リベンジマッチ
さて、これで俺が地上に呼ばれた理由は終わったかな。
各戦場の事はそこにいるプレイヤー達に任せれば良いし、たとえどこかの戦場が負けて他の地域に魔物が流れたとしても俺達に責任はない。
襲撃を受けて被害ゼロでしたっていう方が虫が良すぎる話だろう。
もちろん後から復興の手伝いはするつもりだけど。
「そう言って、近隣の島には4大国家から防衛部隊を派遣してもらってるんでしょ?」
「こらこら。人の心を読まない」
「だってカイリ君。今、心配症のお父さんみたいな顔をしてたよ?」
「げ、マジか」
そこはせめてお兄さんでって、あまり変わらないか。
ま、まぁ。とにかくこれ以上の介入は過保護だろう。
他のプレイヤーだって決して弱くは無いのだから。
むしろタイマンで戦ったら俺より強い奴だって何人も居るだろうし。
後はグレイル島だけど、こっちもリースに任せれば良いな。
「よし、じゃあ俺は海中に戻って皆の指揮を執ってくるよ」
「うん、後の事は任せてね」
リースに見送られながら俺は海中に潜った。
そこにはヤドリン達を始め、魚人族の戦士たちが整然と整列し俺の号令を待っていた。
北の海域に目を向ければこちらに向かってきている魔物たちはまだ若干の距離があった。
ちなみに今回はここ以外の戦場にも海中から魔物が侵攻すると思われる。
その場合は海中を素通り、ではなく、わざわざ海上に上がって戦場に参加するそうだ。
いくら広い戦場を用意したとは言え、空と海の両方から一度に攻めたら空間が足りなくなるからな。
その為に時間差を付けて攻めてくる腹積もりらしい。
俺はみんなに向き直ると声を張り上げた。
「みんなも知っての通り、竜宮王国は半月前に魔物の襲撃により壊滅的な打撃を受けた。
あ、その事でここに居る魔物たちを責める気はないから安心して欲しい。
しかしだ。
今また前回とは違う魔物たちがここに攻め入ろうとしている。
いくら温厚な俺でもそう何度も大切な国を傷つけられて平然としている気はない。
奴らにはここを襲う事がどれほど無謀な事なのかをその身をもって味わってもらうつもりだ。
その為にもみんなの力を借りたい。
ここは俺が興した国だがみんなの国でもある。
だからこそ、みんなの力でこの国を守ろうじゃないか。
だけど忘れないで欲しい。
守りたいのは今だけじゃない。未来もだ。
未来を守るためにはここに居る全員が生き抜くことが重要だ。
みんなの大切な人達がみんなの帰りを待っているんだ。
だから必ず生きて帰って欲しい。いいな!」
「「はっ」」
俺の言葉に力強く頷く魚人達。
そこに悲壮感はない。その事に安堵しつつ指示を出そうとしたところで連絡が入った。
「鋼農園から入電。こちらに異常なし」
「以上か?」
「はい、以上です」
「わかった。現在確認されている魔物の数は?」
「今わかる範囲で上級か最上級と思われる魔物の影が1つ。他、中級の魔物が75体、下級の魔物が4万~5万体です」
「そうか」
数だけで言えば前回の1/10程度か。
それでも魚人族の戦士が約1000人なので数の差は歴然としている。
「みんな聞いての通りだ。
一番危険な魔物は俺が抑える。
その間に、みんなには中級の魔物を対応して欲しい。
なに。75体全てが一度に襲い掛かってくることはない。精々10体前後だ。
だからみんなは中級1体に付き50人~100人で集中攻撃して撃退して欲しい。
無理に倒さなくても追い返せば勝ちだからな。深追いはするなよ」
「あの、下級の魔物は如何致しますか?
中級を攻撃しようにも周りに付き従う奴らが居ては苦戦は必至ですが」
「そっちは任せて欲しい。強力な助っ人が居るからな」
「は?そんな人達がどこに?」
「まぁすぐ分かる。一つ言えるのはたった5万程度なら余裕だ」
「は、はぁ」
「ヤドリンは最終防衛線を頼む」
「くぃ!」
「よし、全員行くぞ!」
「「はっ!!」」
そうして俺を先頭に海溝部を北に抜けて迫りくる魔物たちと対峙した。
……なるほど。
確かに数こそ前回より圧倒的に少ないが飛んでくるプレッシャーは今回の方が強い。
特に最後尾にドンと構えている巨大な影は黒龍にも劣らない存在感だ。
だけどまぁ、今回は負ける気がしないな。
それはそう。数の上でも負ける気がしない。
『よし皆。リベンジマッチと行こうじゃないか』
「「……!……!」」
俺のその言葉に彼らは声なき声で応えた。
その熱いエネルギーが頼もしい。
『さあ、奴らにどちらが上位のヒエラルキーか教えてやるぞ!』
「「!!」」
俺の号令を受けて海底を色鮮やかなモノたちがイワシやアジの魚群のように巨大な蛇になって走り抜けていく。
緑、赤、紫、黄色、茶、白。
それはちぃズ、みぃズなどの精霊であり、そして竜宮農場の作物そのものだった。
緑鮮やかなほうれん草が剣となって魔物を切り裂き、大根が鋼鉄のバットのように魔物をなぎ倒す。
真っ赤なトマトはその身を魔物の顔にぶち当てて光を奪い、真っ白いもやしが千の針となって魔物たちを縫い付けていく。
1つ1つの作物が意思を持ったように的確に魔物の弱点を攻める様はまさに洗練された軍隊であるかのようだ。
そうして無力化された魔物たちは竜宮農場に運ばれ一部は畑の肥やしとなり、また一部は待ち構えていた主婦の方々によって捌かれて料理されていった。
「前回が数十万体だったって話だから100万体来ても戦えるようにと思って張り切ったんだけど、やり過ぎたな」
それは正に数の暴力だった。
海を塗りつぶす勢いで魔物に襲い掛かる作物たち。
しかも凄いことに時々スキルまで使っている。
……あんなスキル俺は使えないんだけどどうやって覚えたんだ?
