激闘の地上防衛戦
激闘と言いつつ激しい戦闘描写が無いのはいつも通りです。
Side リース
オープニングも無事に終わり、メインイベントが始まった。
カイリ君はその役目をしっかりとやり遂げて海中へと潜っていった。
「レイナ、そっちはいけた?」
「はい!ばっちり録画出来てますから後で送りますね」
「うん、お願い」
オープニングのシーンは後で運営が編集したものが公開されるだろうけど、それとは別で私達も撮影を行っていた。
カイリ君に言ったら恥ずかしがりそうだったからまだ秘密にしてある。
イベント終了後のお疲れ様会とかに映してびっくりさせよう。
っと、その為にもこのイベントを大成功で終わらせないとね。
現在は既に作成した5つの戦場で激戦が繰り広げられている。
魔物は海の魔物が1割、ワイバーンなどの飛竜系が5割。残りは悪魔とか妖怪とか言えばしっくりきそうな見た目の化け物。
こうやって見ると魔物の構成はちょっと竜系が多くなっただけで前哨イベントと大きく違いはない。
でも前哨イベントに比べて圧倒的に苦戦しているところを見ると1体1体の魔物は前よりずっと強くなっているようだ。
「リースさん、私達はまだ待機ですか?」
「初っ端からどこも結構厳しそうですよ」
「うん、まだ敵の出方がはっきりしないからもうちょっと待って」
私達ホーリーグレイルのメンバーは戦場となっている人工島には行かず、まだグレイル島で待機していた。
戦闘職のサクラさんとツバキさんは誰かが吹き飛ばされる度に今にも飛び出しそうな感じにソワソワしている。
でも魔物も黒龍の影……言いにくいから影龍ね。影龍も後ろに下がって戦況を見守っていることから現在戦っているのは敵の先鋒と見て間違いない。
だから最初から全力を出していたら後で息切れしてしまうだろう。
なので私達は当分後方支援だ。
グレイル島には前線で負傷したり状態異常を受けた人たちが治療にやってくるので、今は街の人たちと一緒にポーション類を配って回っている。
「すまねぇ、上級回復ポーションはあるか?」
「はーい、こっちで用意してますよ」
「左腕が石化されたんだ。解呪アイテムをくれ」
「はいは~い。成果払いだからしっかり働いてよ!」
「姉ちゃんかわいいな。これが終わったらデートしてくれよ」
「あはは~……いいから死んで来い!!」
時々変なのが混じってくるけど、結構な頻度で重傷者がやってくる。
戦場にヒーラーも居るはずだけど間に合ってないようだ。
まあ、リアルと違ってポーションで一瞬で回復出来るのが良いところよね。
そうしてイベント開始から1時間が経過した時、戦況に変化が生まれた。
「リースさん。4会場で海中から大型の魔物が出てきました!
それと同時に中型の魔物と小型のもぞろぞろと上がって来てます」
「残りの1会場はどこ?」
「中央です。恐らくカイリさんが居るお陰かと思われます。
その代わりなのか中央には飛行系の魔物が増えてますね」
「そう。楽はさせてくれないか」
会場の様子を確認すれば一気にプレイヤー側が劣勢に立たされていた。
特に魔物に海中に逃げられてしまってはほとんどのプレイヤーには手が出せないのだ。
魔物が海上に出てきたところを叩くしかないのだが、いつ出てくるかも分からないし地上にもまだ魔物は残っているのでそちらばかり気に掛ける訳にもいかず、結局は奇襲に近い形で攻撃を受けることになっている。
更に会場のひとつは早くもダメージが酷く、崩壊・沈没こそしてないものの巨大な亀裂がいくつも出来てしまっている。
あそこは確か会場設営ランキング最下位の場所ね。
プレイヤーもだいぶやられてしまっているし、このままじゃ戦場自体が崩壊しかねない。
仕方ない。こうなったら……
「リースさん!」
「今度は何?」
「南方から各戦場に向けて戦艦が多数接近してます!」
「南方から?……まさか!」
慌てて海上を見渡せば戦場ごとに違う旗を掲げた戦艦が戦場へと突入していくところだった。
「はっはっはぁ。戦ある所に我あり。
勇敢なる武国の戦士たちよ。一食一飯の恩義に報いるは今この時ぞ。
気合をいれろっ!」
「「おおおっ!!!!」」
大地を轟かす大声でそう叫んだのはきっと武国の神様。
その勇猛さは流石武神と言える。言えるんだけど一食一飯って、それを言うなら一宿一飯じゃないかしら。
まぁカイリ君がお世話したとしたら食べ物だけだから間違ってはいないのかもしれないけど。
でも一番劣勢だったところに乗り込んでくれたお陰で一気に戦況を5分まで押し返していた。
「あんな筋肉馬鹿どもに後れを取ってはならぬ。わらわ達も行くのじゃ。
愛と勇気とスイーツの力があれば不可能などないと北の魔物たちに示すのじゃ!!」
「「はい、主にスイーツの力で!!!」」
船の上でふかふかのソファに座って指揮を執るのは愛国のロリ神様。
