティーを組んでおくと良いかもな。
何かあったら助けに行けるし、誘われても『もうパーティー組んでますから』って言えるし」
「そうね。お互い種族が違うから普段の活動場所は違うかもだけど、このGWイベント中だけでも組みましょうか」
「はい、よろしくお願いします」
後書き日記(続き)
お昼ご飯を頂いた後。
カイリさんも交えて改めて今後の対策について話し合う事にしました。
ですがそこでひとつ問題が発覚しました。
薄々そうかなって思ってましたが、カイリさんってどこか常識がズレてます。
なぜあんな恥ずかしい事を何のてらいも無く言えるのでしょう。
一瞬、彼は日ごろからそういう事を言い慣れているのかなって心配してしまいましたが、どうやら思ったことをそのまま口にするのが癖みたいです。
裏表がないと言えば良いのですが、デリカシーが無いというか、もう少しオブラートに包んで欲しいです。
それと突然レアアイテムを渡すのはどうにかしてください。
出てくるアイテムがどれもこれも聞いたことのないものばかりなんですが。
攻略情報サイトにも載ってなかったですよ?
レイナさんとアイコンタクトを取れば、思いは一つ。
この人を野放しにするのは危険です。
何とか私達で手綱を握らないと大変な場所に行ってしまいそうです。
むしろ私達2人では無理かもしれないですね。
私たち以外にもまだ生産職の人が居るはずですし、犠牲者、もとい協力者を増やした方が良いかもしれません。