って、もしかして、前のイベントでダンジョンに訪れた人たちに畑に向けてスキルを使ってもらった事があったけどそれで覚えたのか。
あの時は品種改良になればと思ってたけどこんな副次効果があるとは驚きだ。
作物たちが走り去った後には数万体居たはずの下級魔物はもう数える程しか残っておらず、居るのは配下を倒されて怒り狂った中級魔物のみだ。
奥のボスが一切動じていないのは流石というべきか。
ただ、この光景を見た魚人族達にも動揺が走っていた。
「……なあおい。これなら俺達要らないんじゃないか?」
「ああ。俺達だって今のに襲われたらひとたまりも無いぞ」
「このまま中級魔物も倒してくれちゃったりしてな。ははっ」
確かに強力ではあるんだけど、無敵って訳じゃなく弱点もある。
現にもう全ての作物たちはその弱点の為に畑へと撤収してしまった。
だから彼らが不要なんてことは決してない。
「残念だけど、そうもいかない。
作物たちは活動時間が凄く短いんだ。
畑から離れて動けるのは精々30分と言ったところだろう。
だからここからは皆が頼りだからな!」
「は、はい!」
「分かりました!」
魚人族達が気合を入れなおしたのを見届けた俺は奥に居るボスを抑えるべく奥へと進んだ。
多分あのボスには魚人族達では手も足も出ないだろうからな。
後書きの鋼農園
ここは竜宮王国から北に少し行った所にある鋼農園。
元々何もなかった大地を海王様、あいや、今は海神様か。その海神様が俺達の為にと畑を造ってくださった場所だ。
本来なら俺達はあのお方に皆殺しにされても文句を言えないような酷いことをした。
にも拘らずあのお方は俺達を笑って許すどころか、こうして飢えに苦しむことが無いようにと手を差し伸べてくださった。
ならばだ。
せめてここを守ることくらいは俺達の手でやらないとな。
竜宮王国の方には『北海の4獄獣』と呼ばれる最悪の魔物の1体が多くの魔物を引き連れていくのが見えた。
あ、多くと言っても実際にあれに付き従っている魔物のほんの一部のみを連れてきた感じか。
本当なら中級魔物だけでも1000は余裕で超えるだろうからな。
その更に1部。
中級魔物25体と下級魔物1500体が本隊と分かれ、こちらに向かって来ていた。
「竜宮王国に連絡はしたか?」
「ああ。予定通り『異常なし』って伝えておいたぞ」
まったくよぉ。
以前ならあの中級魔物が1体でも来たら慌てて逃げ出してた俺達がだぜ。
こうして何かを守るために歯ぁ食いしばってるんだ。信じられるか?
だがまぁ悪くない。ああ、悪くない。
「今の俺達は最高に格好いいだろっ!!」
「へっ。そういうのは震える膝を止めてから言えよ」
「それを含めても昔の俺達より断然格好いいだろ」
「へへ。違いないな」
「よし、じゃあやるか」
「おおっ」
……
…………
へ、へへ。
見たか。俺達の力で中級魔物を12体も撃退してやったぜ。
やっぱ食いもんが良くなれば俺達だってこれくらい力が発揮できるものなんだな。
へへへっ。
しかしま、ここまでが限界か。
流石にもう体に力が入らねぇ。
「おぅ、生きてるか?」
「あぁ。何とかな」
「はぁ。最後にもう一回だけ海神様の料理を食べたかったな」
「あぁ、そうだな」
俺達の目の前にまだぴんぴんしてる中級魔物2体が迫って来た。
どうやら活きが良かった俺達を美味しく頂こうって腹積もりなんだろう。
残念だったな。俺達は海神様の料理に比べればクソみたいなもんだ。
精々腹でも下してるんだな。
そうして最後に笑ってやろうとしたら1体が袈裟切りに真っ二つにされて絶命していった。
「は?いったい何が……っ!!」
更にもう1体も横から飛んできた光線によって消し炭に変わる。
ああ。こんなことが出来るのはあの方たちだけだろう。
「きょっ(よく頑張ったな)」
「ぴっ(後はゆっくり休んでなさい)」
海神様の守護騎士と呼ばれるお二方が来てくださったんだ。
あぁ。やっぱ格好いいなぁ。