あそこはいつもながらにアクが強い。
見た目も派手だが、そのトリッキーなスキルで魔物たちを翻弄していく。
「全艦主砲発射。海の魔物どもを蹴散せ!!」
「全艦主砲発射!!」
「野蛮な肉弾戦ばかりの奴らに魔道具のすばらしさを見せ付けてやるのだ」
「「サー、イエッサー!!」」
轟音と共に魔導砲を放つのは法国の戦艦。
あそこだけ何というか時代が違う気がする。
大砲を放ち、魔導銃を構えた軍隊はまさに近代国家だ。
そして最後。
他の3国に比べると統一感のない中型から小型の船中心に編成された艦隊が戦場に乗り込んだ。
「さあ皆さん。払ったお金の分はしっかり働いてくださいよ!サボったら減給ですからねっ」
「へいへい。野郎ども、やるぞ」
「「おうっ」」
装備も種族も何もかもバラバラな集団。
まるで傭兵。いや、傭兵そのものか。
あれって多分商国の神様なのよね。まさに狸親父って感じだけど。
「ここで恩を売って竜宮王国と有利な形で通商条約を結べば、今回分の出費は倍になって返ってくるのです。ふひひっ」
いや、知らないわよ。
確かカイリ君、バロンソさん経由でしか商国とは商売しないって言ってなかったっけ。
商国の神様ともあろう人がちゃんと契約を結ばずに皮算用で商売しちゃダメよね。
あと所詮傭兵なのか、商国が支援に入ったところが一番劣勢なんだけど。
もっと頑張りなさいよ。
でもこれで、支援が入らなかった中央を除いてだいぶ持ち直したわね。
なら中央は私達の役目かな。
「よし、私達も動くわよ」
「出番ね」
「待ってました!」
私の掛け声にサクラさんとツバキさんが元気よく構える。
その肩にはパートナーの鳥が止まっていた。
「フブキ、行くよ!」
「ピィー」
「ミゾレ、みんなに格好いいところ見せるよ!」
「ピィピィ」
2人と2羽は背中の翼を広げるとあっという間に大空に飛び上がってしまった。
もう完全に空を自在に飛べるのね。
「行くよフブキ。【氷雪旋風】」
「サクラちゃん最初から飛ばすねぇ。ならこっちも負けてられないよ。
ミゾレ【ライトニングバード】だ!」
片や戦場の一角を氷の彫像だらけにし、片や巨大な雷の矢になって戦場を駆け抜ける。
「おい見ろ、飛行型クラスだ!」
「かっこいい~」
「あっちの進化ルート本当にあったんだ……」
「よっしゃ、俺達も負けてられないぞ!」
「「おおおおっ」」
2人の大技に中央の戦場が興奮に包まれた。
そう言えば空の神様の祝福を受けて進化したのってサクラちゃん達以外はほとんどいないって話だし、ある種憧れの的なのかも。
そして2人に感化されて地上で戦っていたプレイヤー達も大技を披露し始めた。
さしずめプレイヤースキルの博覧会ね。
そうしてイベントが始まって2時間が経過した時。
「GRAAAAAッ」
遂に影龍が重い腰を持ち上げた。
ここからが終盤戦。
さあ、影とはいえ前回好き放題されたお返しをしてあげないとね。
後書き日記 ダンデ編
運営やってくれるじゃねえか。
マジで全部の魔物がボス級で居やがる。
こりゃ組織立って動かないとマズいな。
「アーチャーは飛んでる奴らを頼む」
「おう。霊峰で鍛えた腕の見せ所だぜ!」
「残りは5人以上のグループになって戦え。
間違っても突出して孤立するなよ!」
「「了解!」」
魔物との人数比で言えば1:5でこっちの方が多い。
と言っても向こうは全部ボス級なのに対し、こっちは半分非戦闘職だ。
俺ですらバフでステータス増し増し状態なのに何とかタイマンで勝てるかもって感じだ。
これはカイリの開幕バフが無ければマジで蹂躙されて終わってたな。
「って、デカいの来るぞ!」
「任せろ。おおおぉ!!」
魔物の大技に『鉄壁のガンテツ』が立ちふさがる。
おぉ、流石防御力ランキング1位は伊達じゃない。見事防ぎ切りやがった。
「いまだ。切り込み隊。行くぞ」
「「よっしゃあ」」
スキル硬直で動きの鈍った魔物にアタッカー数名で切りかかる。
槍使いが魔物の肩を突き防御を崩せば、そこに俺の大剣が袈裟切りに切り裂き、ハンマー使いが頭を叩き割る。
「よし、退くぞ。遅れるなよ」
「分かってるよ」
他の魔物に囲まれる前に急いで下がる。
追いすがって来た魔物は別のプレイヤー達が迎撃しダメージを与えていく。
よしよし。
良い感じに攻略パターンが出来つつあるな。
って、早々楽はさせてくれないか。中ボスがダースでお出ましだ。
さっきまでのが最初の島に出てきたボスなら今度は中央島付近に出てくるボスだな。
油断したプレイヤーが数人、空に撥ね上げられていく。
まったく北部はどうなってるんだ?
こんなのがほいほい出てきたら人間なんて生きていけないだろ。
それとも弱肉強食の魔物の楽園みたいなところなのか?
まったく。
これから行くのが楽しみになってくるじゃねえか。